出版不況なのに「TikTok売れ」で緊急重版|あの実験的小説の新しい売り方・売れ方
先日紹介した書籍『10代のための読書地図』は、本当におすすめなので、ぜひまだの方には読んでみて欲しいと思っている。
書評誌「本の雑誌」初の10代向けのブックガイド。「朝の読書」や「夏休みの読書感想文」対応の「本の雑誌が選ぶ10代におすすめする100冊座談会」から「ジャンル別10代おすすめ本ガイド」、全国書店員さんがおすすめする10代に読んでほしい本&10代のときに読んでおきたかったと後悔した本など、興味を引きやすい角度から本を紹介。
また本屋さんでの本の買い方・探し方ガイドや本好きのためのハローワークなどなど、「本の雑誌」ならではの切り口で、10代の読書に迫る。
以前のエントリ「夏休みに素敵な1冊を探そう|知的好奇心旺盛な10代のための読書地図」でも詳しく書いたように、本書を読んで僕が個人的に最も印象的だったのが、10代の人たちが恐らくは僕らが想像するよりもずっと多くの時間を読書に充てていること、そして僕らが予想だにしない形で本を購入していること、であった。とくに最近は、TikTokがきっかけとなってベストセラーがいくつも生まれているなんて、まったく知らなかったワケである、おじさんですからね(苦笑)。
だから僕は、「『TikTok売れ』で30年前の実験的SF小説が3万5000部の緊急重版」という記事(Business Insider)を見て、あのとき読んだ話そのまんまやないか!と驚いてしまったわけである。いやあようやくリアルタイムで実感したよ、TikTokで本が爆売れすることを。
2021年7月28日、不可解な現象が起こった。
1989年に作家の筒井康隆さんが発表し、1995年に中央公論新社から文庫本が出版された小説『残像に口紅を』が突然、各通販サイトで上位にランクインしたのだ。アマゾンでは、本の売れ筋ランキングの総合で一時は9位となり、日本文学部門などで1位を獲得。反響を受けて、同作は3万5000部の緊急重版が決定したという。出版から30年以上が経過した日本文学の巨匠作品に、なにが起こったのだろうか?
出版からこれだけの年数が経ち、それでいて急にランキング上位に顔を出すなんて、普通はありえない。それが起こってしまった背景には、TikTokが若い人たちに普及していることと、そのなかで数多くのインフルエンサーが誕生したこと、くわえて音楽やアートやファッションという華やかな分野だけでなく、小説を紹介するという一見するとちょっと地味に見えてしまうような活動の中でも、これだけ影響力のある情報発信者がいることが挙げられるだろう。ワレワレオジサンたちがあの頃読んだこの本が、いまこうしてイマドキのワカモノたちに読まれ継がれていくなんて、なんというか、衝撃的であり感慨深いものがある。それと同時に、本が売れないと嘆いているだけの出版業界や編集者にはぜひ、こうした売り方・売れ方もあるという現実を踏まえ、本の世界がこれ以上廃れないよう頑張って頂きたいとエールをおくりたい。
「あ」が消えると、「愛」も「あなた」もなくなった。ひとつ、またひとつと言葉が失われてゆく世界で、執筆し、飲食し、交情する小説家。筒井康隆、究極の実験的長篇。
Amazon Campaign

関連記事
-
-
NHKアニメ『英国一家、日本を食べる』が毎回ハイクオリティで、つい新宿・思い出横丁に飲みに行ってしまった
「大ヒット『英国一家、日本を食べる』がなんとNHKでアニメ化|初回放送が予想以上におもしろかった」で
-
-
イェール大学出版局「リトル・ヒストリー」は初学者に優しい各学問分野の歴史解説
以前にもおすすめしたのだが、米国イェール大学出版局の “A Little History” シリーズ
-
-
ニューヨーク・タイムズが選ぶ、2021年版「愛すべき世界の52か所」
ニューヨーク・タイムズ紙による、年始の恒例特集 "52 Places to Go" だが、コロナ禍に
-
-
サッカーチームの経済学|デロイト・フットボール・マネーリーグ2016年版
今年もまたこの時期がやってきた。そう、デロイト社によるレポート "Football Money Le
-
-
NHK「最後の講義」物理学者・村山斉を見逃すな
先日のNHK「最後の講義」みうらじゅんが圧倒的に面白かったのは既にお伝えの通りだが、2/20(水)放
-
-
2018年ノーベル経済学賞はノードハウスとローマーに|著書が半額セール中
今年のノーベル経済学賞が先日発表され、受賞者はイェール大学のウィリアム・ノードハウス教授と、ニューヨ
-
-
将棋竜王戦ランキング戦決勝|杉本八段と藤井七段の師弟対決が素晴らしかった
前回、「藤井聡太七段が先勝|現役最強棋士・渡辺棋聖とのタイトル戦」でも書いたように、いま将棋がむちゃ
-
-
【おすすめ英語テキスト】重要単語を因数分解|語源から根こそぎ完璧に理解する
現在開催中のKindle本ストア 9周年キャンペーン。本日はこの中から最大級におすすめしたい、この英
-
-
テニスプロはつらいよ|トッププレイヤー錦織圭とその他大勢の超格差社会
2014年の全米オープンテニスで日本人初のグランドスラム決勝進出を果たした錦織圭。その後の凱旋ツアー
-
-
日本語の誤用をとことんを考える『明鏡国語辞典』が10年ぶりに大刷新|新しい「問題な日本語」
今年も国語辞典の話題が多かったが、最新のトピックとして最も注目すべきなのは、やはりこちら、『明鏡国語