*

三省堂『辞書を編む人』が、今年の新語を募集中

公開日: : ニュース

時を経て社会は変容し、そして言葉も変遷する。いつの時代もワカモノの言葉づかいに口喧しい人はいるが、しかしいつの間にかそれが標準化してしまうことも多々ある。言葉は生き物だといわれるように、現代的な言葉が新しく生まれ、そして昔の言葉が使われなくなるのもよくあることだ。

 

さて、そんな日々新たに生まれ続ける新語。そんな新しい言葉に寛容であり、それを積極的に採用していこうという国語辞典もあることをご存知だろうか?辞書に載っている言葉が「正しい」ものだと考えるひとも多いが、実は国語辞典というのは、出版社によって、そして編纂者によって、ずいぶんと内容が異なるものなのである。新しい言葉を辞書に載せることに慎重な出版社・編纂者もいれば、一方ではそうした新語を積極的に採り入れよう、という人たちもいるのだ。「学校で教えて欲しいおすすめ国語辞典の選び方・使い方・遊び方:複数の辞書を比較して使い分けよう」を参考に、ぜひ各辞典の違いを楽しんでみて欲しい。

 

japanese dictionaries 1

 

 

さて、そんな「新語採用積極派」の筆頭が、三省堂国語辞典である。まさに「新語に強い」をセールス文句として全面的に打ち出しているように、他の辞書との違いを明確にする姿勢には好感がもてる。だから、他の国語辞典よりも早く新語が採用されることが多く、三省堂国語辞典に載った時点で、たんなる流行語ではなく、今後普遍的に使用されていく「新語」として認定されたと考えることもできるだろう。

 

 

その三省堂が実施しているのが、「今年の新語」キャンペーンである。毎年のように生み出される流行語のなかでもとくに影響の大きかったものを取り上げるイベントである。ちなみに、2017年の同キャンペーンでみごと大賞に輝いたのは「忖度」である。なるほど確かに、って思いますよね。続けて2位は「インフルエンサー」、5位に「フェイクニュース」、7位に「仮想通貨」と、その一年を代表する言葉が並ぶ。さてさて、このうち次の改定時に果たして三省堂国語辞典に見事採用される言葉あるのかないのか、にも注目したいところだ。

 

そんな「新語に強い」を打出している三省堂国語辞典だが、その編纂者をご存知だろうか?もともとの出発点は、「辞書の神様」ともうたわれた、ケンボー先生こと見坊豪紀が初代編纂者に就任したことにある。しかし、その後の紆余曲折は実にドラマチックであり、盟友との別れの末に誕生したのが、この三省堂国語辞典なのである。その小説よりも奇な、しかしそれでいて実際に起こった現実については、「国語辞典業界最大の謎がいま明らかにされる」でも紹介したとおりであり、詳細はぜひ書籍『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』で確認して欲しい。素晴らしい傑作ノンフィクションです。

 

 

そして、三省堂の「今年の新語」キャンペーンにもあるように、現在の三省堂国語辞典を「新語に強い」という位置づけで、見坊豪紀の思想を汲んで編纂しているのが、飯間浩明である。彼の著書『辞書を編む』では、彼らがいったいどのようにして新語を収集しているのか、テレビを見たり雑誌を読んだり、そして街中を歩いているときですら常に新しい言葉を収集しているそのハンターぶりが実に鮮やかに描かれている。こうやって辞書ができているのか!という驚きを与えてくれる、こちらも素晴らしい一冊としておすすめしたい。

 

 

三省堂国語辞典は「新語に強い」という戦略で他の辞書との差別化を図っているのは、これまで述べてきたとおりだ。しかしもちろん、他の国語辞典にはそれぞれ別の戦略がある。そんな辞書の違い、つまりは編纂者の哲学や意図にもとづいた差異は、意識しないとなかなか見えてこないものでもある。だからこそ、それぞれの辞書の特徴をとらえ、そのうえで自分に最も合った一冊を選ぶことが実はとても大事なことなのである。

 

「国語辞典を選ぶならこの3冊がおすすめ:現代語に強い三省堂・豊かな語釈の新明解・安定と安心の岩波」でもまとめたように、理想的には個性の異なる最低3冊の辞書を用意し、それぞれの違いを見比べてみるのがいいだろう。言葉の解釈にこれだけの差があるのかという、新しい気づきが得られるはずだ。もしもひとつひとつの辞書を見比べてみる時間がないとか、手っ取り早く特徴をまとめて欲しいという人には、ぜひ以下の『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』をおすすめしたい。本書は、日本で出版されている多種多様の国語辞典を取り上げ、その特徴・個性・戦略・差異をコンパクトにまとめている、非常にすぐれた一冊なのだ。国語辞典を選ぶという意識をもつという意味でも、本当ならばこういうことこそ学校で教えて欲しいのにな、ときっと思うはずだ。激しくオススメしますよ!

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

将棋王将戦・挑戦者決定リーグが超豪華メンバーでついに開幕

やばい、ヤバい、超やばい。というくらい大興奮なのが、ついに始まった第70期王将戦、挑戦者決定リーグで

記事を読む

100年目の国勢調査|本日の締切おわすれなく

現在実施中の国勢調査は、5年に一度実施される最も重要な統計調査である。日本国内に住んでいるすべての人

記事を読む

2018年ノーベル経済学賞はノードハウスとローマーに|著書が半額セール中

今年のノーベル経済学賞が先日発表され、受賞者はイェール大学のウィリアム・ノードハウス教授と、ニューヨ

記事を読む

最強のトイレがアメリカに上陸。一方の日本では「トイレとうんち」展が大人気

僕はトイレに並々ならぬ関心を持っている。本当に。だから、国連が「11月19日は世界トイレの日」と定め

記事を読む

出版不況なのに「TikTok売れ」で緊急重版|あの実験的小説の新しい売り方・売れ方

先日紹介した書籍『10代のための読書地図』は、本当におすすめなので、ぜひまだの方には読んでみて欲しい

記事を読む

ニューヨーク・タイムズが選ぶ、2021年版「愛すべき世界の52か所」

ニューヨーク・タイムズ紙による、年始の恒例特集 "52 Places to Go" だが、コロナ禍に

記事を読む

facebook on pricenton's future

プリンストン大学の研究に、フェイスブックが倍返し

WSJ「『フェイスブック滅亡』論文、物議を醸す」や、CNET「Facebook、ユーザー急減の予測に

記事を読む

japanese igo

囲碁タイトル7冠同時制覇|井山裕太と師匠・石井邦生が創りだした盤上の宇宙・独創の一手

すごいな、井山裕太。大きなニュースとなったことで、囲碁ファン以外にも伝わったであろう、7冠同時制覇へ

記事を読む

アカデミアへの転身と、アカデミアからの転身

日本テレビの桝太一アナウンサーが、16年間在籍した同局を今年3月で退社し、4月からは同志社大学ハリス

記事を読む

5月25日は「広辞苑の日」って知ってましたか?

「ことばは、自由だ。」というキャッチフレーズでも知られる、岩波書店の「広辞苑」は、国語辞典の代表格と

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑