Wall Street Journal 125周年と、アメリカ現代史
ちょうど昨年、「フィナンシャル・タイムズ(FT)とウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」で書いたように、この二紙はほぼ同じ長さの歴史を持つ。FTが昨年125周年を迎えたのに対し、WSJは先日で同じ125周年を迎えた。その歴史の中では多種多様なイベントがあっただろうが、WSJにとっては何と言っても、オーストラリアのメディア王ルパート・マードック率いるニューズ・コーポレーションに買収された2007年が大きな転機だったのは間違いないだろう。
新聞業界の衰退がとまらない。淘汰の波は、エリート記者集団を抱える高級紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」にも及んだ。ジャーナルを手に入れたくてたまらないメディア王マードックの法外な買収提案と、オーナー一族の内紛、そして幹部社員らの暗闘・・・・・・。元WSJ記者が名門新聞社の「身売り」の内幕を暴いた問題作。マードックの下で利益の出せる「大衆紙」となって生まれ変わったウォール・ストリート・ジャーナルは、「ピュリツァー賞など目指さなくてもいい」という号令で、「大衆紙」として生まれ変わった。職業ジャーナリストはどこへいくのか? 利益と公共性は両立するのか?いまほどジャーナリズムの「質」が問われている時代はない。
さて、そんなウォール・ストリート・ジャーナルと言えばダウ・ジョーンズ、ということで、同紙の125周年記念特集でも、ダウ・ジョーンズの歴史に焦点を当てたものが多かった。まずはその平均株価の推移が以下のグラフ。つい先日も17,000ドルを越えて史上最高値を記録したばかりだが、長期的に見て株価上昇が進んだのは1990年代それも後半くらいからだということが分かる。
もう一つ興味深いのが、ダウ・ジョーンズを構成する企業群。IBMやコカ・コーラそしてP&Gといった優良銘柄も目を引くが、それ以上に長い歴史が際立つのが、GEであり、AT&Tであり、デュポンといった企業だ。
こうした個別企業の歴史からも見て取れるように、ウォール・ストリート・ジャーナルの歴史はダウ・ジョーンズの歴史であり、そしてそれはそのまアメリカ現代史を象徴するものでもある。20世紀が「アメリカの世紀」と言われるように、その100年を報道し続けたのがWSJであったと言えるだろう。
そんな激動のアメリカ20世紀史は、今回のWSJ特集の中でも様々な角度から伝えられており大変興味深いが、それ以外におすすめしたいのが有賀夏紀の『アメリカの20世紀』である。「留学前にやっておきたかった読書(アメリカ編)」でも紹介したように、これから米国留学する人にとってはアメリカという国を理解するのにとても役立つ内容だ。
本書では、例えば1920年代は「大衆消費社会」といったように、アメリカ社会の中心を成していた思想や運動を年代別にまとめた視点が特徴的だ。アメリカという比較的短い歴史しか有しない国においても、その国ならではのダイナミズムがあり、そして米国特有のカウンター・ディスコースに社会が大きく揺さぶられてきたことを知るのに役立つ。新書としてコンパクトにまとめられた現代史であり、米国留学を視野に入れている人はもちろんのこと、アメリカの現代社会に興味を持つすべての人におすすめしたい。
Amazon Campaign

関連記事
-
-
国語辞典のお金の秘密|時代を映す大改訂
NHK「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」が先週の番組で特集したのが国語辞典とお金の関係、であった。
-
-
オープンガバメント:ニューヨーク市消防庁のオープンデータ戦略
ニューヨーク市の消防庁が、データを使って建物検査を効率的に行っているというウォール・ストリート記事。
-
-
戦略アナリストが支える全日本女子バレー|世界と互角に戦うデータ分析術
女子バレーボールのワールドカップもいよいよ終盤戦。リオデジャネイロ五輪への出場権をかけて瀬戸際のニッ
-
-
ワールドカップで大番狂わせを狙え|サッカー監督の世界級チームマネジメントの極意
2022年という年は、やはりサッカー・ワールドカップでの日本代表の活躍が強烈な印象として残っている人
-
-
昨年の米国で “the Most Well-Read City” に輝いたのはシアトル
昨年も「米国Amazon.com が公表する、アメリカとカナダの Most Well-Read Ci
-
-
2015年ことしの漢字は「安」|それでは英語や中国語やドイツ語の一文字は何でしょう?
毎年12月に京都・清水寺で発表される「今年の漢字」に、2015年は「安」が選ばれた(2位は「爆」)。
-
-
食肉偽装とWOWOW連続ドラマW『震える牛』のリアル
中国の工場で発生した期限切れ鶏肉の事件だが、これは別に、同工場もしくは同国の衛生管理技術の水準が低か
-
-
「われ敗れたり」:完敗だったが名勝負もあった第3回将棋・電王戦
今夜11時放送のTBS「情熱大陸」は、将棋・電王戦。 将棋のプロ棋士とコンピューター将棋ソフトが
-
-
赤瀬川原平『新解さんの謎』と『辞書になった男』:いま日本で最も売れている「新明解国語辞典」の誕生秘話
これまで何度か、各種おすすめ国語辞典のそれぞれの個性について書いてきたが、その中でも最も「個性的」な
-
-
[おすすめ数学テキスト]政治学・社会学のための数学基礎講座
経済学Ph.D.課程の多くでは、夏の間に新入生向け の数学基礎講座(通称 Math camp)を開講