刑務所の医師不足と漫画『ムショ医』
先日のNHK News Web でも報道された通り、現在日本の刑務所における医者不足が極めて深刻な問題となっている。なにしろ定員の4分の1近くが欠員となっており、それゆえに100人以上の受刑者を収容できない状態となっているのだ。
刑務所などの矯正施設で常勤の医師の辞職が相次ぎ、欠員の数は定員のおよそ4分の1と過去最悪になっていることが法務省への取材で分かりました。実刑判決が確定しているにもかかわらず、全国で100人以上を刑務所に収容できないなど深刻な影響が出ています。刑務所や少年院など全国の矯正施設の多くは、医師が常駐し、施設の中で受刑者などの診察や治療を行っていますが、法務省によりますと、平成16年ごろから一般の病院との待遇の差や、医師としての経験を十分に積めないという不満などから辞職する医師が相次いでいるということです。
NHKが全国の法務省の機関に取材したところ、先月1日の時点で、矯正施設の常勤医師の定員327人のうち欠員が76人と過去最悪になっていることが分かりました。こうしたなか、人工透析が必要な腎臓病の受刑者を受け入れる態勢が整わず、先月1日の時点で全国で112人を刑務所に収容できなくなり、実刑判決が確定しているにもかかわらず、自宅や病院で待機させざるをえない状況になっています。また刑務所などから外部の病院へ連れて行く件数が増える傾向にあり、こうした場合は費用がかさむこともあります。刑務所などの医療費は高齢化の影響で増加していますが、さらに増える要因の1つになっています。法務省は、「受刑者の高齢化が進むなかで医師が不足しているのは危機的な状況で、待遇の改善などを検討していきたい」としています。

医師不足の原因として挙げられているのが、常駐医に対する待遇の悪さ。一般病院と比較した際の格差は今この時点での生活だけでなく、将来のキャリアにも影響を与えてくる。だからこそ、刑務所に勤務することを避ける医者が多くなることに何の不思議もない。
むしろ、刑務所医とはどのような仕事をしているのか、そしてどんな人がどんな理由で希望して着任しているのか、という点にこそ関心が向くのではないだろうか。そんな疑問にまさに答えてくれるのが、この漫画『ムショ医』だ。なんと現在、Kindle版が無料です!
もちろん漫画だからこそ、ちょっぴり特殊なキャラクター作りやストーリー展開となっているのだろうが、それでも、そもそも全く知識のなかった刑務所医という職業を垣間見るのに、これは最適な入門書となっている。ちなみにこの漫画家・佐藤智美氏は、あの佐藤秀峰の元奥さんでもあり、そう聞くとなるほどだからこのテーマなのかと思う人も多いのではないだろうか。
若き研修医を主人公に、その熱血ぶりで毎回患者や同僚そして医局を混乱させ、そしてそれを通じて日本の医療業界の矛盾を抉り出そうとする『ブラックジャックによろしく』の佐藤秀峰は、以前に書いたように「漫画業界そして電子書籍の革命家」でもある。『ブラックジャックによろしく』は旧シリーズはなんと全巻無料、そして漫画家生活の実態を赤裸々に綴ったエッセイ『漫画貧乏』も合わせて無料となっている。
そんな佐藤秀峰の影響が大き過ぎるとも言えるのだが、佐藤智美の『ムショ医』は、これまで報道されることが少なかった刑務所の内部を、しかもそこに常勤する医者という目線を通じて、受刑者の日常を描くという極めてユニークな作品となっている。現在無料となっているKindle版の第1巻だけでも、まずはぜひご覧くだされ。
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