文庫で学ぶ行動経済学
昨年は間違いなく統計学がブームとなった一年だった。「今年続けて読みたい統計学オススメ関連書と教科書15冊」で書いたように、そのブームは今年も継続するんじゃないかと、個人的には思っていたんだが、むしろ2014年は(再び)行動経済学の年となるのかも知れない。というくらい、関連書の出版ラッシュが続いている。
より正確には、以前単行本で刊行されていたものが、新たに文庫化されるというパターンが多いのだけれども。いずれにしろ、行動経済学に関してこれまで紹介してきた面白い書籍の数々が、このたび文庫で手軽に読めるようになったということで、まとめて再度紹介しておこう。
ダニエル・カーネマンの必読書
プリンストン大学の心理学者にして2002年のノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマン。その受賞理由が(ノーベル財団ウェブサイト)”for having integrated insights from psychological research into economic science, especially concerning human judgment and decision-making under uncertainty” であるように、彼とその盟友エイモス・トベルスキー(1996年没)が切り拓いたのが、まさにこの行動経済学の分野だ。だから、そのカーネマンの研究集大成である本書『ファスト&スロー』こそが、最高の入門書にして最高峰の一冊と言える。
原書から和書単行本への翻訳も早かったが、その文庫化はさらに予想を超えて早かった。分量はあるが入門者にも分かり易い語り口が素晴らしい。ある種の流行りの分野なだけに関連書が多々出版されているが、まずはこれが読む必要がある一冊であろう。そして多くの場合は、これで十分ということにもなる内容だ。
ダン・アリエリーの三部作
最新の行動経済学の研究成果を知るには、ダン・アリエリーの各種実験が面白い。とくに金銭報酬とモチベーションの関係や、人間がどういう状況下で虚偽の申告をするのかといった研究は、誰しもが興味を持つテーマだろう。だからこそ、彼のトークはTEDでも大人気。
政策に応用する二冊
これらの二冊は(とくに実践編)、公共政策の立案に行動経済学をどう活用できるかというアプローチが面白い。具体的な事例としては、税金の支払いが滞っている人に送る督促状。そのレターにちょっとした工夫をすることで、支払う人が一気に3倍に増えたという。細かいテクニックも多いが、確かになるほどと言わせる説得力のあるストーリーが多い。
マーケティングに使える一冊
『その数学が戦略を決める』の著者イアン・エアーズも行動経済学の研究を行っている。そればかりか、研究知見をもとにして企業を設立し、提供するダイエット・プログラムについて語ったのが本書だ。本書が肥満大国のアメリカをヤル気にさせたかどうかは不明だが、ダイエットという実に現代的なテーマに行動経済学という視点で切り込んだ、とても興味深い取り組み。キーワードはコミットメント。それ以外にも、コーヒーチェーンのスタンプカードや、チャリティ募金の集め方といったトピックも面白く読める。
日本語で読めるその他オススメ文庫
その他にも、日本語で書かれた以下の書籍で行動経済学が取り上げられている。『亜玖夢博士の経済入門』は投資家および作家として知られる橘玲の著作だが、彼らしいブラックな事例と話題が豊富なユニークな一冊。
Amazon Campaign
関連記事
-
-
最年少プロ棋士・藤井聡太とAI将棋の時代|人工知能が切り拓く新たな地平
ついにストップした藤井聡太四段の連勝記録。しかし、史上最年少でプロ棋士となってから、これまで29連勝
-
-
世界で最も成功したスポーツビジネス:アメフトNFLとスーパーボウル
米国で最も盛り上がるスポーツイベントと言えば、アメフトのスーパーボウル。個人的にはいまだにアメフトの
-
-
奨励会三段リーグ|天才少年棋士からプロへの最後の関門
中学生でプロの将棋棋士となったのは、加藤一二三、谷川浩司、羽生善治、渡辺明の4人であり、その後も第一
-
-
一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部の挑戦と初受験
さて今年の国公立大学受験でもう一つ大きな話題となっているのが、一橋大学がじつに72年ぶりに新設する
-
-
ブラックホールを初めて写真撮影|いまこそ宇宙論がおもしろい
さて先日は、人類史上初めてブラックホールの撮影に成功したという記者会見が世界中で話題となった。「ブラ
-
-
英語アカデミック・ライティング最高の一冊に日本語版が登場
英語のアカデミック・ライティングの書籍は数多くあれど、いやだからこそ、どの一冊を選べばよいか、悩んで
-
-
ミャンマーの歴史と地政学|アジアの超大国・中国とインドをつなぐ十字路
ミャンマーがいま政治的に揺れている。日本との歴史的関係も長いこの国は、僕自身も何度か訪れたことがある
-
-
国語辞典ベストセラーランキングに見る人気辞書|中学生以上は新明解、小学生はドラえもんかチャレンジか
国語辞典というのは大変におもしろい。実に個性豊かであるにも関わらず、その特徴は必ずしもきちんと伝わっ
-
-
天才・奇才のおうち時間|日本に残る最後の秘境・東京藝術大学生の華麗な日常
NHKで放送中の「金曜日のソロたちへ」という番組をご存知だろうか? これは、「ひとり暮らし拝見バラエ
-
-
人の想いこそが永遠に不滅|キャラクター論で読み解く『鬼滅の刃』
漫画発行部数は一億冊を優に超え、まさに国民的ドラマとなった『鬼滅の刃』。その原作自体は23巻をもって













