打倒青山学院|来年の箱根駅伝をもっと面白くするこの5冊
青山学院の5連覇がかかる来年の箱根駅伝、僕もまた正月の2日間テレビの前に釘づけとなってしまうことだろう。さてそんなライトな駅伝ファンの僕であっても大いに興味を持ったのが、青山学院を常勝軍団に導いた原監督である。ご存知のように原監督およびその奥様が二人三脚で学生を指導する方法は実にユニークだ。そしてそれが今の青学のこの実績につながっているのだから、各方面から注目がさらに高まっているのもうなずける。毎年ユニークなネーミングで目標を掲げ選手を鼓舞するその背景にある監督哲学を知りたくて、そんな僕がまず手にしたのがこの一冊だった。そしてこれがまた実におもしろかったのである。
弱小・青山学院大学陸上部を率いて11年、「箱根駅伝」制覇までの4000日が初めて明かされる。一度も箱根出場歴がない、元中国電力営業マンという異色の監督は学生たちに何を語り、どう魔法をかけたのか。そこには営業時代に培った、陸上関係者も舌を巻く驚きの手法があった。3年目の廃部危機を乗り越え、41年ぶりの箱根シード権獲得、そして制覇へ。叩き上げの営業マンが指導者として栄光を手にするまでの笑いと涙の全記録
とくに読みどころは、第1章の「新・山の神の育て方」と、第2章「伝説の営業マン」ではないかと思う。まえがきには次のように書かれており、陸上エリートとしての人生を歩んでこなかったからこそ今の栄冠があることを示唆している。「私は陸上の原晋ではない。営業マンの原晋である。けっして元アスリートの原が勝ったのではない。営業マン時代に培ったノウハウによって、箱根で勝つことができたのだ。」
そしてこの書籍を出した後も、『逆転のメソッド』や、『フツーの会社員だった僕が、青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた47の言葉』といった本を出版しており、原監督の組織論・マネジメント論は今後しばらくは注目が続きそうである。
もちろんそれ以外にも、ここ最近だけでも駅伝関連書はずいぶんと読んできた。箱根駅伝の元ランナー酒井政人が書いた『箱根駅伝 襷をつなぐドラマ』や、駅伝に関する執筆が多い生島淳による『箱根駅伝 新ブランド校の時代』は、箱根駅伝というイベントの全体像を理解するのに大いに役立つ。もともとは、というか現在もだが、関東の大学しか参加できないという極めてローカルな競技でありながら、今では沿道に100万人の応援を集め、そして2日間11時間にわたって平均視聴率28%(2016年)を叩き出すほどの、メガイベントとなった箱根の今が分かる良書となっている。
しかし、僕が個人的に、箱根駅伝の魅力を十二分に伝えているのは、上記のようなノンフィクションではなく、むしろフィクションだと思っているのである。それは昨年「箱根駅伝をより面白くするこの3冊」でも書いたものだが、その3冊に追加があるので、ここで付記しておきたい。
まず一冊目は、なんといっても堂場瞬一の『チーム』。これはもう「学連選抜」という箱根駅伝ならではの特殊なチームに着目した時点でおもしろくなると決定づけられたようなものだろう。現在の大会ではオープン参加となってしまった昔の学連選抜チームだが、彼らはいったい何をモチベーションとして走っていたのか?その人間ドラマを描き切った傑作なのである。今こそもう一度読んで欲しい一冊だ。
箱根駅伝の出場を逃した大学のなかから、予選で好タイムを出した選手が選ばれる混成チーム「学連選抜」。究極のチームスポーツといわれる駅伝で、いわば“敗者の寄せ集め”の選抜メンバーは、何のために襷をつなぐのか。東京~箱根間往復217.9kmの勝負の行方は――選手たちの葛藤と激走を描ききったスポーツ小説の金字塔。
そして続けておすすめしたいのが、『チーム』から数年後を描いた続編『ヒート』である。あのとき箱根を学連選抜で走り、いまや日本マラソン界の至宝となった山城悟。彼がついに世界記録を更新する大舞台が整った。その山城のペースメーカーに任命された甲本剛だったが、彼が抱き続けてきた孤独と葛藤とそして嫉妬が、レースを予想外の展開へと導く。思わず一気に読んでしまうほど引き込まれた一作であり、ぜひ『チーム』と合わせて読んで頂きたい。
その次におすすめしたいのが、これがまた堂場作品なのである(笑)。ほんと、はまりにはまってしまって。それがこの『チーム2』だ。日本マラソン界のエース・山城悟も、年を重ね体力は落ち、怪我に苦しんでいた。引退の二文字が脳裏をかすめるが、彼には完全燃焼できる最後のレースが必要だった。そんなときに所属していた実業団チームが解散となるという事態になり、このままひっそりと引退せねばならないのか?そんなときに駆け付けたのが、あのとき箱根駅伝を一緒に走った「学連選抜」の仲間たちだったのである。というベタなヒューマンドラマに、単純にもぐっときてしまったのである(笑)。でも本当に、おもしろいんだよ、このシリーズ。
そして最後にこの一冊を。『トップ・レフト』や『巨大投資銀行』といった金融小説のベストセラー作家として知られる黒木亮。その彼が実は箱根駅伝を走ったランナーだったというのはご存じだろうか?そんな彼が書いた自伝的小説『冬の喝采』は、何冊ものヒットを生み出した後だからこそ自由にかけた、つまりは彼が本当に書きたかった作品のように思えてならない。経済小説だけでなく、たまにはこのような異なるテイストの一冊も読んでみてはいかがだろうか。
というわけで、いまや大学駅伝界最強の青山学院を倒せるのはどのチームなのだろうかと想像しながら、来年の正月が早く来ないかと、いまから首を長くして待っているのである。山上りの負担やマラソンへの悪影響について否定的な意見が多いのも分かるのだが、それでもこれだけドラマチックに仕上げてくるスポーツイベントなど他に存在しないなか、どうしても見続けてしまいそうなのである。箱根駅伝はやっぱりそれくらい、おもしろいのである。
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