ワールドカップの閉幕、そしてデータドリブン・サッカーの開幕
ドイツ優勝で幕を閉じたサッカー・ワールドカップ。7-1という大差でブラジルを撃破した準決勝の試合に象徴されるように、今大会のドイツは終始圧倒的な強さだった。そして、その強さを支えたのがビッグ・データだった、というのも大変に興味深い。

ウォール・ストリート・ジャーナルが “Germany’s 12th Man at the World Cup: Big Data” で書いているように、ドイツ企業SAPが開発した Match Insights が今大会のドイツチームの秘密兵器であり12人目のプレイヤーだったと報じている。このツールを有効に利用することで、ドイツ優勝の要因となった素早いパス回しと aggressive style へと結実したのだと。
As Germany prepares for Sunday’s World Cup final against Argentina, it will have Big Data on its side.
To gain a competitive edge, the team partnered with German software giant SAP AG to create a custom match analysis tool that collects and analyzes massive amounts of player performance data.
The tool, called Match Insights, analyzes video data from on-field cameras capable of capturing thousands of data points per second, including player position and speed. That data then goes into an SAP database that runs analytics and allows coaches to target performance metrics for specific players and give them feedback via their mobile devices.
A focus for the German team this year was speed, said Nicolas Jungkind, SAP’s head of soccer sponsorships. Using Match Insights, the team was able to analyze stats about average possession time and cut it down from 3.4 seconds to about 1.1 seconds, he said. The tool allowed them to identify and visualize the change and show it to coaches, players and scouts. “That then goes into the game philosophy of the German team. What is apparent is the aggressive style Germany plays.”
さて、その Match Insights のシステムについては、一部が公開された映像を見たほうが理解が早いと思う。サッカーの試合をリアルタイムにデータ化し visualize するこのツールは確かに素晴らしい。眺めているだけでも美しく、思わず見とれてしまいそうではないか。もちろん監督やコーチにとっては見入っている暇はなく、このデータをどう分析し、どう戦略に活かすかが問われているのだけれども。こうしたドイツチームの取り組みについては、週刊ダイヤモンドも「サッカーW杯優勝のドイツ代表が8年間改善してきた「数字」とは?データフットボールを支える最新テクノロジー」という特集で紹介している。
さて、この Match Insights だが、これまではドイツチームへの独占的提供にとどまっていた。しかしなんと、SAPジャパンはつい先週、日本のスポーツ・ビッグデータ市場への本格参入を発表した。これは非常に面白くなってきた。今後SAPが同システムを、日本を始めとする世界のナショナルチームへ提供すれば、今度はこのツールをどう利用するかという、データ分析・活用の手腕がますます問われるようになるだろう。
監督の戦略・戦術とともに、サッカーの試合そのものが飛躍的にレベルアップするのは間違いない。次の日本代表監督を誰が担うのかといった報道に熱が帯びるのは結構だが、いよいよ本格的なデータドリブン・サッカーの時代を迎え、誰がそれに最も上手く適応していけるのか、そういうデータ活用の観点からも監督の候補や適性について議論して欲しいところである。
Amazon Campaign
関連記事
-
-
年収は「住むところ」で決まる: The New Geography of Jobs
"How Professional Salaries Vary Around the Country
-
-
【おすすめ書籍】ハーバード数学科のデータサイエンティストが明かす恋愛ビッグデータの残酷な現実
アメリカでベストセラーとなった一冊 "Dataclysm" がようやく翻訳出版された。これは人気出会
-
-
フェイスブック・データでみるバレンタインデー|世界中が愛を込めて
いつの間にかバレンタインじゃないですか、諸兄の皆様方、心の準備はOK? さて、昨年のこの時期にも「バ
-
-
2023年第99回箱根駅伝・記憶に残るが記録に残らない激走|関東学連・新田颯の名勝負
今年の箱根駅伝は、駒沢大学の三冠達成にくわえ、古豪・中央大学の復活、そして東京国際大学ヴィンセントの
-
-
欧州サッカー・マネーリーグ|今年も首位のバルセロナだけれども
毎年、この時期に楽しみなのが、「デロイトフットボールマネーリーグ」である。世界的な監査法人デロイトが
-
-
データで考える|史上最高の男子テニスプレイヤーは誰だ?
今年の全豪オープンテニスはジョコビッチの優勝で幕を閉じた。錦織にはもう少し上まで行って欲しかったが、
-
-
ヨーロッパ各国サッカーリーグ開幕:データ革命の時代
さて、いよいよ開幕したヨーロッパ各国のサッカーリーグ。ハメス・ロドリゲスがレアルに移籍し、香川真司は
-
-
今年も箱根駅伝の季節がやってきた
さて、今年もまた箱根駅伝の季節がやってきた。毎回手に汗握るドラマを見せてくれるこの大学スポーツは、始
-
-
スポーツの統計学|データ・サイエンティストたちのゲーム分析
スポーツ界に広がるデータ革命 これまで何度か書いてきたように、スポーツとデータというのはとても相性
-
-
若き研究者フィギュアスケート町田樹のスポーツ文化論
2022年の冬季北京五輪の開幕も近づいてきた。ウィンタースポーツの代表例のひとつが、フィギュアスケー
