新中学生・高校生から新社会人にまでおすすめする国語辞典4選|辞書それぞれの個性を理解して選ぼう
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最終更新日:2021/04/28
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本記事の目次
中学生・高校生から新社会人まで必須アイテムとしての国語辞典
春から新たに中学校・高校・大学に入学する予定の新入生のみなさん、そしてビジネスパーソンや公務員として働き始める予定の新社会人のみなさん、ちょっと早いけれど、おめでとう。中高生なら制服に自転車、大学生ならPCやタブレット、新社会人ならスーツ一式に名刺入れといった新品のアイテムを、多くの人が揃えたことだろう。大人として当たり前のマナーだと思う。 しかし、国語辞典も忘れずに買いましたか? しかも、2冊以上買いましたか? 加えて、なぜその国語辞典を選んだのか、きちんと答えられますか? このエントリでは、そんな国語辞典にまつわる話をしてみたいと思う。
まず最初に、バスや電車をはじめ、中学校入学から大人料金が課せられることが多いように、中学生はもう大人である。大人には大人としてのマナーがあり、子供とは一線を画す。そんな多々ある大事なマナーの一つが、自分の国語辞典を手元に置いている、ということではないだろうか。もちろん異論はあるかも知れないが、国語辞典なんてなくてもいいという人は滅多にいないように、その重要性は誰しもが頭では分かっているはずだ。しかし、皆が皆じぶんの国語辞典を持っている分けではないのが現状だろう。たとえ持っていたとしても、親に買ってもらったり、自分で適当に選んだり、手元にあっても使っていない、ということもよくあることだ。だからこそ、自分の目で見て、自分に合った一冊を積極的に選び、そしてそれを使いこなすことが、マナーなのである。誰もができることではないが、おそらくはきっと誰もがきちんとしたいと思っていることだろう。それでは今から、そんな国語辞典について、各辞書の個性とそれを踏まえた選び方について解説していこう。
英語を勉強するのに英和辞典・和英辞典・英英辞典といった英語の辞書を用意しない人はいない。それと全く同じように国語辞典も揃えておくべきという意見に異論はないだろう。しかしながら、ネイティブな日本語話者である我々にとって、日本語を意識的に勉強する機会はどうしても少なくなってしまうのが現実であり、その結果、国語辞典に対する認識も決して強くはないように思う。
ただ当然のことながら、学生であろうとサラリーマンであろうと、きちんとした日本語の読み書き、そして話し聞き、ができないと大変困ったことになる。だからこそ、しっかりとした国語辞典を常に手元に置いておく必要があろう。この4月から新生活が始まった人にとってはとくに、これまで自分が使っていた日本語を省みて、そして必要であれば改めるよい機会になることだろう。そのためにもぜひ忘れずに、自分に合った国語辞典を選んでおきたいところだ。
国語辞典は最低2冊は用意しよう
さて、国語辞典を買うとなったらぜひ1冊ではなく、最低2冊(できれば3冊以上)を用意することをおすすめしたい。なぜ2冊なのかと言えば、国語辞典にはそれぞれのクセがあり、その内容は大きく異なるためである。
えっ、辞書なんてどれも言葉の定義は一緒でしょ!? という方は、例えば新聞と対比して考えてみて欲しい。同じニュースを扱っていても、その報道の仕方には各紙のクセがあることは誰もが理解していることだ。その理由はもちろん、ニュースの編集に各紙の考え方が色濃く反映されているからである。これと全く同じように、国語辞典も各社それぞれの異なる編集・編纂方針でつくられており、その結果、同じ言葉の定義も辞書によって異なってくる。辞書に載せる用語の説明を「語釈」というが、これも漢字が示す通り、語の解釈なのであり、当然その解釈の仕方は各社の方針によって変化するものなのである。
だからこそ、意見が偏らないようにするためにも、新聞は最低2紙に目を通すべしというアドバイスと全く同様に、国語辞典も最低2冊を比べながら使うべきなのである。しかも国語辞典は、次の新版が出るまでに5年以上かかる寿命が長い商品である。であるならば、3,000円のものを2冊買っても出費はそこまで痛くないし、1万円あれば3冊買ってもお釣りがくる。これから手元において何度も繰り返し使っていくことを考えると、実にコストパフォーマンスに優れたアイテムと言えるだろう。そんな書籍は辞書だけであり、だからこそ「無人島に一冊だけ本を持っていけるとしたら何を選ぶ?」という質問に対し、多くの人が国語辞典と答えるというエピソードにつながるのだ。
ちょうどいま、各書店ではまさに新入生・新社会人に向けた辞典フェアを積極的に展開しているシーズンだ。それでは、そんな数ある国語辞典にそれぞれどんな個性があるのか、そしてどれがおすすめなのか、以下で紹介していきたい。
1冊目にはオーソドックスな岩波国語辞典か、日本で一番人気の新明解国語辞典がおすすめ
安心と安定の岩波国語辞典
まず最初の一冊としておすすめしたいのが、定番中の定番のこちらである。岩波国語辞典は、特色を打ち出した辞書が近年数多く登場する中にあって、極めて地味な一冊である。しかしその安定感と安心感こそが、この岩波国語辞典の最大の売りなのであり、辞書にはまず何よりも堅実さを求めている人にとっては、この一冊が間違いなくベストとなるだろう。
地味な辞書ではあるが、もちろんその実力には定評がある。例えば、国語辞典編纂の舞台裏を描いてヒットした映画『舟を編む』の中で、「右」という言葉をどう説明するべきかという印象的なシーンがあったのを覚えている人もいるかも知れない。こんな誰でも知っている「右」という言葉だが、それをどう定義するかというのは決して簡単なことではない。じつはこのエピソードは、岩波国語辞典の「右」についての定義にまつわる話なのである。これが名語釈として知られるように、決して目立ちはしないが実力派の辞書、それがこの岩波国語辞典なのであり、まさに一冊目にふさわしい辞書と言えるだろう。
日本で最も読まれている新明解国語辞典
もう一つの定番は、三省堂の新明解国語辞典である。上記の岩波国語辞典にあるオビを見て欲しい。「新『常用漢字表』に全面対応!」という宣伝文句のなんと地味なことか(苦笑)。それに比べて新明解国語辞典は、「日本で一番売れている国語辞典!」という積極的なアピールである。
そう、この新明解国語辞典は、いまや日本で一番売れている国語辞典なのである。故赤瀬川原平が『新解さんの謎』の中で、その独特でクセのある語釈をおもしろおかしく紹介したことで注目された新明解国語辞典だが、今ではその語釈に学ぶ人が日本で最も多いのだから不思議なものだ。「恋」とか「社会」といった言葉に新明解国語辞典が与えた語釈は実にユニークときに皮肉に満ちており、活き活きとした文章が特徴の「読む辞書」というポジションを生み出した、極めて優れた辞典なのである。だからこそ、この新明解国語辞典も最初の一冊にふさわしいものとして強くおすすめしたい。
最初の1冊:岩波国語辞典 v.s. 新明解国語辞典
というわけで、最初の1冊に選ぶべき国語辞典として既に2冊おすすめしてしまったわけなのだが・・。本音ではぜひ両方とも手元に置いて欲しいところなのだが、予算やスペースの都合でどうしても1冊に絞る必要があるのなら、次のように決めてみてはどうだろうか?
辞書に奇をてらったところなど必要ない、堅実・確実な一冊をという方には岩波国語辞典をおすすめしたい。一方で、言葉は生き物だ、もっと現実に即した語釈があってもいいんじゃないかという人には新明解国語辞典をおすすめしたい。また、新入学のお祝いにも新明解国語辞典がおすすめである。とくに中学生以上ならこの辞書を十分使いこなせるし、なにしろ語釈がおもしろいものだから、多感な中学生や青春まっただなかの高校生にはピッタリのお祝いとなること間違いない。おすすめですよ。贈ったあなたも「話の分かるオトナ」として一目置かれるようになるんじゃないかしら。なかから一語を紹介してみるとか、合わせて赤瀬川原平の『新解さんの謎』をプレゼントしてみるのもいいかと。
2冊目には新語に強い三省堂国語辞典か、日本語の間違いに気づける明鏡国語辞典がおすすめ
新語と言えば三省堂国語辞典
三省堂国語辞典といえば、その編纂者であった見坊豪紀の哲学を抜きには語れない。彼が第三版出版にあたり序文に寄せた以下の文章は今も語り継がれるものであり、三省堂国語辞典に新版が出るたびに読み継がれる内容である。
辞書は かがみ である――これは、著者[=見坊豪紀]の変わらぬ信条であります。
辞書は、ことばを写す 鏡 であります。同時に、
辞書は、ことばを正す 鑑 であります。
とくにこの「ことばを写す鏡」として圧倒的な役割を果たしてきたのがこの三省堂国語辞典であり、新語収録にあたっては他の辞書の追随を許さない。見坊みずからが新しい言葉の採集に熱心であり、新聞やテレビからだけでなく、チラシや看板の宣伝文句、そして町行く人たちの会話からも次々と目新しい言葉を集めていった。見坊亡き後もその編纂方針にブレはなく、現在の編纂者のひとりである飯間浩明がその著書『辞書を編む』等で三省堂国語辞典ならではの「ワードハンティング」の様子をおもしろく紹介している。また、辞書界の巨人であった見坊豪紀の数奇で波乱万丈の人生を描いた『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』も、傑作ノンフィクションとしてぜひ一読をおすすめしたい。
日本語の誤用に詳しい明鏡国語辞典
上の写真で三省堂国語辞典のオビにあるように「新語に強い」というのが、この辞書の最大にして最強の特徴である。一方でもう一つおすすめしたい2冊目の国語辞典が、上の写真右にある明鏡国語辞典だ。オビにあるキャッチコピーは「あなたの疑問に答える」であり、日本語の誤った使い方を詳しく解説するというのが、この明鏡国語辞典のじつにユニークであり価値の高い点なのである。
これまで見てきた、岩波国語辞典、新明解国語辞典、そして三省堂国語辞典は、最新が第7版となっており、いずれも歴史の長い定評ある国語辞典である。一方の明鏡国語辞典は最新第2版と、辞書業界にあってはまだまだ新入りの顔となっており、だからこそ強烈なセールスポイントが必要だったのである。そんななか「言葉の適切な使い方と注意すべき誤用」について詳しく説明する辞書というポジションを打ち出したのが、ベストセラー『問題な日本語―どこがおかしい?何がおかしい?』で知られる北原保雄であった。彼のこの視点から編纂された辞書はだからこそ、他の歴史ある辞書にはないおもしろさと使いやすさがあり、とくに別冊付録「明鏡問題なことば索引」には、1,100の誤用と正しい表現がまとめられており、これを読むだけでも自分の間違いに気づけるという優れものなのである。
2冊目として:三省堂国語辞典 v.s. 明鏡国語辞典
というわけで、最初に選ぶべき1冊につづき、2冊目としておすすめしたい国語辞典もやはり2冊おすすめしてしまった・・。両方そろえるほどではない、というのであれば、次のような視点から検討してはどうだろうか?
最初の1冊に堅実・確実な岩波国語辞典を選んだのなら、2冊目にはそれと対照的に新しい言葉の採集に積極的な三省堂国語辞典を合わせる。この二つを比較してみると、三省堂では収録されているのに岩波ではまだ掲載されていないという言葉を数多く見つけることだろう。それはつまり、いままだ生まれたばかりの言葉であり、ようやく一般化しつつあるということ。しかしそれが誰にとっても当たり前というまでには浸透していない、ということだ。この二冊の辞書を比べるだけでも、新語という視点を通して世の中の動きを感じ取ることができるだろう。
一方で、もし最初の1冊に活き活きとした語釈の新明解国語辞典を選んだのなら、2冊目には明鏡国語辞典を合わせてみてはどうだろうか。上で解説したように、新明解を使う人は言葉の堅苦しい定義というよりは、それが人々にどう使われているのかに興味がある人が多いだろう。であれば、世間で一般的に使われるようになってしまった、本来は誤用である「ら抜き言葉」やその他の勘違いにも関心があるのではないだろうか。そんな人にこそ相応しいのが、先ほど見たように、日本語の誤用を解説し「あなたの疑問に答え」てくれる、この明鏡国語辞典と言えるのではないだろうか。
最後に:3冊目以降の国語辞典の選び方・使い方・遊び方
以上見てきたように、ここでお伝えしたかったのは、第一に、新入学・新社会人となったこの機会にこそちゃんとした国語辞典を用意して欲しいということ。そして第二に、国語辞典にはそれぞれ個性があり、どれも一緒では決してないこと。続いて第三に、自分が国語辞典をどう使いたいかに合わせ、できれば2冊はそろえて頂きたいということだ。
そしてもしも国語辞典に興味を持ったのなら、ぜひともそれ以外の、つまりは3冊目以降の辞書にも注目してみてはどうだろうか。以前に「学校で教えて欲しいおすすめ国語辞典の選び方・使い方・遊び方:複数の辞書を比較して使い分けよう」でも紹介したように、国語辞典の選び方・使い方・遊び方については、小中学校の授業でも取り上げて欲しいくらい重要なことだと思う。その際のテキストに相応しいのはもちろん、サンキュータツオ氏の名作『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』である。
辞書200冊をコレクションする、オタクで学者で芸人のサンキュータツオが、辞書の楽しみ方、選び方、つきあい方を徹底ガイド。編者や執筆者の熱い想いと深い哲学が詰まった、ユニークで愛すべき国語辞典たちの、知られざる個性と魅力を超厳選してお届けします。
無人島に本を1冊持っていけるなら間違いなく国語辞典。そう納得する人は多くいることだろう。それではあなたはどの1冊を持って行きますか?本当の難問は、これだけ個性豊かで愛すべき国語辞典があるなか、どれを選ぶべきかということなのである。
しかしながら幸いにして、われわれがそのような無人島漂流に遭遇する可能性は低い。それならば、1冊に限定することなく、その多種多様の辞書を自由に楽しく使い倒し、遊び倒してはいかがだろうか?国語辞典とはそれだけの魅力にあふれた、実にすぐれた読み物なのである。
以上をまとめると、次のようにおすすめできるだろう。どうぞあなたにあったマイ・ベストの辞書を見つけてください。
- 堅実でオーソドックスな、安定感と安心感が売りの『岩波国語辞典』
- 言葉の意味を深く考えさせる、人気ナンバーワンの『新明解国語辞典』
- 現代語の収録に優れ、新しい用語を知るのに最適な『三省堂国語辞典』
- 自分の日本語の誤用や疑問に気づき、正すために必要な『明鏡国語辞典』
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