『ヤバい統計学』著者による新作『ナンバーセンス』で知る、アメリカ大学ランキングの舞台裏
以前に「テーマパーク優先パスの価格付け」でも紹介したように、カイザー・ファング著『ヤバい統計学』は、身近な実例を数字を使って解説する刺激的な一冊である。書名は『ヤバい経済学』の大ヒットに便乗したものだが、むしろそんな小手先でなく、内容のおもしろさで訴求すればよいのに、と思わざるをえない。そんなオススメの一冊なのである。
そんな『ヤバい統計学』の著者カイザー・ファングが新たに著したのが、以下の『ナンバーセンス ビッグデータの嘘を見抜く「統計リテラシー」の身につけ方』である。これがまた確かにヤバいほど面白い内容だったので、簡単に紹介しておきたい。
僕らが日常生活で経験するような身近な題材を取り上げ、その背景にあるロジックを数字を使ってクリアに解説するのは、前作でも見せたようにこの著者の見事な腕前と言えるだろう。例えば、日本でも少し前に大きく盛り上がったグルーポンのビジネスモデル。各種のクーポンを発行することで、レストランを始めとする店舗側は一体全体どれくらい儲かる(または儲からない)仕組みなのか、その説明が実に分かりやすいのである。本書の翻訳書の出版が、まだグルーポンが日本でも大きな話題となっている頃であればよかったのに、というのが唯一残念な点ではないだろうか。
しかし、それ以上に僕が個人的に興味深く読んだのが、アメリカの大学ランキングについて。ご存じの方も多いだろうが、米国では US NEWS 等が毎年作成する大学・大学院ランキングが、ものすごい影響力を持っている。このランキングによって、その年にどれくらいの出願があるか、どれくらい優秀な学生が入学してくれるか、そして彼ら彼女らが卒業後どれくらい活躍し(将来多額の寄付をし)てくれるか、がかかっているものだから、大学運営サイドはこの順位の上下にそれこそ一喜一憂するのである。
だから、大学運営の事務側は、あの手この手を使ってランキングを上げようと血の滲むような努力をする。だけれども、それがまさかあんな手やこんな手だったなんて!というのが本書のもう一つの読みどころなのだ。これを(ずる)賢い試みと評価するか、ランキング操作の汚い手段と糾弾するか、それは読者の判断に委ねられているし、アメリカでも賛否が分かれている。しかし、ランキングを上げることを絶対的な目標とするならば、そしてそのルールが明確であるならば、ぎりぎりセーフの範囲内でやれることは全部やるという、米国で大学を経営する上での執念は十二分に伝わってくる。日本の大学関係者にとっては、アメリカはここまでやっているという舞台裏を知るということだけでも、本書の価値は高いように思う。ぜひとも一読をおすすめしたい。
Amazon Campaign
関連記事
-
ワールドカップ決勝へ|ラグビー名将エディー・ジョーンズの勝負哲学
ラグビー・ワールドカップが面白い。まったくもってニワカなんですが、ルールが分かるとラグビーってこんな
-
捏造と背信の科学者:繰り返される不正と、研究者の責任ある行動
STAP細胞の件で改めて考えさせられたのは、なぜこの一件だけではなく、研究不正・論文捏造がこれほどま
-
都立浅草高校国語教師・神林先生が愛してやまない飲み屋と呑み助と大将と女将
自宅や実家での新年気分も終わり、今週末あたりから町の飲み屋に繰り出すか、という人も多いかも知れない。
-
夏休みに素敵な1冊を探そう|知的好奇心旺盛な10代のための読書地図
いまどき新聞なんてほとんど読まない、そんな人が増えてきた現代である。しかしながら、書評欄を楽しみに週
-
岡崎所属のレスターシティ奇跡の優勝と、これからのサッカー・データ革命
プレミアリーグ大番狂わせのレスターシティ優勝 ご存知のように、今年の英国プレミアリーグでは、岡崎が
-
この漫画がすごい『数学ゴールデン』が描く数学オリンピックの世界
Amazon では Kindle 電子書籍の大規模セールをしばしば開催しているが、こうしたキャンペー
-
クラウドソーシングの衝撃:世界最大手Freelancer.comの上場と業界再編
「クラウドソーシング・サービスの使い方: 世界最大の Freelancer.com が早くて安くて素
-
ソーシャルディスタンスのいま最も濃密な人間関係|プロ将棋棋士の師弟愛と絆
この年末年始なにが盛り上がっているかと言えば、もちろん紅白歌合戦に箱根駅伝、ではないですよね。今年は
-
2015年ことしのベストセラー|紙書籍編
先日の「ベストセラー電子書籍編」に続き、今回は本ブログ経由でよく読まれた紙の書籍編を紹介しよう。以下
-
闘う頭脳|将棋棋士・羽生善治VSチェス棋士ガルリ・カスパロフ
今年3月にNHKーETV特集で放送された「激突!東西の天才 将棋名人羽生善治 伝説のチェスチャンピオ