そして誰もいなくなった東京|中野正貴の TOKYO NOBODY の世界
緊急事態宣言が発令され、そして街から人が消えた。以下の写真は新宿駅南口、いつもならどの時間帯でも人混みのこの場所でさえ、いまはひとりの歩行者もいないのである。
でも、この写真が撮られたのは、実はもう20年以上も前のことなのだ、といったら信じられるだろうか? そんな信じられない本当をやってのけたのが、写真家・中野正貴の TOKYO NOBODY だったのだ。CGでもなく、合成写真でもなく、彼が愛する東京の街を正月もお盆の時期も、ただひたすら隅々まで歩き回り、人々が去った後の朝の繁華街を彷徨し、そしてまさに決定的瞬間を捉えたものだ。数多の人が常に行き交う東京のど真ん中で、そんな瞬間などあるのだろうか、と不思議に思うのも無理はない。しかし、それがあるのである。
昨年末には恵比寿にある東京都写真美術館で大規模個展が開催され、僕はそこでおよそ20年ぶりに、彼の新作写真集『東京』を購入した。あれからまだ半年も経たないうちに、まさか東京そして日本において、現実に、日常として、これほどまでにひとの気配を感じない、SF映画のような空間と時間が実際に生み出されるとは、想像だにしなかった。いま手元にある中野の2冊の写真集のページをめくりながら、2000年に出版された『Tokyo Nobody』からは中野が提示したこれまでにない都市像を切り取る新たな視点に再び感銘を受け、そして2019年に出版された『東京』までの約20年の間に繰り返された東京の破壊と創造を目の当たりにし、そしていま2020年、新型コロナウイルスの影響で本当に人がいなくなってしまった、それこそ嘘のような今の本当の東京に思いを馳せ、そのあまりにも大きな衝撃に改めてショックを受けざるを得ないのだ。
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