多才で異能の人・任天堂岩田聡の言葉
任天堂の岩田聡社長が亡くなったという突然のニュース。ゲーム業界の第一人者であっただけに、国内外でも大きく報じられている。
- 任天堂を率いた岩田聡、55歳の死(WIRED.JP)
- 岩田聡さん死去、海外メディアが報道「素晴らしい才能を任天堂は失った」(Huffington Post)
子供時代、僕にとってのテレビゲームとは任天堂であり、任天堂とはスーパーファミコンであった。それ以前のファミコンは親に買ってもらえず、それ以降のプレステ等には全くはまらず、だからこそゲームにどっぷりとのめり込んだあの数年間は、スーパーファミコンで一色であったことを今も懐かしく思い出す。
Photo by Daniel
その後はプレステにもDSにもWiiにも興味をもったことはなく、せいぜい1-2度遊んだ程度のものだ。そうやってスーパーファミコンを卒業すると同時にゲーム自体から遠ざかっていた僕だが、任天堂への興味はまったく尽きないどころかむしろ強くなっていた。ただその関心対象が、ゲーム機やソフトから、それらを次々と創り出す企業とそんな組織を率いる岩田聡という人間に移ったということだったのだ。
ときに寡黙なプログラマー、一方で饒舌な経営者。そんな岩田の人柄や言動を知ったのは、糸井重里の「ほぼ日」が大きなきっかけだった。ご存知の方も多いと思うが、糸井と岩田は名作ゲーム「Mother」以来の盟友であり、岩田は「ほぼ日」の電脳部長という非公式の肩書きまで持っていた。二人が最初に知り合ったシーンは、まさにゲーム開発が頓挫しかけていたときであり、その際の会話はじつに印象的だ。
それが契機となり、糸井が「ほぼ日」を創刊した時も、岩田が任天堂社長に就いてからも、二人はずっと親交を深め続けてきた。だからこそ「ほぼ日」には実に多くの岩田との対談が残っており、それらが今「岩田聡さんのコンテンツ。」としてまとめて公開されている。働くということ、仕事の進め方、そしてゲームとコンテンツの未来と、話題は実に豊富で刺激的で、いつまでもこの続きが聞きたいとそう思わせる言葉ばかりだ。
また最近では、ドワンゴ・川上量生との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」の最終回に、“ラスボス”的ゲストとして登場したことも記憶に新しい。この中でも、いかにコンテンツの価値を損ねずユーザに届けるか、そしてネット時代に対応すべきコンテンツのアップデートについて等々、ゲームが好きで好きでたまらない、だからこそその面白さをしっかりと伝えたい、という気持ちが伝わってくる。
話し上手の岩田はまた聞き上手でもあった。任天堂公式ウェブサイトで掲載されている名物企画「社長が訊く」は、各種プロジェクトの開発現場でのストーリーや裏話を、社長自らがスタッフに聞くというもの。こうした話の引き出し方にも、岩田の組織運営に対する考え方が反映されているように思う。ゲーマーとして、プログラマーとして、そして経営者として。ときには語り部として、またあるときには聞き役として。岩田はそのときどきの役割を見事に演じ切り、その様はロールプレイングゲームのようだとも言えよう。
今後10年20年経っても、僕らはきっと「いま岩田聡が生きていたらどう考えるだろうか」という視点からゲーム業界を眺めることになるだろう。それだけ氏の存在感は大きく、亡くなった今の喪失感は深い。享年55歳という余りにも若すぎる死に対し、ご冥福をお祈りするという言葉さえ用意していなかった僕たちは、もう一度彼の言葉に触れる時間をつくりたいと思う。
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