*

Wall Street Journal 125周年と、アメリカ現代史

公開日: : 最終更新日:2017/01/11 アメリカ, オススメ書籍, ニュース

ちょうど昨年、「フィナンシャル・タイムズ(FT)とウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」で書いたように、この二紙はほぼ同じ長さの歴史を持つ。FTが昨年125周年を迎えたのに対し、WSJは先日で同じ125周年を迎えた。その歴史の中では多種多様なイベントがあっただろうが、WSJにとっては何と言っても、オーストラリアのメディア王ルパート・マードック率いるニューズ・コーポレーションに買収された2007年が大きな転機だったのは間違いないだろう。

 

 

新聞業界の衰退がとまらない。淘汰の波は、エリート記者集団を抱える高級紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」にも及んだ。ジャーナルを手に入れたくてたまらないメディア王マードックの法外な買収提案と、オーナー一族の内紛、そして幹部社員らの暗闘・・・・・・。元WSJ記者が名門新聞社の「身売り」の内幕を暴いた問題作。マードックの下で利益の出せる「大衆紙」となって生まれ変わったウォール・ストリート・ジャーナルは、「ピュリツァー賞など目指さなくてもいい」という号令で、「大衆紙」として生まれ変わった。職業ジャーナリストはどこへいくのか? 利益と公共性は両立するのか?いまほどジャーナリズムの「質」が問われている時代はない。

 

さて、そんなウォール・ストリート・ジャーナルと言えばダウ・ジョーンズ、ということで、同紙の125周年記念特集でも、ダウ・ジョーンズの歴史に焦点を当てたものが多かった。まずはその平均株価の推移が以下のグラフ。つい先日も17,000ドルを越えて史上最高値を記録したばかりだが、長期的に見て株価上昇が進んだのは1990年代それも後半くらいからだということが分かる。

 

Dow-Jones-WSJ125-1

 

 

もう一つ興味深いのが、ダウ・ジョーンズを構成する企業群。IBMやコカ・コーラそしてP&Gといった優良銘柄も目を引くが、それ以上に長い歴史が際立つのが、GEであり、AT&Tであり、デュポンといった企業だ。

 

Dow-Jones-WSJ125-2

 

 

こうした個別企業の歴史からも見て取れるように、ウォール・ストリート・ジャーナルの歴史はダウ・ジョーンズの歴史であり、そしてそれはそのまアメリカ現代史を象徴するものでもある。20世紀が「アメリカの世紀」と言われるように、その100年を報道し続けたのがWSJであったと言えるだろう。

 

そんな激動のアメリカ20世紀史は、今回のWSJ特集の中でも様々な角度から伝えられており大変興味深いが、それ以外におすすめしたいのが有賀夏紀の『アメリカの20世紀』である。「留学前にやっておきたかった読書(アメリカ編)」でも紹介したように、これから米国留学する人にとってはアメリカという国を理解するのにとても役立つ内容だ。

 

本書では、例えば1920年代は「大衆消費社会」といったように、アメリカ社会の中心を成していた思想や運動を年代別にまとめた視点が特徴的だ。アメリカという比較的短い歴史しか有しない国においても、その国ならではのダイナミズムがあり、そして米国特有のカウンター・ディスコースに社会が大きく揺さぶられてきたことを知るのに役立つ。新書としてコンパクトにまとめられた現代史であり、米国留学を視野に入れている人はもちろんのこと、アメリカの現代社会に興味を持つすべての人におすすめしたい。

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

これは面白いピタゴラス的発想!|「解きたくなる数学」をビジュアルで考える

以前に「クリエイター佐藤雅彦が好きだ|最新著『ベンチの足』にみるユニークな視点」でも書いたように、僕

記事を読む

ヒマラヤ山脈でイエティの足跡を発見|雪男は向こうからやって来た

ヒマラヤ山中で伝説の雪男「イエティ」の足跡を発見したと、インド軍が公式ツイッターに写真つきで投稿した

記事を読む

できる研究者の英語プレゼン術|スライド作成からストーリー展開まで

以前に紹介した、ポール・シルヴィア著の『できる研究者の論文生産術』は素晴らしい一冊である。著者は20

記事を読む

廃棄カツ横流し事件でよみがえる『震える牛』と食品・外食産業への不信

先日からニュースで大きく報道されている冷凍カツの横流し事件(NHKニュース「カツ横流しで業者 廃棄食

記事を読む

japanese igo

いま囲碁がとんでもなく面白い:弱冠24歳の6冠井山裕太

先月のNHKプロフェッショナル「盤上の宇宙、独創の一手。囲碁棋士・井山裕太」を見た。あまりにも面白く

記事を読む

チェス界のモーツァルト、天才ボビー・フィッシャーの生涯が待望の文庫化

伝説的なチェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの生涯を記録した傑作ノンフィクション『完全なるチェス』

記事を読む

【おすすめ英語テキスト】重要単語を因数分解|語源から根こそぎ完璧に理解する

現在開催中のKindle本ストア 9周年キャンペーン。本日はこの中から最大級におすすめしたい、この英

記事を読む

将棋棋士初の栄冠|『Number MVP賞』は 藤井聡太二冠に決定

先日は以下のエントリでも書いたように、2020年は間違いなく藤井聡太の一年でもあり、将棋棋士がアスリ

記事を読む

第69期将棋タイトル王座戦五番勝負最終第5局、新潟県南魚沼市で開幕せず!

さてさて、永瀬拓矢王座に木村一基九段が挑戦する第69期王座戦五番勝負、ご覧になってますか? 現在の四

記事を読む

岩波書店がAmazonで電子書籍Kindle版を配信開始:おすすめは『日本人の英語』

岩波書店がいよいよAmazonでも電子書籍を配信開始、というニュース。岩波文庫や岩波現代文庫そして岩

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑