箱根駅伝・青山学院の圧勝で見せつけた原晋監督のマネジメント能力
2022年の箱根駅伝も面白かったですね! レース自体は青山学院の記録づくめの圧勝という形で終わったため、優勝争いが盛り上がることは残念ながらなかった。しかし、その青山学院のレース運びには他大学はもちろんのこと、われわれだって学ぶことが多々あったように思う。
例えば、まずは往路で優勝を成し遂げた青山学院だが、すでに各種報道のとおり、5人中誰ひとりとして区間1位で走り切った選手はいない。しかしながら一方では、誰一人として区間10位以下に失速していないのである。これは全チーム中唯一であり、この点でもいかに青山学院が安定した強さを有しているかが分かるだろう。さらには、これもスポーツニュースで大きく取り上げられているように、往路で走った1年生ふたりの躍動が素晴らしかった。全国から注目されるプレッシャーの中、あれだけ堂々と走り切り、まわりの予想をはるかに上回る結果を残したのだから、これはもう他大学としてはなすすべなし。結果として総合記録では2位に10分以上の大差をつけ、解説の瀬古をして、他大学オールスターでも勝てないのではと脱帽さざるを得ないほどだったのだ。
それではなぜ青山学院はこれほどまでに強いのか? もちろん選手ひとりひとりの実力は素晴らしい。しかし、今や王者たる青学でさえつい数年前までは駅伝では優勝争いなどには縁がなかったのである。そんな大学の駅伝監督として、すべての情熱をささげ続けたのが、いまの原晋監督であり、それを一緒に支え続けた奥様なのである。今年の青山学院の圧倒的な勝利を見て、われわれはみな改めて思わざるを得ないだろう。チームスポーツにおいていかに監督の力が大事なものであるのかを。
実力のある選手を揃えるだけでは勝てない勝負。ひとりひとりのやる気を高め、120%の能力を引き出すためには何をすればよいのか。そしてもちろん、適材適所の配置には、日頃の選手の能力や適性や体調をしっかり把握しておくことが欠かせない。さらには、今年の青学の走りを見ていて感じた人は多いのではないだろうか。なぜあれほど青学のランナーはみな笑顔で走っているのか、と。
そう、原晋監督の真骨頂は、伴走車からの声かけにも見られるように、選手をモチベートするマネジメントになるのである。それがとくに大学生という未成年を含めたハタチ前後の若者となれば、メンタル面もふくめますますデリケートな問題であるにもかかわらず、原監督は毎年それを見事にやってのける。それが今年のこの圧倒的な結果であり、そしてその成果に結びつく選手の頑張りなのである。
この監督のために頑張りたいという高校生が原のスカウトに応えて青学に入学する。陸上部でのハードな練習、寮生活でのストレスある生活、そんなものもひっくるめても充実した日々を過ごし、そして「自ら考える」ことを求められる。だからこそ青学の選手は、ただ走るだけではない。あれだけクレバーな走りを見せられるのは、まさに原が求め続けたように、自立した大人の選手としての自覚があるからこそなのである。
という話は、今日からまた各種のテレビ番組でも取り上げるだろうが、こうしたものは全て原自身が以前にその著書で隠すことなくすべて語り尽くしているのである。僕はほぼ全て読み切っているのだが、まだよく知らないという人は、ぜひ以下の3冊から始めて欲しい。しかも今なら、Amazon初売りセールでお買い得だ。原監督はサラリーマン出身の駅伝監督という異色の経歴なのだが、そのサラリーマン時代にこそ彼のいまのマネジメントの原点があるというのが、大変に興味深い。ぜひ来年こそは、こうした「青学メソッド」がもっと普遍的なものとして普及し、その結果としての熱戦を期待したい。あまりにも強すぎる青学の一強時代なんて、見ているこちらとしては面白くない。ぜひ王者に真っ向勝負を挑み、そして凌駕してくれるチームが現れることを、来年こそ期待したい。
2015年正月、91回目の開催となった箱根駅伝は、日本中が青山学院大学の初優勝に沸いた。勝利に導いたのは、かつて中国電力のサラリーマン時代、「伝説の営業マン」と呼ばれた原晋監督である。わずか8年前までは箱根駅伝に出場することさえできなかった青学陸上部の躍進の秘密は、その指導法にあった。高い目標設定とそれを実現させるためにどうするか考えることは、ビジネスも駅伝も同じだと言い切る著者。何度も苦汁をなめながらも、不屈の精神で逆転してきた原監督の「理論と情熱」を併せ持った指導力・交渉力とは?
2015年の正月まで、私は一部の熱心な駅伝ファン以外、誰も知らない無名の監督でした。さらに言えば、私の現役時代は箱根駅伝出場、オリンピック出場などという華々しい経歴は皆無。そんな私が、なぜ青学陸上競技部で結果を出せたのか。それはきっと、営業マンとして実績を積み重ねる過程で、チームをつくり上げるにはなにが必要なのか、人を育てるとはどういうことなのかなど、たくさんのことを学んだからです。そして、それをスポーツの現場に持ち込めば成功するのではないかと思っていたのです。ダメダメだった私だからこそ、今までの常識にとらわれずに、陸上界の常識を打ち破ることができたのだと思います。ビジネスのグラウンドには、「人と組織」を強くするノウハウがたくさん埋まっています。ビジネスで培われ、青学陸上競技部で醸成された「ノウハウ」が、今度は皆さまのビジネスの現場で一つでもお役に立てられれば、これほどうれしいことはありません。
勝つためには、そのための組織構築術がある。勝つためには、そのための人材育成術がある―――。
監督就任5年目にして青山学院大学33年ぶりとなる「箱根駅伝」に出場、2015年には初優勝、2016年には39年ぶりの完全優勝、そしてさらに2017年には「箱根駅伝3連覇」を果たすという強豪にまで育てあげた原晋監督。伝説の“提案型サラリーマン”時代の経験を生かし、当たり前とされてきた体育会系の指導方とは異なる独自のスタイルで結果を出し、その指導法が注目されている。本書は、そんな原監督の過去から現在における発言の数々を「語録」としてまとめた1冊。管理者・管理職として組織をどのようにまとめ、育て、目標を設定し、勝利へと導くのか?4つの章にわけて、“原晋式勝ちパターン”の作り方を紹介。その言葉の解説を読めば、さらに深く、言葉の意味や言葉の向こう側にあるものを感じとることができるはず。社会、人生、子育てなど、さまざまなシーンでの悩みに対するヒントが溢れている。
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