メジャーリーグ新時代|アストロズ優勝が示す鮮やか過ぎるデータ革命
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先日 NHK-BS で放送された「アストロズ革命~MLBデータ新時代~」がめちゃくちゃ面白かったのだが、ご覧になっただろうか?見逃してしまった方に朗報なのが、1/4(木)22時からの再放送が決まっていること。今度こそお忘れなく!
で、どんな放送内容だったのかと言うと、2017年のワールドシリーズを制したアストロズの見事な復活の物語と、その背景にあるデータ活用の取り組みである。
2017年、メジャーリーグの頂点に立ったアストロズ。シーズン100敗が当たり前だった弱小チームはどのようにして生まれ変わったのか。そこには時代の先を行くデータ戦略と、大型ハリケーンの被害に苦しむ地元ヒューストンへの熱い思いがあった。チームの司令塔・ルーナウGMや、かつて日本でも活躍したパウエル打撃コーチ補佐、シーズン半ばまで在籍した青木宣親選手などを独自取材。その証言から「アストロズ革命」に迫る。
負けグセがついていたどん底のチームがたった数年でメジャーリーグを制するほどに復活したのである。地元ヒューストンのファンはもちろんのこと、全米・全世界のベースボールファンに衝撃を与えるほどの奇跡と言えるだろう。そんなミラクルを演出したのが、新たにGMに着任した、元マッキンゼー・コンサルタントのルーナウ史だった。
メジャーリーグで勝てるための戦略をたて、そのための目標数値を設定し、それに相応しい選手を獲得・育成していった中長期での取り組み。もちろんこのプロセスの中では、方針に合わない選手の放出もいとわず、それだけの痛みを伴うこともあった。しかしその結果がいまのこの素晴らしい成果である。その詳細については、例えば Sportiva の記事「へっぽこ球団と見せかけ4年で世界一に。アストロズGMが使った魔法」等を参照頂きたい。
さて、こうしたアストロズの取り組みは、メジャーリーグに最初のデータ革命を起こした『マネー・ボール』の流れをくんだものと言える。これまで直感や経験のみに裏打ちされていた球団経営と試合戦略に、これまでにないデータ活用を盛り込んだ当時としては画期的な方針によりアスレチックスを蘇らせたのが、球団GMビリー・ビーンの物語だ。映画化もされたのでご覧になった方も多いだろうが、間違いなく歴史に残る名作ノンフィクションだ。
1990年代末、オークランド・アスレチックスは資金不足から戦力が低下し、成績も沈滞していた。新任ゼネラルマネジャーのビリー・ビーンは、かつて将来を嘱望されながら夢破れてグラウンドを去った元選手。彼は統計データを用いた野球界の常識を覆す手法で球団改革を実行。チームを強豪へと変えていく―― “奇跡”の勝利が感動を呼ぶ! ブラッド・ピット主演で映画化された傑作ノンフィクションの全訳版。
そんな「マネー・ボール」革命に続けと他チームも積極的にデータを使ったチーム運営を目指してしのぎを削るようになった結果、現在の「ビッグデータ・ベースボール」時代が幕を開けたのである。
“常識”という難敵に“数学”という武器で挑んだ男たちの物語。「ほかのチームから見向きもされなかったベテラン選手、多額の契約金で入団したドラフト指名選手、古い教えを受けたコーチ、数学の天才から成る寄せ集めのチームが、個々の能力を合計したよりも大きな力を発揮して、ここまで到達したのだ。彼らは新しい意見、新しい考え方、共同作業を受け入れなければならなかった。それが2013年の彼らの物語であり、彼らの成果だった。」 『マネー・ボール』から12年。データ野球はここまで進化している!“常識”という難敵に“数学”という武器で挑んだ男たちの物語。
今回の「アストロズ革命」はその最先端をいくものであり、その中心となるのが打者の「フライボール革命」だ。ちょっとでも野球をかじったことのある人ならば、フライは打つな、内野に転がせ、という指導をされたことがあるだろう。これは、ボールを打ち上げてしまってはフライ・アウトになるだけ、でもゴロならば相手選手のエラーを誘う可能性があると期待するからこその助言である。
しかし、今はまったく違うのだ。積極的に打ちにいく。しかも小柄な選手であっても積極的なホームランを狙って。なにしろ、どれくらいのスイングスピードで、どれくらいの角度でボールを打ち上げると本塁打になる可能性が最も高いのかが、データによって示されているのである。あとはこの確率をねらって、期待動作をするだけ、というわけなのだ。それと同時に注目なのが、ホームラン狙いにありがちな三振の数の多さも克服する試みまできちんと考えられていることだ。近年メジャーリーグでホームラン数が激増しているのだが、その背景にはこんな「データ革命」があったのである。
もう一つ今回の NHK 特集で興味深かったのが、アストロズがワールドシリーズで対戦したドジャースのダルビッシュ投手を完全に攻略していたことだろう。僕もニュースでダルビッシュが打たれたことは知っていたのだが、まさかその背景ではここまで完璧に試合前から攻略されていたなんて!もはやデータ活用は当たり前で、その活かし方が問われる試合運びとなっているのだ。
以前に書いた「スポーツ業界にデータ革命の波」でも紹介した通り、野球は数あるスポーツの中にあって、現在もっともデータ活用が進んだスポーツの一つである。その発信地はもちろん常に米国メジャーリーグでそれが海を渡って日本に波及するのがこれまでのプロセスだった。一方では今では、他のスポーツにおいてもデータ活用が非常に盛んになってきており、まさにスポーツにおける一大革命が現在進行形で展開されているのだ。詳しくは「スポーツの統計学|データ・サイエンティストたちのゲーム分析」で書いたとおりだが、今はスポーツファンにとっては新しい試合観戦の楽しみ方が増えた時代であり、そしてデータマニアにとっても非常にエキサイティングな時代と言えるだろう。ぜひこの新しいムーブメントに乗って、これまでとは違った視点からスポーツを楽しんでみてはどうだろうか。スポーツは自分でするのはもちろん、見るのもずっと面白くなるはずだ。
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