*

盗作と贋作のフェルメール|美術作品にまつわる犯罪史

公開日: : 最終更新日:2018/10/14 アート, オススメ書籍

先日NHK-BS で放送された「アナザーストーリーズ 運命の分岐点『フェルメール盗難事件 史上最大の奪還作戦』」をご覧になっただろうか?見逃した方は、ぜひ今後のの再放送を期待してお待ち頂きたい。

世界を震撼(しんかん)させた、歴史的名画の盗難事件。その真相と奇跡の奪還までのサスペンスストーリーを徹底取材!盗まれたのは、日本でも大人気の天才画家フェルメールの希少作品。盗んだのは、アイルランドの天才的な犯罪者。そのとき立ち上がったのは、“ミスターリスク”の異名を持つ、ロンドン警視庁のおとり捜査官。闇社会に潜入し、絵画の行方を探る。7年がかりの危険な捜査の全貌を再現、クライムサスペンスの真実!!

 

現在世界中を探し歩いても、フェルメールの作品は三十数点しか見ることができない。そんな寡作の作家の貴重なアートは、これまで何度も盗難被害に会ってきた。その窃盗集団からのフェルメール作品奪還作戦に焦点を当てたのが、この「アナザーストーリーズ」であり、これが実に面白かったのである。

 

428px-Johannes_Vermeer_-_Het_melkmeisje_-_Google_Art_Project

 

 

さて、そんな数少ないフェルメール作品もほとんどは、ヨーロッパやアメリカ等の一部の美術館に収蔵されてるため、それら全てを見て回る「巡礼」の旅に出るファンも多い。以下の書籍『フェルメール全点踏破の旅』はそのガイドに相応しい内容であり、僕もアメリカ留学時代にはなるべく多くのフェルメール作品を見ておこうと参考にした一冊でもある。

日本でもゴッホと並ぶ人気を持つ十七世紀オランダの画家、ヨハネス・フェルメール。その作品は世界中でわずか三十数点である。その数の少なさ故に、欧米各都市の美術館に散在するフェルメール全作品を訪ねる至福の旅が成立する。しかもフェルメールは、年齢・性別を超えて広く受け入れられる魅力をたたえながら、一方で贋作騒動、盗難劇、ナチスの略奪の過去など、知的好奇心を強くそそる背景を持つ。『盗まれたフェルメール』の著者でニューヨーク在住のジャーナリストが、全点踏破の野望を抱いて旅に出る。

 

 

 

同じ著者・朽木ゆり子のもう一冊の好著『盗まれたフェルメール』は、そのタイトルが示唆する通り、なぜフェルメール作品が美術盗難の被害に遭いやすいのかを解説した一冊。華やかな美術の世界のその陰にあるダークな一面、それがまたフェルメールが多くの人の関心を集める理由ともなっている。

年間被害総額は10億ドル以上、盗難美術品が戻る確率はたったの一割程度。美術品盗難史上においてかなりのツワモノであるフェルメールに焦点をしぼった、美術品の盗難をめぐる知的興奮の書。東パキスタン難民を支援したり、獄中のIRAテロリストを故郷に移動させるためにフェルメールの絵を盗む。自分の刑期の短縮交渉のために、手下にレンブラントの絵を盗ませる。武器・弾薬と交換するために名画を盗む…。絵画泥棒が絵を盗む動機は私たちの想像を遙かに超えている。犯罪者にとって絵はどんな価値を持っているのだろうか?そう考えることで、私たちの絵を見る眼も変わる。

 

 

 

フェルメール作品の盗難でいえば、例えば1990年に米国ボストンのイザベラ・スチュアート・ガードナー美術館から盗まれた作品は、いまなお事件は解決に至っていない。僕も同美術館を訪れ、そこに掛けられた空の額縁を眺めたが、それはあまりにも哀しい景色だった。その窃盗犯をあと一歩のところまで追いつめながら、組織的な失態によって犯人を取り逃がした事実を描いたノンフィクションがこの『FBI美術捜査官』だ。NHK-BSの「アナザーストーリーズ」と同様に、いかにして盗難美術を奪還しようとしているのかがよく分かる、手に汗握る傑作ノンフィクションである。

美術品が巨額で取引されるようになって以来、世界規模で急増してきた美術品盗難事件。大規模、複雑化する凶行を阻止するために、巨大市場アメリカで美術盗難専門の捜査チームが結成された。レンブラント、フェルメール、ノーマン・ロックウェル、そして最後に待ち受ける伝説の未解決事件とは?潜入捜査で巧みに犯人をおびき寄せ、歴史的至宝を奪還する、美術犯罪捜査に命を賭けた男たちの物語。

 

 

最後にもう一冊の関連書を挙げるならば、やはりこの『フェルメールになれなかった男』になるだろう。これは盗作ではなく贋作を扱ったノンフィクションである。世に残した作品の絶対的な数が少なかったフェルメールは、その希少性ゆえ盗まれるのみならず、そのニセモノも数多く出回ることとなった。そんな詐欺師たちの中にあって、圧倒的なクオリティで美術市場に登場したのがこのニセ絵師だったのである。彼のその精度の高い技術と底なしの欲望は、ヒットラーの時代に美術界を襲う大事件にまで発展するのであった。

秀れた才能を持ち、将来を嘱望された画家は、なぜ贋作作りに手を染めることになったのか。第二次大戦終結直後のオランダで、ナチの元帥ゲーリング所蔵の「フェルメールの絵画」に端を発して明らかとなった一大スキャンダル事件に取材。高名な鑑定家や資産家たちをもまんまと欺いた世紀の贋作事件を通して、美術界の欲望と闇を照らし出し、名画に翻弄される人々の姿を描き出した渾身作。

 

 

というように、フェルメール作品はいつの時代もアート業界の最大の関心事となってきた。今後これまでの犯罪が解決を見るのか、はたまた別の作品が盗難や贋作の新たな被害者となるのか。作品の所有者と美術ファンにとっては堪ったものではないのだが、何が起ころうともフェルメールの価値は高くなりこそすれ下がることはない。その意味では、こんなにも美術史に大きく名を刻む作家は、今後も現れないのではないかとさえ思えてくる。

 

そんなアートをまつわるミステリーとサスペンスに興味を持った方には、ぜひ以下のエントリもおすすめしたい。美術界とはかくも興味深い世界なのである。

 

 

428px-The_Geographer

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

japanese igo

囲碁タイトル7冠同時制覇|井山裕太と師匠・石井邦生が創りだした盤上の宇宙・独創の一手

すごいな、井山裕太。大きなニュースとなったことで、囲碁ファン以外にも伝わったであろう、7冠同時制覇へ

記事を読む

文庫で学ぶ行動経済学

昨年は間違いなく統計学がブームとなった一年だった。「今年続けて読みたい統計学オススメ関連書と教科書1

記事を読む

ブラックホールを初めて写真撮影|いまこそ宇宙論がおもしろい

さて先日は、人類史上初めてブラックホールの撮影に成功したという記者会見が世界中で話題となった。「ブラ

記事を読む

岡崎所属のレスターシティ奇跡の優勝と、これからのサッカー・データ革命

プレミアリーグ大番狂わせのレスターシティ優勝 ご存知のように、今年の英国プレミアリーグでは、岡崎が

記事を読む

kuzushi shougi

最年少プロ棋士・藤井聡太とAI将棋の時代|人工知能が切り拓く新たな地平

ついにストップした藤井聡太四段の連勝記録。しかし、史上最年少でプロ棋士となってから、これまで29連勝

記事を読む

若き探検作家・角幡唯介の「極夜行」は最悪の旅だからこそ最高のノンフィクション

探検家・角幡唯介のノンフィクション作品を読んだことがある人も多いことだろう。NHKでも特集番組となり

記事を読む

チェス界のモーツァルト、天才ボビー・フィッシャーの生涯が待望の文庫化

伝説的なチェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの生涯を記録した傑作ノンフィクション『完全なるチェス』

記事を読む

博士号だけでは不十分!研究者として生き残るために

先日懐かしく読み返した Economist 誌の記事 "Doctoral degrees: The

記事を読む

ゾクゾクするほどコワい人間のココロ|「怖い絵展」にもう行きましたか?

アートファン待望の「怖い絵展」が、いよいよ上野の森美術館で始まった。既にご覧になった方もいるだろうが

記事を読む

闘う頭脳|将棋棋士・羽生善治VSチェス棋士ガルリ・カスパロフ

今年3月にNHKーETV特集で放送された「激突!東西の天才 将棋名人羽生善治 伝説のチェスチャンピオ

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

ヒマラヤ山脈でイエティの足跡を発見|雪男は向こうからやって来た

ヒマラヤ山中で伝説の雪男「イエティ」の足跡を発見したと、インド軍が公式

今年の科研費採択者におすすめ|研究関連事務を劇的に効率化するクラウドサービス

さて、先日は今年度の科学研究費助成事業(科研費)の採択者が発表された。

日本に残る最後の秘境へようこそ|東京藝術大学のアートでカオスな毎日

いよいよこの書籍が文庫化されましたね。そう、2016年に出版され大きな

春になり大人になったら辞書を買おう|これがいま日本で最も売れている国語辞典だ

さて今年も4月になり、進級・入学・入社とおめでたいイベントが相次いだ。

ブラックホールを初めて写真撮影|いまこそ宇宙論がおもしろい

さて先日は、人類史上初めてブラックホールの撮影に成功したという記者会見

japanese dictionaries 1
卒業・進級・入学のお祝いに|今も昔も定番の国語辞書をプレゼント

いよいよ春も近い。それはすなわち、卒業シーズンを迎え、そして進級・入学

NHK「最後の講義」物理学者・村山斉を見逃すな

先日のNHK「最後の講義」みうらじゅんが圧倒的に面白かったのは既にお伝

NHK「最後の講義:みうらじゅんの幸福論」が面白すぎた

2/2(土)に放送されたNHK「最後の講義」に登場した、みうらじゅん。

PAGE TOP ↑