博士号だけでは不十分!研究者として生き残るために
公開日:
:
最終更新日:2015/06/17
オススメ書籍
先日懐かしく読み返した Economist 誌の記事 “Doctoral degrees: The disposable academic”。もう4年半も前のものだが、これが掲載された当時ずいぶんと話題になったのを覚えている。なにしろ “Why doing a PhD is often a waste of time” と、一行目から全世界の博士課程在学中の学生の神経を逆撫でしてきたのだから。この記事のポイントをいくつか列記すると次のようになる。
- In some subjects the premium for a PhD vanishes entirely. PhDs in maths and computing, social sciences and languages earn no more than those with master’s degrees. Over all subjects, a PhD commands only a 3% premium over a master’s degree.
- One thing many PhD students have in common is dissatisfaction. Some describe their work as “slave labour”. Seven-day weeks, ten-hour days, low pay and uncertain prospects are widespread.
- As this year’s new crop of graduate students bounce into their research, few will be willing to accept that the system they are entering could be designed for the benefit of others, that even hard work and brilliance may well not be enough to succeed, and that they would be better off doing something else.
この記事は当時Ph.D.進学を考えていた人を思いとどまらせるくらいのインパクトはあったように思うが、一方で、既に博士課程に入ってしまっており、この記事でいっそう不安を煽られた現役Ph.D.はどうすればよかったのか?そんな彼らが頼りにしたのが、長いこと読み継がれてきた名著 “A PhD Is Not Enough!: A Guide to Survival in Science” であったのだ。たぶん。当時Ph.D.真最中だった僕も読んだし。
そんな本書がなんとついに翻訳されて登場した。それが本書、タイトルはそのままに『博士号だけでは不十分!―理系研究者として生き残るために』である。
★アメリカの大学生・院生に20年以上愛読されてきたロングセラー、いよいよ日本上陸!★
研究だけで本当にいいの?印象的な論文・口頭発表のコツから、指導教官・研究課題の選び方、研究費の獲り方、面接の受け方まで、一人前の研究者になるための実際的な知恵がつまった決定版サバイバルガイド!
サブタイトルには「理系研究者」と銘打たれているが、もちろん社会科学系であってもそれ以外であっても、程度の差こそあれ本質的な違いはない。だからもし今からPh.D.進学することを考えているのなら、少なくとも本書と、上記の Economist 記事くらいは読んでおいた方がよいように思う。それと同時に本書は、Ph.D.修了後の研究者に向けても書かれているのだから、僕自身もこれから繰り返し読んでいくべき一冊なのである。
Amazon Campaign

関連記事
-
-
イェール大学出版局 リトル・ヒストリー|若い読者のための「考古学史」のすすめ
以前にも紹介したことのある、「イェール大学出版局 リトル・ヒストリー」のシリーズ。いまのところ5冊が
-
-
【おすすめ書籍】ハーバード数学科のデータサイエンティストが明かす恋愛ビッグデータの残酷な現実
アメリカでベストセラーとなった一冊 "Dataclysm" がようやく翻訳出版された。これは人気出会
-
-
NHKの異色数学番組『笑わない数学』第2回は「無限」の魅力と魔力に迫る
さて、初回が放送されたばかりのNHK『笑わない数学』、ご覧になりましたか? 第1回では「素数」の謎に
-
-
[おすすめ数学テキスト]政治学・社会学のための数学基礎講座
経済学Ph.D.課程の多くでは、夏の間に新入生向け の数学基礎講座(通称 Math camp)を開講
-
-
捏造と背信の科学者:繰り返される不正と、研究者の責任ある行動
STAP細胞の件で改めて考えさせられたのは、なぜこの一件だけではなく、研究不正・論文捏造がこれほどま
-
-
海外で研究者になる|知られざる就職活動その舞台裏
日本人が数多く海外留学していることに比べると、海外で就職する例はまだまだ少ないと言えるだろう。とくに
-
-
戦略アナリストが支える全日本女子バレー|世界と互角に戦うデータ分析術
女子バレーボールのワールドカップもいよいよ終盤戦。リオデジャネイロ五輪への出場権をかけて瀬戸際のニッ
-
-
イェール大学出版局 リトル・ヒストリー|若い読者のための「アメリカ史」のすすめ
以前にも紹介したことのある、「イェール大学出版局 リトル・ヒストリー」のシリーズ。いまのところ5冊が
-
-
5月25日は「広辞苑の日」って知ってましたか?
「ことばは、自由だ。」というキャッチフレーズでも知られる、岩波書店の「広辞苑」は、国語辞典の代表格と
-
-
明鏡国語辞典の最大の特徴は「問題な日本語」に対する答え
国語辞典編纂という仕事は、とても重要なものなのに一般に知られることがほとんどない。その職務内容やそこ