町山智浩の『アメリカのめっちゃスゴい女性たち』と、ハズレのない現代米国社会批評シリーズ
「教科書に載っていないし、知ってても全く偉くもないUSA語録」でも紹介したように、町山智浩のエッセイは大変に面白い。あまりにも読ませるものだから、最近の僕なぞは、本エッセイが連載されている「週刊文春」を見かけたら思わずこの部分だけ読んじゃうもんね。そんな週刊誌なんて今までぜんぜん読んだこともなかったというのに。町山のアメリカ社会を観察する視点はそれくらい鋭く可笑しいのである。イチオシです。
さて、この2冊で思わず町山ワールドにハマっちゃった、という人に次にお勧めしたいのがこの一冊『アメリカのめっちゃスゴい女性たち』だ。
この本は15年間アメリカに暮らした私が「スゴい!」「カッコいい!」と感動したアメリカ女性たち55人について書いたエッセイ集です。ただ、ヒラリー・クリントンとかレディ・ガガとか、日本でも既によく知られている女性たちよりも、「もっと日本の女性にも知って欲しい」と思った女性たちを多めにしました。 また、最初から恵まれている人よりも、多くの障害を乗り越えた人を多く取り上げました。女性というだけでなく、人種、民族、貧困、身体障害、親によって絶望的に未来を阻まれたが、 逆にそれによって誰よりも強くなった人々です。
本書ではある程度は名の知られた女性から、それこそ全く無名の市井の一人まで、様々なバックグラウンドの女性たちが紹介されていく。「下ネタもいける、アメリカの黒柳徹子」とか「全盛期の勝間和代とみのもんたを足してパワーアップさせたような、ライフスタイルの教祖」といった、町山独特の形容が楽しめると同時に、「日系女性といえば礼儀正しくて大人しくて……というステレオタイプを徹底的に破壊したのが彼女のいちばんの功績」といった町山ならではの評価に思わずはっとする。その一つ一つが実に興味深いのだ。
町山が映画評論家だからこそ、テレビや映画関係者を数多く取り上げているのは確かだが、僕が「アンジェリーナ・ジョリーと乳がん予防とリスク観」で書いたこととは全く異なった見方を披露していたりと、大いに勉強になる。個人的にとくに興味を持って読んだのが、失業中の元教師が転じて名インタビュアーとなったテリー・グロース、大家も容赦なくぶった切る超辛口書評価ミチコ・カクタニ、未婚の母からハーバード出の政治家となったウェンディ・ディヴィス、小学校乱射事件を食い止めた帳簿係アントワネット・タフといった人たちの物語だ。
あぁアメリカらしいなと思う話から、あぁそんなアメリカもあるのかという驚きまで、様々な読み方ができる55人の人生譚だ。一つ一つのストーリーは短いが、そのどれもが味わい深い。Kindle書籍は今なら紙版の約半額とお値段も安く、ぜひこの機会にもう一度町山ワールドをご堪能あれ。
そして、さらに町山中毒になってしまった人たちには、ぜひその先まで爆進して欲しい。数々の町山作品の書名からも分かるように、町山のエッセイはどれもがアメリカ人の間抜けさを笑い、米国社会が含有する下品さを暴露し、それらの醜さをとことん指摘する。しかしそれは決して、日本がそして読者が賢く上品で美しいということでは全くない。そうではなく、気を緩めた瞬間や品のない話にこそ、その人や国の本性が如実に現れることを町山は知っており、それと同時に町山は、それを嗤っているお前こそが下品で下劣なんだよと読者に突きつけてくるのだ。そう、それこそが町山の狙いなのである。いや、知らないけどね。
Amazon Campaign
関連記事
-
-
あなたの知らない、世にも美しき数学者たちの日常
「日本に残る最後の秘境へようこそ|東京藝術大学のアートでカオスな毎日」でおすすめした、二宮敦人の『最
-
-
若き水中考古学者の海底探検記|ガラクタから宝物そして遺跡新発見
「水中考古学」なる学問分野をご存知だろうか? もちろん考古学なら知っている。それの水中版? もちろん
-
-
2014年、本ブログでのベストセラー:Kindle版および書籍版
今年もいよいよ終わり。ということで、この一年間の本ブログ上でのベストセラーを発表しよう。Kindle
-
-
アメリカで最もお世話になったあの老夫婦がこの夏日本にやって来る
僕が米国留学で一番お世話になったのは、ひょっとすると大学院の指導教授ではなく、むしろアカデミックとは
-
-
【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名
先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」でも紹介していたように、 宇宙
-
-
秘境・辺境探検家の高野秀行はセンス抜群の海外放浪ノンフィクション作家
世界の秘境・辺境探検家である高野秀行の作品はどれも類例のない傑作ノンフィクションばかりなのだが、本書
-
-
マラソンランナー大迫傑という生き方|東京五輪で引退する「愚か者」
オリンピック最終日に開催され、最も注目されるともいってよい種目が、男子マラソンである。そして今年の東
-
-
アメリカ地方自治体の分断:富裕層による独立運動
先日のNHKクローズアップ現代を興味深く視た。「“独立”する富裕層 ~アメリカ 深まる社会の分断~」
-
-
若き探検作家・角幡唯介の「極夜行」は最悪の旅だからこそ最高のノンフィクション
探検家・角幡唯介のノンフィクション作品を読んだことがある人も多いことだろう。NHKでも特集番組となり
-
-
人間はアンドロイドになれるか|ロボット工学者・石黒浩の最後の講義
大学教授が定年退官の前に行う授業、それがこれまでの「最後の講義」だった。しかしそれを文字通り、自分が







