[おすすめ数学テキスト]政治学・社会学のための数学基礎講座
経済学Ph.D.課程の多くでは、夏の間に新入生向け の数学基礎講座(通称 Math camp)を開講することが多い。その際の定番テキストが、Simon & Blume の “Mathematics for Economists” である。
そして、今月9月から新学年度が始まった国際大学でも同様に、新入生向けの数学講座を開いており、今年は先日まで僕もその授業を担当してきたところなのだ。今回初めて数学を教えるにあたって考えたのが、どのテキストを使おうかということ。上述の Simon & Blume は確かに定番なのだが、それは経済学のPh.D.生を対象とした場合のこと。
前回「国際大学の新しいアカデミック・イヤー始まる」であらためて紹介したように、本学のように政府派遣の修士課程留学生が対象となる場合には、もう少し数学の応用面を重視した講義内容にした方がよいのではないかと考えて選んだのが、以下のテキスト “A Mathematics Course for Political and Social Research” だった。
photo credit: Peter Rosbjerg via photopin cc
結論から申し上げるならば、このテキストが非常に素晴らしかった。米国Amazonのカスタマーレビューに “A book that political scientists waited 20 years for” とあるのも納得の内容だ。代数から微積分そして確率統計までひと通りカバーしているのはもちろん(目次はこちら)、政治学や社会学からの事例を数多く掲載していることもプラス。だがそれ以上に優れていると個人的に感じたのが、各章末に用意された “Why Should I Care?” の項目。新しいトピックを学ぶたびに、章末にはこのセクションが設けられており、なぜこの数学コンセプトを学んでいるのか、それが今後どのような場面で活かされるのか、が解説されるのである。
もともと数学好きであったり、はじめから経済学Ph.D.課程に学んでいるならば不要かも知れないが、そうではなく今まで数学を少々敬遠してきた人や、より政策研究寄りの Public Policy や Public Management を専攻する人にとっては、まさにうってつけのテキストに仕上がっているのである。(国際大学では、MA in Economics の他、MA in Public Management 等の修士号学位も授与している)
その意味で、今年の夏の数学集中講座を教えるのに、このテキストが極めて役立ったのは言うまでもない。本書に関連して、章末問題の回答や、それ以外の problem sets & solutions、そして講義の動画まで、著者ウェブサイトには付随する教材が豊富に用意されている。書名こそ「政治学・社会学研究のための数学講座」となっているが、経済学や経営学等も含めた社会科学専攻全般に渡って、もっと幅広く読まれるべき良質のテキストと言える。昨年出版されたばかりということで僕自身も今まで全く知らなかったのだが、自分で読んで使ってみて、自信を持ってオススメしたいテキストである。新たな定番となる一冊だと思う。
Political science and sociology increasingly rely on mathematical modeling and sophisticated data analysis, and many graduate programs in these fields now require students to take a “math camp” or a semester-long or yearlong course to acquire the necessary skills. The problem is that most available textbooks are written for mathematics or economics majors, and fail to convey to students of political science and sociology the reasons for learning often-abstract mathematical concepts. A Mathematics Course for Political and Social Research fills this gap, providing both a primer for math novices and a handy reference for seasoned researchers.
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