町山智浩『知ってても偉くないUSA語録』は秀逸な現代アメリカ社会批評
映画評論家の町山智浩をご存知だろうか?そして、彼の秀逸な現代アメリカ観察記をご存知だろうか?そんな週刊文春の人気連載コラムが単行本化された第二弾が本書『知ってても偉くないUSA語録』だ。文庫化にともない『アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き USA語録2』と改題された本書を、ぜひここで強くおすすめしてみたいと思う。
既に町田ファンの方には今更で大変恐縮なのだが、なにしろこのコラムが滅茶苦茶面白いのである。アメリカの流行り言葉を取り上げ、その解説をすると同時に、アメリカ社会特有の背景にもずかずかと切り込む。その切れ味が実に鋭いのだ。
「共和党の大統領候補だったロムニーは、20億ドルを注ぎ込んだ大統領選をたった2つの失言でしくじりました」(町山さん)――まさに言葉を制す者はアメリカを制す。本書は、カリフォルニア州在住の著者が、かの国で流行っている新語・名言・迷言をリアルタイムレポート。「レッドネック」「メサイヤ」「パンプ&ダンプ」「デトロピア」「プライム・エア」等々、現代アメリカをシャープに切り取る言葉が満載。
町田の観察対象となるのは、オバマ大統領やミシェル夫人そしてロムニー候補といった政治家から、ハリウッド・スターやビリオネア経営者、そしてアーティストから市井の人までと実に幅広い。そして取り上げる話題も上品なものから下品なものまで極めて多種多様なのである(けっこう下のトピックが多いけど(笑)。
本書を読んで個人的に大変興味深かったのが、なぜK-POPではなく「江南スタイル」が全米そして世界中で大ヒットとなったのかというコラムと、ディズニー映画と人種問題に関するもの、小学校銃撃事件の翌日に全米で警察が実施した「銃、買い取りますデー」について、そしてサンフランシスコ在住の高所得者が引き起こす「ジェントリフィケーション(高級住宅化)」についてだ。
photo credit: Will Cyr via photopin cc
これらコラムが鋭い現代アメリカ社会批評となっているのは、著者の観察センスによるところが大きいのはもちろんなのだが、それに加えて、著者がカリフォルニア州(オークランド市)に長いこと在住した経験による部分も大きい。この地で日常生活を送り、アメリカのTV番組や映画を見て、近所の知人たちと噂話をし、そして娘を地元の小学校へ通わせと、そういう一つ一つのリアルな経験が、コラムに圧倒的な「生々しさ」を加えているのである。
これは、先日書いた「学校では教えてくれない、正しいFUCKの使い方」や「出ない順英単語」等と比べるとより明らかだろう。あれらの本も大変ユニークな内容なのだが、いかんせん面白おかしく造られたフィクションであり、その虚構を楽しむというのがその趣旨であった。一方の町山のコラムは、まさにノンフィクションであり、もちろん一面であるにはせよ、アメリカとはそういう側面を持った国である、ということを生々しく突きつけてくるのである。
本書『知ってても偉くないUSA語録』は、著者に言われるまでもなく、ぜっんぜん使えないUSA語録ばかりだ(笑)。しかし、そこには「知らないで済ますわけにはいかないアメリカ」があるのも、また事実なのである。本書には笑えるアメリカが沢山描写されている。それを大いに笑うのが、本書の間違いない楽しみ方である。だが、「笑えないアメリカ」に対し、political correctness を気にせずに著者がズバリと言い切るそのメッセージには、真剣に耳を傾ける価値があると思う。著者による本シリーズ第一弾の『教科書に載ってないUSA語録』と合わせ、ぜひ一読を勧めたい極めてユニークな米国批評である。
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