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日本美術展史上最大のフェルメール展ついに始まる|事前に読んでおきたいおすすめ5冊

公開日: : アート

さて、先週からいよいよ上野の森美術館で「フェルメール展」が始まった。現存する作品は三十数点しかなく、寡作の芸術家として知られるフェルメール。そのうち9点もの作品が今回の美術展に揃うというのだから、ファンはもちろんのことそうでない人にとっても、これは確かに史上初の「優雅な事件」なのである。

 

 

さて、そんなフェルメールの作品は、世界中でわずか三十数点しかないということで、全作品を見て回る「巡礼の旅」に出る人が多いのもまた特徴的ある。僕自身も、アメリカ留学時には、アメリカ国内で見ることができるフェルメール作品を追いかけ、プチ巡礼に出たりした。

 

そして何冊も関連書を読んで、数奇な運命をたどるフェルメールと彼の作品群には、ますます不思議な興味を抱くよりほかないのである。今回の美術展にこれから出かける人も多いことだろうが、ぜひその前に、次のような書籍を読んでいくことをおすすめしたい。ひとつひとつの作品に、こんな背景があるのだということを事前に知っていると、美術館で対面したときの驚きと感動もまた一味違ったものになるはずだから。

 

まずおすすめしたいのがこちら『フェルメール全点踏破の旅』だ。世界にあるフェルメール作品37点を全点踏破して解説する。カラーで収録された本書は、フェルメール入門に最適の一冊と言えるだろう。フェルメール関連書が多い朽木ゆり子によるこの一冊は、誰にでもおすすめできる内容だ。

日本でもゴッホと並ぶ人気を持つ十七世紀オランダの画家、ヨハネス・フェルメール。その作品は世界中でわずか三十数点である。その数の少なさ故に、欧米各都市の美術館に散在するフェルメール全作品を訪ねる至福の旅が成立する。しかもフェルメールは、年齢・性別を超えて広く受け入れられる魅力をたたえながら、一方で贋作騒動、盗難劇、ナチスの略奪の過去など、知的好奇心を強くそそる背景を持つ。『盗まれたフェルメール』の著者でニューヨーク在住のジャーナリストが、全点踏破の野望を抱いて旅に出る。

 

 

続いては、生物学者にして芸術に造詣が深く、とくにフェルメール作品に強い思いを抱く、福岡伸一によるこの一冊『フェルメール 光の王国』をおすすめしたい。以前にANAの機内誌に連載されていたエッセイで、福岡自身がフェルメールを訪ねる旅に出て、世界各地で対面したひとつひとつの作品から当時に思いを馳せる。素晴らしい文章に心惹かれること間違いなく、ますますフェルメール作品を自分の目で見たいという思いを強くするはずだ。ぜひ本書も、美術展を訪れる前に読んでいって欲しい。

ヨハネス・フェルメール……17世紀オランダ美術を代表するこの画家は、現存する作品が30数点しかないこと、また窓から差し込むやわらかな光の描写、部屋の中に人物と物を配した緻密な画面設計などの独特の表現で知られ、世界でも極めて人気の高い作家の一人です。フェルメールが画布にとらえた“光のつぶだち”に魅せられた生物学者・福岡伸一が、“フェルメールの作品が所蔵されている美術館に実際におもむいてフェルメールの作品を鑑賞する”をコンセプトに、世界各地の美術館が擁する珠玉のフェルメール作品を4年をかけて巡った『翼の王国』の人気連載の美術紀行が、ついに書籍になりました。その旅先の風土を感じさせる旅情豊かな文章と写真で、あなたを「フェルメールの旅」へ誘います。

 

 

このように人を惹きつけてやまないフェルメール作品は、しかし、犯罪集団からも注目され続けるという憂き目を見る。なぜ芸術作品が盗まれるのか?そしてなぜその中でもフェルメールがしばしばターゲットにされるのか?そういう美術界における盗作の歴史を解説した本書もまた、フェルメール作品を鑑賞する前に読んでおきたい一冊だ。こちらも朽木ゆり子の著作でじつに安定感がある。おすすめです。

東パキスタン難民を支援したり、獄中のIRAテロリストを故郷に移動させるためにフェルメールの絵を盗む。自分の刑期の短縮交渉のために、手下にレンブラントの絵を盗ませる。武器・弾薬と交換するために名画を盗む…。絵画泥棒が絵を盗む動機は私たちの想像を遙かに超えている。犯罪者にとって絵はどんな価値を持っているのだろうか?そう考えることで、私たちの絵を見る眼も変わる。

 

 

今度は立場をかえ、そんな芸術作品窃盗集団を追いかける人たちのドラマに注目したい。時を遡ること約30年、1990年3月18日、ボストンのイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館において、警官を装った2人組が、フェルメールの「合奏」を始めとする合計13点の美術作品を奪って逃走した、史上最大の盗難事件をご存知だろうか?この「合奏」はいまだ戻ってきておらず、同美術館には中身のない額縁だけが今も物哀しく壁にかけられているのだ。そんな犯人を追いかけるFBIの執念を描いたノンフィクションがこちらの『FBI美術捜査官』である。アニメ「ルパン三世」でもなく、漫画「キャッツ・アイ」でもなく、本書でリアルに生々しく描かれるこれこそが現実なのである。非常にエキサイティングな一冊としてこちらもぜひ一読をすすめたい。

美術品が巨額で取引されるようになって以来、世界規模で急増してきた美術品盗難事件。大規模、複雑化する凶行を阻止するために、巨大市場アメリカで美術盗難専門の捜査チームが結成された。レンブラント、フェルメール、ノーマン・ロックウェル、そして最後に待ち受ける伝説の未解決事件とは?潜入捜査で巧みに犯人をおびき寄せ、歴史的至宝を奪還する、美術犯罪捜査に命を賭けた男たちの物語。

 

 

最後に、忘れちゃいけないのが、フェルメール作品は「盗作」被害に遭うことが多いだけでなく、なんと「贋作」被害にもしばしば遭ってきたということだ。それがまたフェルメールの名前をさらに有名にしてきたという側面もあるだろう。本書『フェルメールになれなかった男』は、まさにそんな世紀の贋作師の人生を扱った傑作ノンフィクションである。ときは第二次世界大戦、ナチスの将校が保有していたフェルメール作品がじつは贋作だったという、史上最大級のアート・スキャンダル。彼はどうやってフェルメール作品を生み出してきたのか?そしてなぜフェルメールになりたかったのか?本書はそんなアート界のダークサイドを活写した一冊であり、フェルメールをよりよく知るためにも読んでおきたい内容なのである。

秀れた才能を持ち、将来を嘱望された画家は、なぜ贋作作りに手を染めることになったのか。第二次大戦終結直後のオランダで、ナチの元帥ゲーリング所蔵の「フェルメールの絵画」に端を発して明らかとなった一大スキャンダル事件に取材。高名な鑑定家や資産家たちをもまんまと欺いた世紀の贋作事件を通して、美術界の欲望と闇を照らし出し、名画に翻弄される人々の姿を描き出した渾身作。

 

 

というように、今回日本で開催される史上最大級の「フェルメール展」。ぜひその作品をみるまえに、上記で紹介した5冊を読んでおくと、鑑賞する視点や理解がさらに深まるはずだ。より詳しくは以下のようなエントリも参考にして頂きたい。

 

 

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