アメリカ連邦最高裁、49年前の判断を覆す|今こそ憲法で読むアメリカ史
すでに日本においてもニュースや新聞を始めとする各種メディアで報道・解説されている通り、アメリカ連邦最高裁は6月24日、女性の人工妊娠中絶権は合憲だとしてきた1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆す判断を示した。BBC記事等にもあるように、今回の判決は、約半世紀前に連邦最高裁が定めた判例を、同じ最高裁が自ら覆したことになり、きわめて異例な決定である。すでに全国的な反対運動も起こっており、アメリカ中間選挙に向けて新たな政治対立争点になるものと考えられる。
それにしてもアメリカというのは、移民が集まってできた国家という成り立ちもあり、意見の対立は裁判で裁定され、議論が紛糾した際には最高裁の判断を仰ぐことで、国の基本的な考え方が定まってきたという歴史がある。その最も根幹にあるのが、言うまでもなく憲法であり、これまでにも黒人差別や同性婚そして銃規制など、アメリカ社会を二分する数多くの重要な問題について、合憲か違憲かが争われてきた。今回のケースでは、これまでの中絶に関する判例を覆す判決が下された結果、アメリカでは女性の中絶権が合衆国憲法で保障されなくなる。
こうしたアメリカ憲法をめぐる議論と修正という視点から、アメリカの歴史をダイナミックにまとめた一冊が、この『憲法で読むアメリカ史』なのである。著者の阿川尚之は、アメリカで長いことロイヤーを務め、今は憲法政治学者である。本書は大変ユニークな分析が光る良書であり、その後は続編として『憲法で読むアメリカ現代史』へとつながった。アメリカという国が、建国以来の短くも激動の時代のなか、その時々においてどのように憲法と向き合いながら国づくりを進めてきたのか、本書シリーズはそれを学ぶのに最適なものである。アメリカ、中国、ロシアと、大国が世界を不安定にさせる時代、これから先のアメリカがどこに向かうのかを予測する意味でも、合衆国憲法という視点でこれまでの歴史と、そして今回の最高裁判決からこれからの行方を考えてみたい。
建国から二百数十年、自由と民主主義の理念を体現し、唯一の超大国として世界に関与しつづけるアメリカ合衆国。その歴史をひもとくと、各時代の危機を常に「憲法問題」として乗り越えてきた、この国の特異性が見て取れる。憲法という視点を抜きに、アメリカの真の姿を理解するのは難しい。建国当初の連邦と州の権限争い、南北戦争と奴隷解放、二度の世界大戦、大恐慌とニューディール、冷戦と言論の自由、公民権運動―。アメリカは、最高裁の判決を通じて、こうした困難にどう対峙してきたのか。その歩みを、憲法を糸口にしてあざやかに物語る。第6回読売・吉野作造賞受賞作の完全版!
アメリカ建国以来、200数十年にわたり、政治や社会のあり方に関し、憲法に基づく判断を示してきた合衆国最高裁判所。その判決は米国のあり方をどう変えてきたか?ロイヤーにして憲法政治学の第一人者が膨大な資料を精緻に読み込み、レーガン政権以降の憲法問題をめぐる大統領と最高裁の関係から捉えた手に汗握るもうひとつの〈アメリカ現代史〉。
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