いま囲碁がとんでもなく面白い:弱冠24歳の6冠井山裕太
先月のNHKプロフェッショナル「盤上の宇宙、独創の一手。囲碁棋士・井山裕太」を見た。あまりにも面白くて、今まで将棋しか齧ってこなかった自分を恥じたほどである。
将棋界では羽生善治が7大タイトルを全て制覇する快挙を成し遂げたが、いま囲碁界においてもその可能性が高まっているいるという。そんな前人未踏の偉業に挑戦しているのが、弱冠24歳にして既に史上初の6冠を独占する井山裕太。
photo credit: Ken Reppart via photopin cc
井山裕太の囲碁人生の中で個人的に最も興味深かったのが、師匠・石井邦生の育成方法。小学生のときに石井の弟子となった井山だが、石井が採った育て方は従来のものとは全く異なる、それこそ型破りなものであり、一方で実に現代的であるとも言えるものだった。
第一に、住み込みではなく自宅から師匠のところへ通わせた。そして、インターネット囲碁を利用して、数多くの対局を通じて育てようと考えた。何よりも、ネットだと師匠のコワい顔が見えないだろうから(笑)、思い切った一手、伸び伸びとした碁を指すように指導した。これが素晴らしいではないか。
子供らしく元気な碁、恐れを知らない大胆な一手、そういったものをどんどん奨励し、ネット対局を重ねた。その無数の積み重ねがいま、井山が「盤上の宇宙」を築く基礎力となっているのは疑いようがない。囲碁の世界にこういう師匠もいるものかと、とても印象に残る師弟関係として写った。
これで一気に囲碁に関心を持ってしまった僕は、さっそくNHKで後日放送された井山の対局を見ることにした。しかも師匠である石井がその対局の解説を務めるというのだから、これはもう大変に楽しみにしていたのである。結果的には、序盤の劣勢を跳ね返した井山の勝利だったのだが、それ以上に印象に残ったのはやはりこの師匠・石井。井山の一手を解説するための解説者のはずなのに、「なぜ、この一手なんでしょうねえ」とか「私にも狙いがよく分かりません」等々、解説になっていないコメントが多数飛び出した。
しかし僕が言いたいのは、弟子を伸び伸びと育てたからこそ、いまその弟子が師匠にも理解不能な「独創の一手」を打ち続けているのだろうということ。この師匠にしてこの弟子あり、という愛情深い関係が見えたようで、テレビ対局を見ながら思わず心が暖かくなった。今後の井山の7冠への挑戦に、大きな期待と関心を与えてくれた、素晴らしい内容だったと思う。
Amazon Campaign
関連記事
-
山に登るということ:登山と遭難とそして救助
2008年のマンガ大賞にも選ばれた、山岳漫画『岳』。いまさら言うまでもないが、これものすごく胸を打つ
-
選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語
もうすぐ14年ぶりの宇宙飛行士が決まるって知ってましたか? いや、知っているどころか応募しましたよね
-
『ヤバい統計学』著者による新作『ナンバーセンス』で知る、アメリカ大学ランキングの舞台裏
以前に「テーマパーク優先パスの価格付け」でも紹介したように、カイザー・ファング著『ヤバい統計学』は、
-
ゲイツ財団と世界の貧困に関する3つの誤解
今年もビル&メリンダ・ゲイツ財団の年次書簡が発表される時期がやってきた。「ビル・ゲイツからの手紙と
-
科学と度量衡の歴史|キログラムの定義が130年ぶりに変更
さて、先日のニュースでも大きく報道された通り、来年から「キログラム」の定義が変更されることとなった。
-
プリンストン大学の研究に、フェイスブックが倍返し
WSJ「『フェイスブック滅亡』論文、物議を醸す」や、CNET「Facebook、ユーザー急減の予測に
-
辺境ライター高野秀行の原点『ワセダ三畳青春記』の「野々村荘」こそ日本最後の秘境
「高野秀行はセンス抜群の海外放浪ノンフィクション作家」にも詳しく書いたように、辺境ライターこと高野秀
-
国語辞典を選ぶならこの4冊がおすすめ:現代語に強い三省堂・豊かな語釈の新明解・安定と安心の岩波・誤用を正す明鏡
目的と用途に合わせてベストの国語辞典を見つけよう 卒業・入学シーズンを前に、そのお祝いとして国語辞
-
【おすすめ英語テキスト】あの「語源図鑑」に待望の続編が登場|英単語を語源から根こそぎ理解する
ついに出ましたね、あのベストセラー『英単語の語源図鑑』に第二弾の続編が! これ、ものすごくおススメな
-
越後長岡藩の熱い夏|最後のサムライの夢の跡
新潟の長岡はこの夏おおいに盛り上がってます。一つ目の理由は、なんといっても映画『峠』がついに公開され