*

現代アメリカ社会の象徴:メガチャーチの誕生と新たなコミュニティの創造

公開日: : 最終更新日:2017/12/11 アメリカ

毎年クリスマスを迎えるたびに思い出すことがある。それは若い頃の甘酸っぱいデートの記憶、ではもちろんない。そうではなく、僕がいつも思い起こすのが、アメリカのメガチャーチだ。僕がこの現代アメリカ社会を象徴する巨大教会について初めて知ったのは、「アメリカン・コミュニティ」の中で紹介した渡辺靖著『アメリカン・コミュニティ:国家と個人が交差する場所』であった。

 

強固な外壁に囲まれたロス郊外の超高級住宅街、保守主義の牙城・アリゾナの巨大教会、ディズニーが創ったフロリダの町など、9つの地域を丹念に調査。多様性を象徴し、内側から社会を支えるコミュニティこそが、アメリカをより深く理解するための鍵である。なぜこの国はダイナミックに変化し続けられるのか。真の力の源泉とは何か―。

 

現代米国社会を象徴する9つのコミュニティを訪問しその現状を紹介した本書の中でも、最も強烈に僕の印象に残ったのが、保守主義の砦・巨大教会(メガチャーチ)だったのである。過去にはクローズアップ現代「巨大教会が政治を動かす~アメリカからの報告~」でも特集され、宗教と政治が密接につながった姿が衝撃を与えた、あの巨大教会群のことである。

 

photo credit: Flickmor via photopin cc

photo credit: Flickmor via photopin cc

 

 

だから、2008年夏に僕がアメリカで留学を始めた際に誓ったことの一つに、必ずこの巨大教会とやらを見てやろう、そしてその何がアメリカ的なのかを探ってみたい、ということだったのである。そして僕はその翌2009年のクリスマスに、そんなメガチャーチの一つを訪れる機会を得た。これは本当に幸運だったと思う。僕にはまさにそのメガチャーチに通う米国人のクリスチャンの友人がおり、彼ら家族に連れられてクリスマスの集いに出席することができたのだ。

 

このことを大学のアメリカ人友人に話すと、まず間違いなく驚かれた。それは、なぜ日本人の僕が、アメリカでも特異な目で見られているメガチャーチなんかを訪れる機会があったのかという驚きである。なにしろ普通に留学生活を送っている限り、同級生も教授も国際色ゆたかでリベラルであるからこそ、宗教的保守のメガチャーチとの接点など生じようがないのである。

 

しかし、僕が大学とは全く関係ない古いアメリカ人友人と一緒に、実際にメガチャーチを訪れて感じたのは、そこがアメリカの一つの平均像だということだ。学歴が飛び抜けて高いわけではないが低いわけでもない。郊外で生まれ育ちそして働き、近隣の大都市や海外への関心は乏しい。白人が大多数を占めており、僕が訪れた当日、間違いなく僕は教会内での異物であった。新興住宅街の新住民がそろって同じ教会に通い、ご近所付き合いを大事にする。それと同時に、新しい住宅地が開発されれば熱心に勧誘し、新たな信者を連れてきた人には教会側からプレゼントが用意される。

 

このように、従来の教会や伝統的な宗教に対する我々の考え方とは大きく異なるシステムとサービスを、実に現代的なビジネス・マーケティング的志向で構築したのが、このメガチャーチとその裾野に広がる新たなコミュニティなのである。そしてもう一つ注目したいのが、このメガチャーチの隆盛が、「『ゼロ・トゥ・ワン』のティールと米国社会の変容」で書いた『綻びゆくアメリカ』と同時期に進行している点である。

 

以下のレポートが、僕がまさに自分の目で見てきた現代アメリカの一つの象徴である。ぜひまた、その後の成長拡大ぶりをみに、僕自身このメガチャーチを再訪したいと思っている。

 

  1. メガチャーチの衝撃
  2. 神をも消費するアメリカ
  3. メガチャーチ信者の特性
  4. 日本とアメリカに見る郊外
  5. 日本の正月とチャーチの未来
  6. メガチャーチのメガ化が止まらない

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

Amazon.com の勢いが止まらない|サイバーマンデーで過去最高売上を記録

株価上昇が続くアメリカ経済の中でも、Amazon.com の勢いはひときわ目を引く。下のグラフを見れ

記事を読む

スタンフォード大学に集まる若き経済学者たち

先週のニューヨーク・タイムズ紙の記事 "How Stanford Took On the Giant

記事を読む

『ゼロ・トゥ・ワン』のティールと米国社会の変容『綻びゆくアメリカ』

米国の著名投資家ピーター・ティールが著した『ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか』が、「今

記事を読む

綻びゆくアメリカと繁栄から取り残された白人たち

2014年に翻訳出版された『綻びゆくアメリカ―歴史の転換点に生きる人々の物語』に今また注目が集まって

記事を読む

NHK戦争特番:日本とアメリカとその狭間で

毎年夏が来る度にテレビ各局、新聞各誌が特集する太平洋戦争と終戦。その中でも個人的に強烈に印象に残って

記事を読む

playground in a rural area

アメリカと日本と国際養子縁組

先日のTBSの番組「女児はなぜアメリカへ行ったのか?国際養子縁組を考える」を観た。 豊かな社会とは

記事を読む

most popular sport in the U.S. is NFL

世界で最も成功したスポーツビジネス:アメフトNFLとスーパーボウル

米国で最も盛り上がるスポーツイベントと言えば、アメフトのスーパーボウル。個人的にはいまだにアメフトの

記事を読む

米国Amazonの第2本社候補地選びがついに決着

1年以上に渡って注目を集めてきた、米国アマゾンの第2本社候補地選び。5万人以上の雇用を生むというこの

記事を読む

人はなぜ走るのか?を問う『Born to Run~走るために生まれた』は、米国ランナーのバイブル

米国で異例のベストセラーとなり、何度目かのランニング・ブームを引き起こした一冊『Born to Ru

記事を読む

us job map

年収は「住むところ」で決まる: The New Geography of Jobs

"How Professional Salaries Vary Around the Country

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑