*

町山智浩『知ってても偉くないUSA語録』は秀逸な現代アメリカ社会批評

公開日: : 最終更新日:2016/11/02 アメリカ, オススメ書籍

映画評論家の町山智浩をご存知だろうか?そして、彼の秀逸な現代アメリカ観察記をご存知だろうか?そんな週刊文春の人気連載コラムが単行本化された第二弾が本書『知ってても偉くないUSA語録』だ。文庫化にともない『アメリカ人もキラキラ★ネームがお好き USA語録2』と改題された本書を、ぜひここで強くおすすめしてみたいと思う。

 

既に町田ファンの方には今更で大変恐縮なのだが、なにしろこのコラムが滅茶苦茶面白いのである。アメリカの流行り言葉を取り上げ、その解説をすると同時に、アメリカ社会特有の背景にもずかずかと切り込む。その切れ味が実に鋭いのだ。

「共和党の大統領候補だったロムニーは、20億ドルを注ぎ込んだ大統領選をたった2つの失言でしくじりました」(町山さん)――まさに言葉を制す者はアメリカを制す。本書は、カリフォルニア州在住の著者が、かの国で流行っている新語・名言・迷言をリアルタイムレポート。「レッドネック」「メサイヤ」「パンプ&ダンプ」「デトロピア」「プライム・エア」等々、現代アメリカをシャープに切り取る言葉が満載。

 

 

町田の観察対象となるのは、オバマ大統領やミシェル夫人そしてロムニー候補といった政治家から、ハリウッド・スターやビリオネア経営者、そしてアーティストから市井の人までと実に幅広い。そして取り上げる話題も上品なものから下品なものまで極めて多種多様なのである(けっこう下のトピックが多いけど(笑)。

 

本書を読んで個人的に大変興味深かったのが、なぜK-POPではなく「江南スタイル」が全米そして世界中で大ヒットとなったのかというコラムと、ディズニー映画と人種問題に関するもの、小学校銃撃事件の翌日に全米で警察が実施した「銃、買い取りますデー」について、そしてサンフランシスコ在住の高所得者が引き起こす「ジェントリフィケーション(高級住宅化)」についてだ。

 

medium_3066666879photo credit: Will Cyr via photopin cc

 

これらコラムが鋭い現代アメリカ社会批評となっているのは、著者の観察センスによるところが大きいのはもちろんなのだが、それに加えて、著者がカリフォルニア州(オークランド市)に長いこと在住した経験による部分も大きい。この地で日常生活を送り、アメリカのTV番組や映画を見て、近所の知人たちと噂話をし、そして娘を地元の小学校へ通わせと、そういう一つ一つのリアルな経験が、コラムに圧倒的な「生々しさ」を加えているのである。

 

これは、先日書いた「学校では教えてくれない、正しいFUCKの使い方」や「出ない順英単語」等と比べるとより明らかだろう。あれらの本も大変ユニークな内容なのだが、いかんせん面白おかしく造られたフィクションであり、その虚構を楽しむというのがその趣旨であった。一方の町山のコラムは、まさにノンフィクションであり、もちろん一面であるにはせよ、アメリカとはそういう側面を持った国である、ということを生々しく突きつけてくるのである。

 

本書『知ってても偉くないUSA語録』は、著者に言われるまでもなく、ぜっんぜん使えないUSA語録ばかりだ(笑)。しかし、そこには「知らないで済ますわけにはいかないアメリカ」があるのも、また事実なのである。本書には笑えるアメリカが沢山描写されている。それを大いに笑うのが、本書の間違いない楽しみ方である。だが、「笑えないアメリカ」に対し、political correctness を気にせずに著者がズバリと言い切るそのメッセージには、真剣に耳を傾ける価値があると思う。著者による本シリーズ第一弾の『教科書に載ってないUSA語録』と合わせ、ぜひ一読を勧めたい極めてユニークな米国批評である。

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

【おすすめ経営書】ゼロ・トゥ・ワン:君はゼロから何を生み出せるか

話題の経営書『ゼロ・トゥ・ワン:君はゼロから何を生み出せるか』を、とても興味深く読んだ。著者はピータ

記事を読む

「もっとヘンな論文」がついに登場|アカデミック・エンターテインメントの最高峰

NHK Eテレの番組「ろんぶ~ん」をご存知だろうか?ロンブー淳が司会を務める、アカデミック・エンター

記事を読む

【おすすめ英語テキスト】重要単語を因数分解|語源から根こそぎ完璧に理解する

現在開催中のKindle本ストア 9周年キャンペーン。本日はこの中から最大級におすすめしたい、この英

記事を読む

ワールドカップ決勝へ|ラグビー名将エディー・ジョーンズの勝負哲学

ラグビー・ワールドカップが面白い。まったくもってニワカなんですが、ルールが分かるとラグビーってこんな

記事を読む

【おすすめ書籍】ハーバード数学科のデータサイエンティストが明かす恋愛ビッグデータの残酷な現実

アメリカでベストセラーとなった一冊 "Dataclysm" がようやく翻訳出版された。これは人気出会

記事を読む

【応募書類受付中】NASAが宇宙飛行士を新規募集|火星に行く大チャンス

もうご存知と思うが、アメリカの National Aeronautics and Space Adm

記事を読む

米国Amazonの第2本社候補地選びがついに決着

1年以上に渡って注目を集めてきた、米国アマゾンの第2本社候補地選び。5万人以上の雇用を生むというこの

記事を読む

少年よ、大木を抱け。WOOD JOB!

本屋大賞を受賞した三浦しをん『舟を編む』で思わず国語辞典にはまってしまった僕が、その後辞書を一式揃え

記事を読む

今年のノーベル経済学賞はアメリカの労働経済学者3名が共同受賞

今年のノーベル賞受賞者が発表されるなか、いよいよ経済学賞の受賞者が明らかとなった。それは、「『自然実

記事を読む

国語辞典のお金の秘密|時代を映す大改訂

NHK「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」が先週の番組で特集したのが国語辞典とお金の関係、であった。

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑