欧州サッカー「データ革命」|スポーツを科学する最前線ドイツからの現地レポート
先日書いた「錦織圭の全豪オープンテニスをデータ観戦しながら応援しよう|IBMのSLAMTRACKERが面白い」では、現代テニスで急速に進められているデータ活用と、データを片手に試合観戦する面白さを紹介したところだが、もちろんデータ利用が盛んなのはテニスだけではない。
メジャーリーグで始まり日本のプロ野球でもデータ分析が今や当たり前となったが、それ以外でもテニスを始め、バレーボールからゴルフまで、多岐にわたるスポーツで非常に精緻なデータが収集され、相手チームを分析し、自分たちが採るべき戦略を立てるようになっている(参考「スポーツの統計学|データ・サイエンティストたちのゲーム分析」)。
そしてもちろんご存じのように、今もっともデータ革命がアツいのがサッカーである。「英国プレミア・リーグと、リバプールのData-driven football」でも書いたが、そんなデータ・サッカーを持ち込んだのが、英国プレミア・リーグの古豪リバプールだった。2010年、米国メジャーリーグのボストン・レッドソックスのオーナーがリバプールを買収したことで、レッドソックスで成果を上げた “data-driven approach” をサッカーにも導入するプランが実行に移されたのである。しかし、それから5年を経たいま、成果にはまだ乏しく、野球と比べてサッカーではデータの有効利用が難しいことをうかがわせる。
そんななか、データ・サッカーの主役に躍り出たのがドイツである。しかも、ドイツ・ブンデスリーガこの個々のチームというよりもむしろ、ドイツ代表チームというナショナルレベルでのデータ活用なのだ。それを裏付けたのが、何といっても前回のワールドカップでの優勝だ。とくに開催国ブラジルを7-1という大差で破る圧勝に世界は驚いたわけだが、実はその背景には、ドイツ企業SAPが開発した Match Insights というドイツチームの秘密兵器があったのであるというのが、「ワールドカップの閉幕、そしてデータドリブン・サッカーの開幕」でまとめたことである。
というように、今サッカーが熱いのである。いやむかしからサッカーは熱かった。であるならば、今データ・サッカーが熱い、というのが正しい言い方であろう。そんな新しい時代を迎えたいま、大変興味深い本を読んだので最後に紹介しておきたい。
一つ目はなんと漫画であり、タイトルもずばり『マネー・フットボール』だ。数多くのサッカー漫画で知られる作者・能田達規が放つ最新刊である。一つ一つのプレイをデータで分析し、しかもそのプレイを数値で評価するだけでなくお金に換算する、という視点がとても新しい。ちょっぴりギャグ要素も入った内容だが、それでいた作中には「サッカー・データ革命の時代に読んでおくべきこの5冊」でも紹介した、この分野の必読書『サッカー データ革命』が引用されていたりと、非実に面白く読んだ。Kindle版ならいまだけ第1巻が無料で読めるぞ。
続いては、『月刊フットボリスタ』の12月号。こんなサッカーマニアしか読まなさそうな雑誌はじめて買ったよ(笑)。でも今回の特集である「データ革命・現地レポート」をどうしても読みたかったのである。そして結論から言えばその内容に大満足。「欧州サッカーの最前線はここまで科学されている」というサブタイトルは伊達じゃない。
先に述べたように、いまやデータ・サッカーの中心であるドイツのクラブチームとナショナルチームを中心に、いまどんな取り組みが進めらているのかが現地から詳細にレポートされている。もちろん、ドイツをワールドカップ優勝に導いた Match Insights を開発した SAP にも迫っているし、そのソフトウェアを共同開発したデータ分析会社にもインタビューしている。しかも、欧州サッカーを舞台裏で支えるこうしたデータ分析会社に、じつは何人もの日本人がデータ・サイエンティストとして関わっていたりするのである。知らなかったなぁ、そんなことになっていたなんて。
という新しい発見がたくさんあり、今回の『月刊フットボリスタ』は読みごたえ十分で大満足の内容だ。これはもうサッカーマニアだけでなく、スポーツとデータに関心ある層すべてに向けておススメしたい一冊となっているので、ぜひ読んで頂きたい。Kindle 版は今なら 20%ポイント還元でお得。というように、いまドイツの地で大きな成果が出始めたサッカーのデータ革命は、もちろんこれからのJリーグと日本代表にとっても大いに参考になるものだろう。オリンピック予選もいよいよ佳境となっている今だからこそ、そんな新しいデータ・サッカーの姿を考えるいい機会になるのではないだろうか。
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