*

あの伝説の一戦「3連勝4連敗」から9年|羽生善治・永世七冠誕生

公開日: : 最終更新日:2017/12/11 オススメ書籍, ニュース

2017年12月5日、長い将棋の歴史に新たな偉業が刻まれた。羽生善治が竜王位を奪還し永世竜王となり、その結果として7タイトル全てで永世称号を獲得したのである。もちろん史上初、前人未到の大偉業であり、これを次に達成できる棋士などいるのだろうか、というほどの圧倒的な記録だ。

 

kuzushi shougi

 

 

今年は史上4人目の中学生プロ棋士となった藤井聡太の大躍進など、将棋界に大きなニュースが相次いだ。しかし、今年一年を締めるに相応しい風格を漂わせるのは、やはりこの人、羽生善治を置いて他にない。新聞等各ニュースでも大々的に報じられたように、もう本当に驚異的な実力であり、いくら人工知能が人間の棋士を凌駕するようになった今でも、こんな偉業を自分の目で見ることができる感動は、何物にも代えがたい。

 

 

そんな今回の大記録を打ち立てた羽生善治だが、もちろんここ至る足跡も圧倒的だ。そしてその歩みを理解するのにベストの一冊が本書『羽生善治 闘う頭脳』だ。将棋ファン以外にも、羽生の凄さを的確に伝える素晴らしい記録となっているので、ぜひこの機会に読んでみて欲しい。

15歳でプロ棋士になってから30年、将棋界のトップランナーとして走りつづける天才・羽生善治。その卓越した思考力、勝負力、発想力、人間力、持続力はどこから湧き出るのか―。勝負と格闘してきた日常より生まれた彼の言葉は、将棋の枠だけには収まりきらない深い含蓄に溢れている。ビジネスにも通じる発想のヒントが満載です。

 

 

 

そしてもう一つ、僕が今回の「永世7冠」達成の報を知って思い起こしたのが、9年前のあの伝説の一戦である。2008年に行われた第21期竜王戦七番勝負。当時、渡辺竜王に羽生名人が挑んだ、名人対竜王という将棋界2大タイトル・ホルダー同士の対決というだけでなく、この勝負を制した方が史上初の永世竜王位を獲得できるという意味でも、極めて注目度が高かったあの試合だ。

 

フランス・パリで行われた第1局で勝利を飾った羽生善治名人が一気に3連勝をおさめ、いよいよ永世竜王位にあと一勝と手が届きかけたそこから、渡辺竜王の反撃が始まり、まさかの4連勝で大逆転勝利で永世竜王に輝いた、あの伝説の名勝負。奇跡ともいえる将棋タイトル史上初の「3連敗からの4連勝」で、将棋界に衝撃を与えた渡辺明。しかし、羽生善治が受けた衝撃はそれ以上だったと言ってもよいだろう。

 

当時の羽生の心境が明かされたのが、自身がその後に著した名著『大局観』の中においてだった。負けた羽生はこの戦いのことを深く振り返りこう語る。「ただ、一つだけ言えることはこの『三連敗四連勝』で私の棋士としての人生観にも変化が訪れたのであった」と。本書も稀代の名棋士が著した傑作として、ぜひもっと多くの人に読んでもらいたい一冊だ。

すべては決断から始まる。勝敗を左右する判断。直感と経験はどちらが正しいか。現役最強の著者が勝負の哲学を徹底公開する決定版。大ベストセラー続編。考え抜いても結論がでなければ「好き嫌い」で決めていい。年齢を重ねるごとに強くなる「大局観」の極意を公開。60歳、70歳でも進化する勝負の法則、直感力・決断力・集中力を極める。

 

 

 

そんな大激戦を制して史上初の永世竜王に就いた渡辺明もその後の著書『勝負心』で、この伝説の一戦を振り返る。そして本書の何よりの特徴となっているのが、行間から溢れ出る、渡辺の羽生に対する尊敬と畏敬の念である。将棋界の頂点に立つこの二人が幾たびと相まみえ激闘を繰り返してきたのがここ十年の将棋界であり、だからこそ同じ一線を両者の視点で振り返るのは大変に興味深いと言えよう。

羽生善治が最も恐れる男。ゲンは担がない、将棋に運や調子は関係ない、すべて実力…現役で唯一羽生善治と互角に渡り合うトップ棋士が勝負を制する極意を語る。弱冠二十歳で棋界最高位「竜王」を獲得、五連覇で初代「永世竜王」、そして竜王戦九連覇を果たした著者が、「ゲンは担がない、将棋に運やツキは関係ない、すべて実力」という、徹底的にドライな勝負の極意を語る。

 

 

 

そう、あの伝説の一戦から9年が経つのである。歳を重ねて体力が弱まる一方で、若手棋士の台頭や、人工知能の躍進など、この9年間、羽生善治にとって心休まる瞬間など片時もなかっただろう。それなのに、同世代棋士たちの引退を見ながらも、この間ずっと第一線で戦い続け勝利を納め続けたという結果だけはなく、この9年もの間、トップの地位に慢心することなく、常に次のタイトルを目指し、向上心と日々の鍛錬を忘れず、貪欲に学び続けてきたその姿勢にこそ、われわれは今胸を熱くするのではないだろうか。羽生善治は不世出の天才棋士であると同時に、真理を追究する求道者として、長い長い将棋の歴史の中でいま圧倒的な存在感をさらに強くしているのである。「永世七冠」の称号は羽生にこそ相応しく、羽生以外の誰一人想定できないほどに、彼のためにこそ存在する栄誉なのだ。

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

クラフトビール業界ナンバーワン・ヤッホーブルーイング自慢のIPA「インドの青鬼」の苦みが最高に旨い

今年もまたビールが旨い季節がやって来た。もちろん、クラフトビール飲んでますよね?数年前から盛り上がり

記事を読む

プレゼンを準備する前に繰り返し読みたいおすすめの一冊『TED TALKS』

話題の一冊『TED TALKS』を読んだ。ご存知いまや圧倒的なプレゼンスを獲得したTEDカンファレン

記事を読む

emotional highs and lows in facebook

『ヤバい予測学』とフェイスブックデータが示す感情の起伏

フェイスブックのデータ・サイエンティストたちは毎度興味深いデータを見せてくれる。それは「フェイスブッ

記事を読む

japanese dictionaries 1

三省堂『辞書を編む人』が、今年の新語を募集中

時を経て社会は変容し、そして言葉も変遷する。いつの時代もワカモノの言葉づかいに口喧しい人はいるが、し

記事を読む

秘境・辺境探検家の高野秀行はセンス抜群の海外放浪ノンフィクション作家

世界の秘境・辺境探検家である高野秀行の作品はどれも類例のない傑作ノンフィクションばかりなのだが、本書

記事を読む

人間はアンドロイドになれるか|ロボット工学者・石黒浩の最後の講義

大学教授が定年退官の前に行う授業、それがこれまでの「最後の講義」だった。しかしそれを文字通り、自分が

記事を読む

gated community 1

アメリカ地方自治体の分断:富裕層による独立運動

先日のNHKクローズアップ現代を興味深く視た。「“独立”する富裕層 ~アメリカ 深まる社会の分断~」

記事を読む

経済学と歴史学そして自然実験

2010年に出版されていた "Natural Experiments of History" がよう

記事を読む

most popular sport in the U.S. is NFL

世界で最も成功したスポーツビジネス:アメフトNFLとスーパーボウル

米国で最も盛り上がるスポーツイベントと言えば、アメフトのスーパーボウル。個人的にはいまだにアメフトの

記事を読む

若い読者のための経済学史と哲学史

米国イェール大学出版局の "A Little History" は、歴史や文学そして経済学といった学

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

ヒマラヤ山脈でイエティの足跡を発見|雪男は向こうからやって来た

ヒマラヤ山中で伝説の雪男「イエティ」の足跡を発見したと、インド軍が公式

今年の科研費採択者におすすめ|研究関連事務を劇的に効率化するクラウドサービス

さて、先日は今年度の科学研究費助成事業(科研費)の採択者が発表された。

日本に残る最後の秘境へようこそ|東京藝術大学のアートでカオスな毎日

いよいよこの書籍が文庫化されましたね。そう、2016年に出版され大きな

春になり大人になったら辞書を買おう|これがいま日本で最も売れている国語辞典だ

さて今年も4月になり、進級・入学・入社とおめでたいイベントが相次いだ。

ブラックホールを初めて写真撮影|いまこそ宇宙論がおもしろい

さて先日は、人類史上初めてブラックホールの撮影に成功したという記者会見

japanese dictionaries 1
卒業・進級・入学のお祝いに|今も昔も定番の国語辞書をプレゼント

いよいよ春も近い。それはすなわち、卒業シーズンを迎え、そして進級・入学

NHK「最後の講義」物理学者・村山斉を見逃すな

先日のNHK「最後の講義」みうらじゅんが圧倒的に面白かったのは既にお伝

NHK「最後の講義:みうらじゅんの幸福論」が面白すぎた

2/2(土)に放送されたNHK「最後の講義」に登場した、みうらじゅん。

PAGE TOP ↑