東京オリンピック野球で導入された変則的決勝トーナメント
東京オリンピックの野球種目は、準々決勝でアメリカを倒し、準決勝で韓国を破った日本が、堂々の決勝進出を決めた。そして、決勝戦の晴れ舞台で対峙する相手は、なんと、アノ、米国である(スポニチ)。
えっ?アメリカはもう負けたから試合終了なんじゃないの、というのが普通の感覚であろう。しかし、諦めるまで試合終了にならないのが、今回の東京五輪野球の複雑なところなのである。なぜこのような「敗者復活」を含めた変則的トーナメントになったかというと、これはもう一言でいえば、大人の政治的事情によって紛糾した末に3年前に決まったという背景があるのだ(スポーツ報知)。
このようなシステムとなった結果、決勝戦で勝てば優勝なのだから、例えば今回のケースでは、トーナメント1回戦で負けたドミニカ共和国にも、敗者復活ルートを通じた優勝の可能性があったのである。そういうルールであるため、導入当初から数多くの疑問の声があったのは当然のことだろう。ただ、結果論ではあるが、ドミニカが決勝に辿り着くことはなかったので、ほっと胸をなでおろしている関係者は多いことだろう。
ただし、準々決勝で一度は日本に敗れたアメリカが、決勝戦で借りを返す形で勝利すれば優勝となるのだから、それはそれでどうなんだ、という懸念は当然つきまとう。そもそもこうした変則トーナメント自体に問題が多すぎするのではないか、という指摘もその通りだろう。一方で、このような変則型が他の種目でないわけでもないのだ。
例えば、まっさきに思い浮かぶのが、将棋の棋王戦である。実際に以下のように、第46期の挑戦者決定トーナメントを見てみよう(将棋連盟)。通常のトーナメントとしては、広瀬章人八段が優勝しているように見えるだろう。しかしながら、棋王戦ではベスト4以上では敗者復活システムが導入されているため、広瀬八段以外の3者による敗者復活戦が行われ、そこを勝ち上がってきた糸谷哲郎八段が、広瀬八段と最後の勝負となったのである。しかも糸谷八段は、通常のトーナメントであれば、広瀬八段に決勝戦で敗れているはずなのに、だ。
ここまで見ると、今回の東京五輪野球のように、トーナメント途上で日本に敗れたアメリカが、敗者復活戦を勝ち抜いて再び決勝戦に姿を現したのと、まったく同じように見えるだろう。しかし、将棋の棋王戦において大きく異なるのが、「2敗失格」というシステムが導入されていることだ。これはベスト4以上に勝ち残った4人それぞれが、この先2敗したら終了、というルールである。そのため、挑戦者決定戦となる広瀬八段と糸谷八段では、最初の設定がことなるのだ。つまり、すでに一回広瀬八段に敗れている糸谷八段としては、この決定戦においてもう一度敗れたら、その時点で終了だ。一方の広瀬八段は、これまで負けなしでトーナメントを勝ち上がってきているから、この決定戦においてかりに一度糸谷八段に敗れても、まだ試合終了とはならないのだ。
その結果、挑戦者決定戦においては、2試合行われ、糸谷八段が広瀬八段に対して2連勝を収めたため、糸谷八段が優勝となり、挑戦者として名乗りをあげたのである。つまり、広瀬VS糸谷は、このトーナメント戦において合計3試合を戦い、2勝1敗で糸谷八段の勝ち、となったということである。という説明をされると、なるほどと思うわけだ。確かに一度は敗れた糸谷八段ではあったが、全体を3番勝負と考えれば、初戦に敗れただけであり、その後2連勝を飾ったのだから。
ここが、今回の東京五輪野球とは大きく異なる点だろう。野球の決勝戦である、日本VSアメリカは、この1戦に勝った方が優勝という点で、この1試合の比重が極めて大きいのである。アメリカが勝てば、日本とは1勝1敗の五分であるものの、もっとも重要な決勝戦で勝ったたため、アメリカの優勝が決まるわけだ。もちろん、野球と将棋とでは、試合開催にかかる準備やコストも大きく違うだろうから、一概に比較することはできないのはもちろんのことだ。それでも、もし将棋・棋王戦のようなシステムだったら、もう少し納得感があったのではないだろうか、と思うところだ。そういう、普段とはちょっと違った視点から、野球の決勝戦を眺めても面白いのではないだろうか。まあ、日本が決勝でも勝てば、トーナメント負けなしで、誰からも文句のつけようがない優勝になるんだけどね。あとそれから、野球を応援するついでに、将棋も見てね。
Amazon Campaign

関連記事
-
-
Amazon Student 大学別会員数ランキングが引き続き興味深い
秋の新学期開始に合わせた、Amazon Student のキャンペーンが、かなり手厚くて羨ましい(笑
-
-
5月25日は「広辞苑の日」って知ってましたか?
「ことばは、自由だ。」というキャッチフレーズでも知られる、岩波書店の「広辞苑」は、国語辞典の代表格と
-
-
難敵アンディ・マレーをフルセットで倒した錦織が準決勝進出|データで見る全米オープンテニス
思わず早朝からWOWOWで生中継を見てしまった本日の全米オープンテニス。ついに錦織がやってくれて大興
-
-
プリンストン大学の研究に、フェイスブックが倍返し
WSJ「『フェイスブック滅亡』論文、物議を醸す」や、CNET「Facebook、ユーザー急減の予測に
-
-
全米オープンテニスを Slam Tracker でデータ観戦しよう
いよいよ全米オープンテニスが始まった。それと同時に錦織圭の初戦敗退。大変残念だけれども、それだけグラ
-
-
囲碁マネーリーグ|井山裕太五冠が11年連続の賞金王そして1億円越え
囲碁棋士の2021年賞金ランキングが発表され、棋聖、名人、本因坊を防衛し王座、碁聖を奪取した井山裕太
-
-
2022年将棋賞金ランキング発表|藤井聡太5冠が1億円超で堂々の首位
将棋連盟から2022年の獲得賞金・対局料ベスト10が発表されましたね。毎年この時期の恒例であり、名
-
-
あの伝説の一戦「3連勝4連敗」から9年|羽生善治・永世七冠誕生
2017年12月5日、長い将棋の歴史に新たな偉業が刻まれた。羽生善治が竜王位を奪還し永世竜王となり、
-
-
もちろんご存知ですよね?ついに開幕、第四回OKB48選抜総選挙。センター推しは、三菱鉛筆ユニボール・シグノだ!
いよいよ第四回目となった「OKB48選抜総選挙」、熱い闘いが今年も始まった。もちろんOKBとは「お気
-
-
ワールドカップで大番狂わせを狙え|サッカー監督の世界級チームマネジメントの極意
2022年という年は、やはりサッカー・ワールドカップでの日本代表の活躍が強烈な印象として残っている人