*

米ソ冷戦に翻弄された天才チェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの生涯

公開日: : 最終更新日:2017/12/11 オススメ書籍

日曜日夜にNHK-BSで放送された「天才ボビー・フィッシャーの闘い~チェス盤上の米ソ冷戦~」をとても興味深く視聴した。

史上最強のチェスチャンピオン、ボビー・フィッシャー。冷戦時代はソビエトが国家を挙げ養成した頭脳集団をなで斬りにした破天荒な英雄。しかし冷戦崩壊後の混乱の中、アメリカへの反逆者として訴追される。逃亡生活の中、911同時多発テロをきっかけにアメリカが包囲網を敷き、潜伏先の日本で拘束された。そして亡命先のアイスランドでの死。国家と闘い続けた希代の天才の人生を、貴重な資料と証言をもとにたどっていく。

 

米ソ冷戦時代、米国チャンピオン対ソビエトチャンピオンによるチェス対決は、両国家の威信をかけた代理戦争でもあった。13歳にして彗星の如く現れたボビー・フィッシャーは、その童顔に似合わないほどの創造的な強さで瞬く間に米国王者に駆け上がり、そしてソ連王者を一蹴する。番組の中では、クィーンを捨て駒にして勝利を決めた世紀の一手を再現している他、ボビーに完敗した当時のソ連王者がその後国家からあらゆる権威を剥奪された過去を語り、それだけ国家を背負って戦わされていたことを改めて思う。

 

chess boardphoto credit: nestor galina via photopin cc

 

しかし、冷戦後に今度はボビーは母国アメリカという国家と闘うことになる。そして、彼の逃亡・潜伏生活は日本とも大いに関係が深い。なにしろ2004年に成田空港で拘束され、隠していたその姿を現すこととなる。アメリカ政府が身柄引き渡しを要求する中、最終的にはアイスランドへ向けて出国し、その4年後彼はその地で永眠する。僕がフィッシャーについて知ったのは、その当時、フィッシャーを救おうと奮闘する人たちの中心に、あの羽生善治がいたからだ。

 

将棋棋士・羽生善治がチェスにも長けているのはよく知られたことだが、その彼がフィッシャーの釈放を求めて「『伝説のチェス王者』フィッシャーを救え」と題して、文藝春秋に寄稿するなど、極めて政治的な発言をするというのは非常に珍しいことであった。それくらい強い気持ちがチェスに対して、そして最強の王者フィッシャーに対してあったのだろうと推測するより他ない。そんな羽生も推薦している一冊がこの『完全なるチェス 天才ボビー・フィッシャーの生涯』。本書に対し、羽生は次のように書いている。NHK-BSの番組を見逃した人には、ぜひ読んでもらいたい一冊だ。

もし、「ボビー・フィッシャーはどんな人?」と聞かれたら、「チェスの世界のモーツァルト」と私は答えます。モーツァルトとの共通点は3つあります。

  1. 誰もが認める“天才”であること
  2. その天才性を簡単に知ることが出来ること(音楽を深く勉強しなくてもモーツァルトの素晴らしさを理解できるように、フィッシャーのチェスもルールが解ればその力強い指しまわしに魅了されるはずです)
  3. それとは別の部分に大きなギャップがあること

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

国語辞典ベストセラーランキングに見る人気辞書|中学生以上は新明解、小学生はドラえもんかチャレンジか

国語辞典というのは大変におもしろい。実に個性豊かであるにも関わらず、その特徴は必ずしもきちんと伝わっ

記事を読む

東京五輪と同時開催していた「数学オリンピック」でも日本代表がゴールドメダル|この漫画がスゴい

東京オリンピックが閉会した。日本代表選手が獲得したメダルの数や色に一喜一憂するのは当然かも知れないが

記事を読む

2015年ことしのベストセラー|紙書籍編

先日の「ベストセラー電子書籍編」に続き、今回は本ブログ経由でよく読まれた紙の書籍編を紹介しよう。以下

記事を読む

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる「作者の意図は?」といった問い

記事を読む

マッサン・ブームに乗っかって、ウィスキー「余市」を飲んでみた:今まで飲まず嫌いでごめんなさい

ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝と、その妻リタをモデルとしたNHKの朝ドラ「マッサン」が面白い。い

記事を読む

東大医学部合格者の6割が通う進学塾|受験エリートと塾歴社会

先日、雑誌AERAの特集を読んだ。「東大理III合格者の6割が所属 受験エリートの“秘密結社”」とい

記事を読む

誰も教えてくれない、科研費に採択されるコツを公開|研究費獲得に向けた戦略的視点

また今年も科学研究費助成事業(科研費)の締切が近づいてきた。今月から来月にかけては、日本にいる数多く

記事を読む

永世竜王・渡辺明の『勝負心』と、あきらめたらそこで試合終了だよ

渡辺明の新著『勝負心』を読み終えたところなのだが、これが実に面白かった。「羽生世代」に続く、将棋界の

記事を読む

心を打つ名言、心を挫く駄言|絶版を目指した出版「駄言辞典」がおもしろい

今年出版された「駄言辞典」をご存知ですか?こんな本、知らなくてよいのかも知れない。なぜなら、最初から

記事を読む

この国語辞典がおもしろい|比べて愉しい辞書のディープな読み方・遊び方

これはこれは大変に興味深い本が出版されていましたね。その名も『比べて愉しい 国語辞書ディープな読み方

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑