NHK-ETV特集 将棋電王戦:棋士vsコンピュータの激闘5番勝負
公開日:
:
オススメ書籍
先週末に放送されたNHK-ETV特集の「棋士VS将棋ソフト 激闘5番勝負」をご覧になっただろうか?面白かったですねえ。今夜再放送されるようなので、見逃した方は今回は絶対にお忘れなく。
コンピューターはどこまで人間に迫っているのか?コンピューターに勝る人間の強みは何か?電王戦に出場した5人の棋士とソフト開発者たちの証言、そしてソフトの思考記録をひもとき、激闘5番勝負の真実を描き出す。
もちろん、プロ棋士側の完敗に終わった第三回電王戦の結果を僕らは既に知っている。「「われ敗れたり」:完敗だったが名勝負もあった第3回将棋・電王戦」にも書いたように、激闘の詳細なレポートが執筆され、また以下のようなルポも発表されている。それくらい熱い注目を集めた戦いだったのだ。
プロ将棋棋士とコンピュータが真剣勝負を繰り広げる電王戦シリーズ。今年おこなわれた第3回大会は、プロ棋士側の1勝4敗に終わった。かつてはルールすら守れなかったコンピュータは、いかにしてプロ棋士を凌駕したのか? そして、現役のトップ棋士たちはこの結果に何を思うのか――? コンピュータ将棋に精通する著者が、丹念な取材のもとに書き下ろす迫真のルポルタージュ。
しかし今回のETV特集を見ると、勝負の結果を知っていてもなお、いやむしろ負けたという事実を踏まえているからこそ、興味深いシーンが数多くあった。映像で紹介されるプロ棋士対コンピュータの戦いの様からは、そして棋士達の敗戦の言葉には一段と重いものを感じる。それは、今後どうやってコンピュータと戦ったらよいか分からないという困惑の表情であり、またコンピュータが古い戦術を現代に蘇らせたことに対する驚嘆と畏怖を含んだ複雑な表情だ。そういったものが読み取れることが、今回のETV特集の一番のみどころだと思う。
そしてここでまた改めて思うのが、故米長邦雄の功績だ。将棋連盟会長として様々な制度改革(アマチュアからプロへの編入等)を実行した手腕が評価されるが、その中でも電王戦を導入したこと、そしてその最初の戦いの舞台に自ら登場したこと、そして何よりもそこで敗北し相手の強さをきちんと認める敗戦記を残したことは、後世に残る仕事だったと言えよう。
「「われ敗れたり」:完敗だったが名勝負もあった第3回将棋・電王戦」でも紹介した米長の著書『われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る』はその全ての記録だ。電王戦を見るならまずはここからぜひ振り返りたい。コンピュータの強さと米長の潔さ、それらがクリアに見えるおすすめの一冊だ。
そして、次回の第四回電王戦は来年春に開催される回が、「電王戦FINAL(ファイナル)」と名付けられた最後の戦いとなる。その後は「電王戦タッグマッチ」という、プロ棋士と将棋ソフトがタッグを組む新しい戦いが始まる。人間とコンピュータの勝負と共闘が、今後どのような形で展開していくのか、ソフトのさらなる向上とともに、日本将棋連盟の現会長である谷川浩司の舵取りにも期待したい。
Amazon Campaign
関連記事
-
世界を変えた密約と帳簿・会計の世界史
Amazon Kindle の「文春の翻訳本・政治経済編」キャンペーンでは、おすすめ書籍が期間限定で
-
博士号だけでは不十分!研究者として生き残るために
先日懐かしく読み返した Economist 誌の記事 "Doctoral degrees: The
-
進化心理学と行動ゲーム理論入門|『最後通牒ゲームの謎』がおもしろい
第64回(2021年度)日経・経済図書文化賞を受賞した、小林佳世子著『最後通牒ゲームの謎』が面白い(
-
東大医学部合格者の6割が通う進学塾|受験エリートと塾歴社会
先日、雑誌AERAの特集を読んだ。「東大理III合格者の6割が所属 受験エリートの“秘密結社”」とい
-
数学ミステリー白熱教室|数学と物理学の驚異のつながり
「NHK『数学ミステリー白熱教室』本日最終回をお見逃しなく」でも書いたように、先週末でNHKの「白熱
-
いま国語辞典がおもしろい|10年ぶりの大幅改訂による最新版あいつぐ
さて、「2020年、本ブログで最も売れたこの1冊」でも紹介したように、昨年の一年間でもっとも売れたの
-
2020年の夏は2つのバンクシー展が開催
以前に「オークション落札のバンクシー作品をシュレッダーで刻むという現代アート」と紹介したように、常に
-
イェール大学出版局 リトル・ヒストリー|若い読者のための「アメリカ史」のすすめ
以前にも紹介したことのある、「イェール大学出版局 リトル・ヒストリー」のシリーズ。いまのところ5冊が
-
春の入学・進級・入社シーズンに絶対おすすめの国語辞典3選
3月は日本全国いたるところで卒業式が行われる。小学校を卒業して中学生になれば電車もバスも大人運賃だ。
-
三浦しをんのマニアックな職業視点がいちいち面白い:今度の舞台は社史編纂室
次々と面白い小説を発表し続ける三浦しをん。そんな彼女のモチベーションは、世の中にこんな仕事があったな