*

山に登るということ:登山と遭難とそして救助

公開日: : 最終更新日:2015/06/16 オススメ書籍, オススメ漫画

2008年のマンガ大賞にも選ばれた、山岳漫画『岳』。いまさら言うまでもないが、これものすごく胸を打つマンガなのである。なぜ人は山に登るのか、それも死と隣合わせの山に。そしてそんな人を救助する側は、どんな思いを抱いて山に居続けているのか。日本国内でも雪山やスキー場での遭難が相次ぐ昨今、冬に山に登るということの危険を再認識するという意味でも、読み返されてよい漫画ではないかと思う。

 

 

 

photo credit: TomFahy.com via photopin cc

photo credit: TomFahy.com via photopin cc

 

さて、「最強のクライマー夫婦物語『凍』と、山岳救助漫画『岳』」にも書いたとおりなのだが、このマンガ『岳』の後にぜひとも読んで欲しいと思っているのが、沢木耕太郎の『凍』だ。沢木の作品をいくつも好んで読んできた僕にとっても、これは絶対におすすめできる一冊。世界最強とも讃えられた日本人クライマー山野井泰史が妻・妙子と挑んだヒマラヤの難峰ギャチュンカン。登頂後に雪崩に巻き込まれ視力を失い、食料も尽きてもはやこれまでかと思っていたところ、妙子の直感もあって二人で奇跡の生還を果たす。その壮絶なまでの登山を、彼らの生活に密着した沢木耕太郎の筆が静かに熱く記録したものである。

 

 

そして、その同じ登山を山野井が自ら振り返ったのが以下の『垂直の記憶』だ。ぜひ沢木の『凍』と読み比べて欲しい。

 

 

そして最近僕が読んだのが、その山野井泰史の近刊『アルピニズムと死 僕が登り続けてこられた理由』だ。世界最強のクライマーは同時に「天国に最も近い男」と呼ばれ続けていた。それは誰よりも高いところに登るからではなく、誰よりも危険な登山をし、いつ死んでもおかしくないと囁かれていたためである。しかし、そんな山野井がギャチュンカンを始めとするいくつもの絶体絶命の状況から生還し続けたのには理由がある。それを自ら振り返ったのがこの『アルピニズムと死』の内容だ。

 

山野井と、山で死んだ彼の多くの戦友たちとでは何が違ったのだろうか。もちろん運もあれば精神力もある。それと同時に、圧倒的な準備、数多くの技術、積み重ねた経験、そしてそこから導き出される感覚や想像力、そういうありとあらゆるものを総動員して、これまでなんとか生き抜いてきた。登山やスキー・スノボ用具の発達で、近年では多くの人にとっても雪山が身近なものとなったのは間違いないだろう。しかし、最近相次いだ遭難事故が示すように、山に簡単な事など何一つない。そういう背筋が伸びる思いをさせてくれる本書もまた、登山ブームといわれるいま、もっと読まれてもよい内容と言えるのではないだろうか。山に登り始めたばかりの人、そしてこれから登山を始めてみたいと思っている人にとってはとくに、真摯に読んでおきたい一冊である。

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

できる研究者の英語プレゼン術|スライド作成からストーリー展開まで

以前に紹介した、ポール・シルヴィア著の『できる研究者の論文生産術』は素晴らしい一冊である。著者は20

記事を読む

若き天才たちの下北沢青春物語|90年代東京のお笑いがスゴイ

これは、めちゃくちゃ面白い! まだ1月なのに、早くも2022年のベスト・ブック・オブ・ザイヤーに選出

記事を読む

東京五輪と同時開催していた「数学オリンピック」でも日本代表がゴールドメダル|この漫画がスゴい

東京オリンピックが閉会した。日本代表選手が獲得したメダルの数や色に一喜一憂するのは当然かも知れないが

記事を読む

宗教と科学の壮大な人間ドラマ|漫画『チ。―地球の運動について―』がめちゃくちゃ面白い

第1集が出版されたときから異色の傑作漫画になると思って注目してきた『チ。ー地球の運動についてー』が、

記事を読む

若き水中考古学者の海底探検記|ガラクタから宝物そして遺跡新発見

「水中考古学」なる学問分野をご存知だろうか? もちろん考古学なら知っている。それの水中版? もちろん

記事を読む

都立浅草高校国語教師・神林先生が愛してやまない飲み屋と呑み助と大将と女将

自宅や実家での新年気分も終わり、今週末あたりから町の飲み屋に繰り出すか、という人も多いかも知れない。

記事を読む

2020年の夏は2つのバンクシー展が開催

以前に「オークション落札のバンクシー作品をシュレッダーで刻むという現代アート」と紹介したように、常に

記事を読む

博士号だけでは不十分!研究者として生き残るために

先日懐かしく読み返した Economist 誌の記事 "Doctoral degrees: The

記事を読む

若き昆虫学者のアフリカ|いまこそ昆虫が面白い

もうご存知と思うが、いま昆虫が熱い。ちょっと前から大ブームだ、とまでは言えなくとも、プチブームなのは

記事を読む

ラグビー日本代表が強くなった理由|エディー・ジョーンズのコーチング

冬のスポーツ風物詩と言えば、箱根駅伝に加えて高校サッカー、そして大学ラグビーである。そんなラグビーの

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑