いまこそ将棋がおもしろい|人工知能と不屈の棋士
公開日:
:
オススメ書籍
先月出版されたばかりの『不屈の棋士』を読み終えたところなのだが、これが実に読み応えのある一冊だった。最初から最後まで興味深いテーマとエピソードが続き、一気に読み進めてしまうほどエキサイティングな内容だったのである。
羽生善治は将棋ソフトより強いのか。渡辺明はなぜ叡王戦に出ないのか。最強集団・将棋連盟を揺るがせた「衝撃」の出来事、電王戦でポナンザに屈した棋士の「告白」とは。気鋭の観戦記者が、「将棋指し」11人にロングインタビューを敢行。ここまで棋士たちが本音を明かしたことはなかった!由緒ある誇り高き天才集団は、はたしてこのまま、将棋ソフトという新参者に屈してしまうのか。劣勢に立たされ、窮地に追い込まれた彼らはいま、何を考え、どう対処し、どんな未来を描いているのか。プロとしての覚悟と意地、将来の不安と葛藤……。現状に強い危機感を抱き、未来を真剣に模索する棋士たちの「実像」に迫った、渾身の証言集。
個人的にも大変注目しているコンピュータ将棋。人工知能の著しい発展によって、プロ棋士たちが続々と敗れたことはまだ記憶に新しい。機械に向かって「負けました」と言わざるを得ない彼らの心境はいかほどか。そんな人工知能全盛の時代を迎え、果たしてプロ棋士の存在価値とは何か、そして今後将棋界はどうなっていくのか?それを現在の代表棋士11人に対しインタビューし、彼らがいま感じている本音をまとめたのが本書『不屈の棋士』である。

現役プロ棋士の中でも圧倒的な強さを誇る羽生善治と、新世代の筆頭・渡辺明がコンピュータ将棋をどう捉えているのか、から始まる本書はそれだけで貴重な証言である。将棋界を背負う彼らだからこそ容易にはコンピュータに負けるわけにはいかず、将棋連盟やスポンサーとの調整も欠かせず、それが彼らがこれまで電王戦に参加してこなかった理由の一つでもある。
そんなトップ棋士が現在の人工知能とこれからの将棋について、これほど本音で語った機会はこれまでになかったのではないだろうか。そこに迫った点だけでも本書を読む価値はある。しかし、より面白く読めるのは、その他多くのプロ棋士たちからも特徴ある本音を引き出していることだろう。しかもそれが、コンピュータ将棋に肯定的な者・否定的な者、すでに自分自身の練習にコンピュータ対戦・検索を積極的に取り入れている者・そうでない者と、バランスよく話を聞き出しているのがよい。
これからの将棋の未来に対しても楽観的な意見・悲観的な予想が混在し、それだけコンピュータ将棋がもたらした衝撃の大きさを物語る。著者はこの一連のインタビューから何かを結論付けたわけではない。しかしその書名が示唆するように、人工知能という新しい技術を迎え、新しい戦い方を模索するプロ棋士たちに不屈の闘志を観たのである。彼らはそして僕らも、そういう激動の時代の中に生きており、だからこそ同時代に生きるものとして、プロ棋士たちのこの戦いを注視し、その様を目に焼き付けておかねばならないのである。
(関連エントリ)
- 「われ敗れたり」:完敗だったが名勝負もあった第3回将棋・電王戦
- NHK-ETV特集 将棋電王戦:棋士vsコンピュータの激闘5番勝負
- 人工知能と人間の未来、囲碁対決のその先へ|今週末のNHKスペシャルを見逃すな
将棋ファンにはもちろんのこと、人工知能に興味がある人、そしてそれが人間にどのような影響を与えているのかに関心がある層にとっても、間違いなく面白く読める一冊、それがこの『不屈の棋士』なのである。おすすめです。
Amazon Campaign
関連記事
-
-
チェス界のモーツァルト、天才ボビー・フィッシャーの生涯が待望の文庫化
伝説的なチェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの生涯を記録した傑作ノンフィクション『完全なるチェス』
-
-
科研費獲得の方法とコツ|戦略的な申請書執筆ノウハウ
さて、今年もまた科研費の応募締切が近づいてきた。採択された場合に翌年4月から経費使用ができるようにと
-
-
今年度から科研費の締切が早まる|公募スケジュールの前倒しに注意
現在、科学研究費助成事業(科研費)の主な種目については、前年の9月に公募を開始し、翌年4月1日付けで
-
-
学校で教えて欲しいおすすめ国語辞典の選び方・使い方・遊び方:複数の辞書を比較して使い分けよう
ベストセラーかつロングセラーの3冊の定番国語辞典 数多く存在する国語辞典の中から最初の一冊を選ぶな
-
-
箱根駅伝「幻の区間賞」と関東学連チーム出場の是非
来年もまた正月から箱根駅伝にくぎ付けとなってしまう、そんな人も多くいることだろう。二日間に渡るこれだ
-
-
捏造と背信の科学者:繰り返される不正と、研究者の責任ある行動
STAP細胞の件で改めて考えさせられたのは、なぜこの一件だけではなく、研究不正・論文捏造がこれほどま
-
-
今年の卒業・入学のお祝いに|おすすめの国語辞典・人気ランキング
今年もまた3月の卒業式、そして4月の入学式が近づいて来た。昨年はコロナによりことごとく中止となってし
-
-
囲碁マネーリーグ|井山裕太五冠が11年連続の賞金王そして1億円越え
囲碁棋士の2021年賞金ランキングが発表され、棋聖、名人、本因坊を防衛し王座、碁聖を奪取した井山裕太
-
-
事実は小説より奇なり|大人が味わうノンフィクション
先日おすすめした『10代のための読書地図』と同じブックガイドでありながら、そのテイストが大幅に異なる
-
-
【Kindle特大セール】7月の月替わりセール注目の統計データ分析3冊
Amazonは今月は年に一度の最重要イベント「プライムセール」を実施することもあり、Kindle電子

