数学ミステリー白熱教室|数学と物理学の驚異のつながり
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最終更新日:2015/12/07
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「NHK『数学ミステリー白熱教室』本日最終回をお見逃しなく」でも書いたように、先週末でNHKの「白熱教室」シリーズ最新作である数学編が終了となった。米カリフォルニア大学バークレー校のフレンケル教授の白熱講義を全4回、僕自身とても興味深く視聴した。

もしも残念ながら見逃してしまった方には、ぜひフレンケル自身による著書『数学の大統一に挑む』をすすめたい。本書を読み、今回のNHKの白熱教室のメインテーマとなっていた「ラングランズ・プログラム」の壮大な試みを垣間見てはいかがだろうか。
憧れのモスクワ大学の力学数学部の試験に全問正解したにもかかわらず父親がユダヤ人であるために不合格。それでも少年は諦めず、数学を学び続けた。「ブレイド群」「リーマン面」「ガロア群」「カッツ・ムーディー代数」「層」「圏」…、まったく違ってみえる様々な数学の領域。しかし、そこには不思議なつながりがあった。やがて少年は数学者として、異なる数学の領域に架け橋をかける「ラングランズ・プログラム」に参加。それを量子物理学にまで拡張することに挑戦する。ソ連に生まれた数学者の自伝がそのまま、数学の壮大なプロジェクトを叙述する。
さて本シリーズ最終回は「数学と物理学 驚異のつながり」というタイトルで、今回のテーマ「ラングランズ・プログラム」が数学の各分野をつなげるだけでなく、数学と理論物理学をも橋渡しするという、とてもエキサイティングなものだった。
最終回は「ラングランズ・プログラム」の考え方をさらに拡張して、理論物理学の世界へも橋をかける試みを見る。フレンケル教授は、全ての物質の根源となる素粒子の性質を理解することが、いかに数学の理論(特に対称性)の後押しによって進展してきたかを強調する。実際、クォークの発見は純粋数学の理論から予言されたものだった。さらにこの10年間で、量子物理学やスーパーストリング理論の世界とラングランズ・プログラムとの関係が次々と発見されてきたという。抽象的な数学を突き詰めれば、やがてこの宇宙の法則を次々と解明することに繋がるとも考えられるのだ。それにしてもなぜ、抽象世界を描くはずの純粋数学が、現実を記述する物理学と深いつながりを持つのか…。この「自然科学における数学の不合理なほどの有効性」はどこからやってくるのか…。数学は単なる抽象的な存在ではないのではないか…。
フレンケル教授が、私たちのすぐそばにパラレルワールドのように存在する“隠された実態”としての数学を、私たちに気づかせる!
個人的にもっとも興味深かったのが、数学者のフレンケル教授が、宇宙物理学の研究トピックである四つの力(重力、磁力、強い力、弱い力)やヒッグス粒子にまで踏み込んで語っていたことである。以前に大栗教授の名著『強い力と弱い力』を大変おもしろく読んでいただけに、こうした最先端の宇宙論と、数論の対称性がこんなにも密接に結びついていたなんてという驚き!これはぜひ、フレンケル教授の『数学を大統一する』と合わせて、こちらの『強い力と弱い力』も合わせて読んで欲しい。「ラングランズ・プログラム」が2倍も3倍も面白く感じられるはずだ。
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