フィナンシャル・タイムズと昼食を:2人の投資家が体現するアメリカ社会の変容
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最終更新日:2015/07/17
英語
以前に「フィナンシャル・タイムズと昼食を」で紹介したように、フィナンシャル・タイムズ紙の日曜版に掲載される “Lunch with the FT” がなかなかに面白いのである。大企業経営者から政治家、そしてアーティストや経済学者まで、非常に幅広く人選し、ランチを一緒に取りながら基本フランクにでもときにぐっと迫る質問をする、そんなカジュアルなインタビューコラムなのである。
以前紹介した時には、いまをときめく投資家ピーター・ティールが登場した時だった。僕も「おすすめ経営書『ゼロ・トゥ・ワン』」に書いたように、彼の初めての著書『ゼロ・トゥ・ワン』は昨年もっとも注目されたビジネス書の一冊となり、全米同時発売の一大ベストセラーとなった。
さて、そんなフィナンシャル・タイムズのランチ・インタビューだが、先週の相手はやはりシリコンバレーの著名ベンチャーキャピタリスト、マーク・アンドリーセンだった (Lunch with Marc Andreessen)。今もネットスケープ創業者と紹介されることが多い彼だが、いかに当時画期的だったとはいえ、いまやもう昔となったその会社を知らない世代の方が現在では多いのかも知れない。
そういう隔世の感を、今回のインタビューコラムを読みながら強く感じたのである。とくに、それはアンドリーセンとティールを比較した時に顕著だ。いまや時の人ととなったティールは、スタンフォードのロースクールを卒業後に法曹界での挫折を経てシリコンバレーに戻ってくる。エンジニアではない彼だが、企業内で無限のように続く出世競争に巻き込まれないためには、圧倒的に勝てる独占的な優位性を築くことが必要と考え、そしてペイパルを創業する。
その事業を軌道にのせた後はイーベイに売却してエグジットし、その後はフェイスブックの最初の外部投資家となる他、ペイパル・マフィアと呼ばれる仲間たちと次々と新しい起業に投資し、世界を動かしていく。果ては、国家とも対峙し、自ら新たな国家建設に乗り出すような “Big Thinker” でもある。テロや医療といった現代の重要課題に対しても、ビッグ・アイデアで解決できると言い切る彼こそが、実に現代的であるというのを、とくにマーク・アンドリーセンと比較して感じたのである。
ぜひとも『ゼロ・トゥ・ワン』でのティールの主張を踏まえ、Lunch with Peter Thiel と読み比べてみると面白い。そしてまた、アンドリーセンの時代からティールの時代へとシリコンバレーが変遷してきた様は、「『ゼロ・トゥ・ワン』のティールと米国社会の変容『綻びゆくアメリカ』」でも書いたように、まさにこの数十年のアメリカという国家と社会の変容を反映しているように思えてならないのだ。常にダイナミックな生態系を示すシリコンバレーだが、そのダイナミズムの光と影をすくい取り、現代の成功者の象徴であるティールと、数多くの疲弊した人物を対照的に描いたこの『綻びゆくアメリカ』は、非常に読み応えのある一冊となっている。
最後に、この “Lunch with the FT” はときどき本当にユニークな人選をするのだけれども、Lunch with Spy Chief では、 なんと英国のあのインテリジェンス組織 MI6 のトップに話を聞いていたりするのである。スパイのボスと白昼堂々とランチし、その組織について実にフランクに色々と聞いてしまうというのは、なんとも衝撃的である。ただ、いまどきのMI6は、公式ウェブサイトで人材募集していたりするので、昔のイメージのような秘密のベールに包まれている、というわけではないのかも知れないね。
いずれにしろ、このフィナンシャル・タイムズのインタビューはおすすめ。簡単な英語で気軽に読めて楽しめる、まさに休日に相応しいコラムとなっているのだ。もしもさらに興味を持ったならば、過去のインタビュー記事をまとめた以下の書籍もぜひ読んでみて。
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