科研費に応募する3|研究種目をどう選ぶか?
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最終更新日:2020/09/08
研究・論文
それでは今年の科研費に応募するときにまず考えるのが、実際に研究計画を提出する「研究種目」である。この種目は、具体的には以下のリストのように、かなりの数が用意されており、初めて応募する際には、どれを選んだらよいか、迷うこともあるだろう。ただし、実験機器や試薬等でより多額の予算がかかる自然科学系の研究にくらべて、経済学や政治学・経営学等の社会科学系であれば、そこまで大きな費用が必要となることは少ない。であれば、応募する研究種目は3つくらいに絞り込まれてくるし、その中でもとくに「若手研究」がもっとも候補として考えられるだろう。
まず、これらの「研究種目」の全体像だが、以下の図のとおり、そして名前のとおり「基盤研究」が科研費の中心となっている。基盤研究のうち、Sは総予算が5,000万円以上、Aは2,000万円以上、Bは500万円以上、Cは500万円以下、という分け方となっている。
そんな「基盤研究」を下支えしているのが、イメージ図にある通りの「若手研究」および「研究活動スタート支援」である。つまり、博士課程を終えたばかりであったり、勤務先大学等に着任したばかりであったり、という若手研究者にとっては、まずはこの2種目が検討候補にあがってくるものだ。では、この2つの種目の違いはなにか、そしてどちらに応募するべきなのか?
まず「研究活動スタート支援」だが、この応募要件は以下のように規定されている。より具体的には、科研費の応募が毎年秋であるため、たとえば4月着任であった場合、その前年の科研費には応募できない。そのような場合、着任同年の秋まで待つか、もしくはこの「研究活動スタート支援」に応募するか、という選択肢となるのだ。最大2年間の研究予算は総額300万円と、もうひとつの選択肢「若手研究」の最大4年間で500万円と比べると小規模となるが、4月着任でいちはやく研究に取り組めるというメリットもあるのが、この「研究活動スタート支援」という研究種目なのである。
研究機関に採用されたばかりの研究者や育児休業等から復帰する研究者等が一人で行う研究。2年以内、単年度当たり150万円以下。
というように、もしも上記で説明したように、4月に着任したばかりであったり育児休業から復帰したばかり、という要件に当てはまるのであれば、「研究活動スタート支援」種目も候補となるだろうが、そうでなければ「若手研究」が最有力となるだろう。この「若手研究」は最近の科研費改革で大きく変更となった種目の一つであり、以前は「39歳以下」が条件であったところ、現在は「博士号取得後8年未満」となっている。
【平成30(2018)年度公募以降】博士の学位取得後8年未満の研究者が一人で行う研究。なお、経過措置として39歳以下の博士の学位を未取得の研究者が一人で行う研究も対象。2~4年間、500万円以下。
博士進学のキャリアが多様化しているいま、いったんは民間就職等を経て、つまりは遠回りをして博士号取得に至るひともいれば、博士号取得後すぐに大学等の研究機関に着任しないケースもある。アカデミックな就職事情も以前とは大きく様変わりしている。こうした背景をもとに、これまでの「39歳以下」から「博士号取得後8年未満」と、「若手」の定義を変えより柔軟に対応するこの「若手研究」は、おそらくは多くの(まだベテランではない)研究者にとって、もっとも有力な研究種目と言えるだろう。一方で、この種目は2回までしか採択されない、という制限げあるので、上記のイメージ図のとおり、まずはこの「若手研究」で研究経験を積み、そしてその後は一段上の「基盤研究」へと移行していくことが期待されている。
さて、その「基盤研究」であるが、もっとも予算が小さいCクラスは、以下のように定義されており、若手研究とほぼ同程度の規模である。そのため、年齢や採択回数によって「若手研究」に該当しなくなった人にとっては、この基盤研究Cが、もっとも有力な応募先となるだろう。
1人又は複数の研究者が共同して行う独創的・先駆的な研究。3~5年間、500万円以下。
ただし、「若手研究」で応募できる場合には、同規模の種目とはいえ、「基盤研究C」ではなく、「若手研究」で応募するべきだ。その理由は単純に、実績豊富なベテラン研究者は「若手研究」種目に応募できないため、競争率が「基盤研究」よりもゆるやかである、ということだけではない。それに加えて、採択率も研究種目間で大きく異なっているからだ。実際に昨年の採択実績をデータで確認してみると、「基盤研究C」では、採択率が28.2%であったところ、「若手研究」では 40.0%と極めて高い数字となっているのだ。このように、科研費事業は若手の研究を奨励しようと、高い採択率を設定しているのだから、「若手」に該当するうちは、この研究種目に応募するのと言えるだろう。逆にいうと、あえて若手研究に応募しないのは、より大きな予算が必要な研究に取り組むため、基盤研究のS/A/Bに応募する、という場合くらいであろう。しかも、例えば、基盤研究Sであれば、採択率12.3%と一段と厳しい競争となるので、このように若手研究に該当するにもかかわらず、あえて若手では応募しないというケースは非常にレアなものであろう。
というように、以上をまとめると次のようになるだろう。科研費の研究種目は数が多いものの、上記のような観点から考えると、じつはその選択は極めてシンプルなのである。
- 前年に応募資格がなかった、着任したばかりや育児休業から復帰したばかり、という研究者であれば「研究活動スタート支援」種目を検討。
- 上記のような事情がない若手研究者であれば、要件に該当するなら、採択率の高い「若手研究」種目が最適。
- 年齢や回数制限によって若手研究に応募できない場合には、同規模の「基盤研究C」が有力候補。
- 総額500万円では足りないくらいの大規模研究を計画する際には、「基盤研究B」以上を検討。
科研費応募にあたって、より詳しい解説や、採択事例および不採択事例の紹介は、以下の書籍がもっとも参考になるものとしておすすめできる。
「応募者の研究遂行能力」の書き方,重複応募制限の緩和などを加筆したベストセラー最新版!令和2年度公募に採択された申請書見本を追加.申請書の書き方を中心に、応募戦略、採択・不採択後などのノウハウを解説。
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