*

盗作と贋作のフェルメール|美術作品にまつわる犯罪史

公開日: : 最終更新日:2016/09/07 アート, オススメ書籍

先日NHK-BS で放送された「アナザーストーリーズ 運命の分岐点『フェルメール盗難事件 史上最大の奪還作戦』」をご覧になっただろうか?

世界を震撼(しんかん)させた、歴史的名画の盗難事件。その真相と奇跡の奪還までのサスペンスストーリーを徹底取材!盗まれたのは、日本でも大人気の天才画家フェルメールの希少作品。盗んだのは、アイルランドの天才的な犯罪者。そのとき立ち上がったのは、“ミスターリスク”の異名を持つ、ロンドン警視庁のおとり捜査官。闇社会に潜入し、絵画の行方を探る。7年がかりの危険な捜査の全貌を再現、クライムサスペンスの真実!!

 

現在世界中を探し歩いても、フェルメールの作品は三十数点しか見ることができない。そんな寡作の作家の貴重なアートは、これまで何度も盗難被害に会ってきた。その窃盗集団からのフェルメール作品奪還作戦に焦点を当てたのが、この「アナザーストーリーズ」であり、これが実に面白かったのである。今後再放送される機会にはぜひともご覧頂きたい。

 

428px-Johannes_Vermeer_-_Het_melkmeisje_-_Google_Art_Project

 

 

さて、そんな数少ないフェルメール作品もほとんどは、ヨーロッパやアメリカ等の一部の美術館に収蔵されてるため、それら全てを見て回る「巡礼」の旅に出るファンも多い。以下の書籍『フェルメール全点踏破の旅』はそのガイドに相応しい内容であり、僕もアメリカ留学時代にはなるべく多くのフェルメール作品を見ておこうと参考にした一冊でもある。

日本でもゴッホと並ぶ人気を持つ十七世紀オランダの画家、ヨハネス・フェルメール。その作品は世界中でわずか三十数点である。その数の少なさ故に、欧米各都市の美術館に散在するフェルメール全作品を訪ねる至福の旅が成立する。しかもフェルメールは、年齢・性別を超えて広く受け入れられる魅力をたたえながら、一方で贋作騒動、盗難劇、ナチスの略奪の過去など、知的好奇心を強くそそる背景を持つ。『盗まれたフェルメール』の著者でニューヨーク在住のジャーナリストが、全点踏破の野望を抱いて旅に出る。

 

 

 

同じ著者・朽木ゆり子のもう一冊の好著『盗まれたフェルメール』は、そのタイトルが示唆する通り、なぜフェルメール作品が美術盗難の被害に遭いやすいのかを解説した一冊。華やかな美術の世界のその陰にあるダークな一面、それがまたフェルメールが多くの人の関心を集める理由ともなっている。

年間被害総額は10億ドル以上、盗難美術品が戻る確率はたったの一割程度。美術品盗難史上においてかなりのツワモノであるフェルメールに焦点をしぼった、美術品の盗難をめぐる知的興奮の書。東パキスタン難民を支援したり、獄中のIRAテロリストを故郷に移動させるためにフェルメールの絵を盗む。自分の刑期の短縮交渉のために、手下にレンブラントの絵を盗ませる。武器・弾薬と交換するために名画を盗む…。絵画泥棒が絵を盗む動機は私たちの想像を遙かに超えている。犯罪者にとって絵はどんな価値を持っているのだろうか?そう考えることで、私たちの絵を見る眼も変わる。

 

 

最後にもう一冊の関連書を挙げるならば、やはりこの『フェルメールになれなかった男』になるだろう。これは盗作ではなく贋作を扱ったノンフィクションである。世に残した作品の絶対的な数が少なかったフェルメールは、その希少性ゆえ盗まれるのみならず、そのニセモノも数多く出回ることとなった。そんな詐欺師たちの中にあって、圧倒的なクオリティで美術市場に登場したのがこのニセ絵師だったのである。彼のその精度の高い技術と底なしの欲望は、ヒットラーの時代に美術界を襲う大事件にまで発展するのであった。

秀れた才能を持ち、将来を嘱望された画家は、なぜ贋作作りに手を染めることになったのか。第二次大戦終結直後のオランダで、ナチの元帥ゲーリング所蔵の「フェルメールの絵画」に端を発して明らかとなった一大スキャンダル事件に取材。高名な鑑定家や資産家たちをもまんまと欺いた世紀の贋作事件を通して、美術界の欲望と闇を照らし出し、名画に翻弄される人々の姿を描き出した渾身作。

 

 

というように、フェルメール作品はいつの時代もアート業界の最大の関心事となってきた。今後これまでの犯罪が解決を見るのか、はたまた別の作品が盗難や贋作の新たな被害者となるのか。作品の所有者と美術ファンにとっては堪ったものではないのだが、何が起ころうともフェルメールの価値は高くなりこそすれ下がることはない。その意味では、こんなにも美術史に大きく名を刻む作家は、今後も現れないのではないかとさえ思えてくる。

 

428px-The_Geographer

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

shougi_old_board

史上最年少プロ棋士・藤井聡太の初勝利と『将棋の子』たち

史上最年少のプロ棋士が誕生したと話題となったのが2016年9月のこと。それから3か月が経ち、今度は若

記事を読む

shougi_old_board

いまこそ将棋がおもしろい|人工知能と不屈の棋士

先月出版されたばかりの『不屈の棋士』を読み終えたところなのだが、これが実に読み応えのある一冊だった。

記事を読む

volley-ball

戦略アナリストが支える全日本女子バレー|世界と互角に戦うデータ分析術

女子バレーボールのワールドカップもいよいよ終盤戦。リオデジャネイロ五輪への出場権をかけて瀬戸際のニッ

記事を読む

japanese dictionaries 1

国語辞典業界最大の謎がいま明らかにされる|辞書になった男ケンボー先生と山田先生

近年まれにみるほどの傑作ノンフィクション『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』が、待望の文庫化・

記事を読む

photo credit: TeryKats via photopin cc

ゴリラ研究者にして京都大学新総長・山極寿一『「サル化」する人間社会』が、もんのすごく面白かった

現在シーズン2が放送中のNHKスペシャル「ホットスポット」。先月放送された第一回の「謎の類人猿の王国

記事を読む

nasa-astronaut

【応募書類受付中】NASAが宇宙飛行士を新規募集|火星に行く大チャンス

もうご存知と思うが、アメリカの National Aeronautics and Space Adm

記事を読む

jakuchu-buson2

伊藤若冲生誕300年|今年またこの天才絵師に注目が集まる

昨年末に「伊藤若冲と京の美術」展を見に行ったばかりだというのに、今度は東京ミッドタウンのサントリー美

記事を読む

medium_5153001896

論文捏造はなぜ繰り返されるのか?科学者の楽園と、背信の科学者たち

先週は、小保方晴子氏の論文「学位取り消しに当たらず」(NHK)との報道が新たな議論を引き起こしている

記事を読む

book-809887_640

2016年のベストセラー書籍トップ10冊

2016年も残すところあとわずか。それでは今年も本ブログを通じてのベストセラー書籍を上位10点紹介し

記事を読む

photo credit: KrzysztofTe Foto Blog via photopin cc

2014年、本ブログでのベストセラー:Kindle版および書籍版

今年もいよいよ終わり。ということで、この一年間の本ブログ上でのベストセラーを発表しよう。Kindle

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

credit: carlaarena via FindCC
【Kindle日替わりセール】高野秀行の最新探検記『恋するソマリア』で学ぶアフリカ現地情勢

本日のKindle日替わりセールに、あの高野秀行の『恋するソマリア』が

kindle-1605
【Kindle特大セール】光文社の新刊ベストセラーが早くも半額キャンペーン

始まったばかりの「【50%ポイント還元】光文社キャンペーン」が素晴らし

kindle-sale-150812
【Kindle特大セール】角川書店50%オフの大キャンペーン|おすすめはこの26冊だ

角川書店の Amazon Kindle 電子書籍4,000冊以上が50

auroras-1203288_640
スノーピーク初のグランピング施設が三浦半島にオープン

いよいよ夏が近づき、今年はまたキャンプにでも行こうかという話があちこち

kuzushi shougi
最年少プロ棋士・藤井聡太とAI将棋の時代|人工知能が切り拓く新たな地平

ついにストップした藤井聡太四段の連勝記録。しかし、史上最年少でプロ棋士

shougi_old_board
中学生プロ棋士・藤井聡太四段の新たな歴史的偉業

快進撃を続けていた若干14歳のプロ棋士・藤井聡太四段が、ついに、なんと

bhutan royal couple
「幸せの国」ブータン王国を築いた国王のリーダーシップとマネジメント

「眞子さま、ブータンから帰国 」(日経新聞)等と各種ニュースで報道され

chemistry-740453_640
「もっとヘンな論文」がついに登場|アカデミック・エンターテインメントの最高峰

NHK Eテレの番組「ろんぶ~ん」をご存知だろうか?ロンブー淳が司会を

PAGE TOP ↑