売れっ子プロデューサー川村元気の本気の「仕事。」論
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川村元気。この名前をどこで聞いたか覚えていますか?大ヒット映画『電車男』のプロデューサーとして?ベストセラー小説『世界から猫が消えたなら』の作者として?それともさらなる世界的アニメ映画となった『君の名は。』のプロデューサーとして?
そう、それくらい現代のエンタメ業界において話題作を生み出し続ける人物、それが川村元気であり、その名は至るところで聞くはずだ。そんな彼が業界の重鎮たちに「若いころにどんな姿勢で仕事に取り組んでいましたか?」と尋ね歩いて作ったインタビュー集が、最近新たに文庫化された本書『仕事。』である。
「私と同じ年の頃、何をしていましたか?」。大人になってからのほとんどの時間、僕らは仕事をしている。だとしたら僕は人生を楽しくするための仕事がしたい―。映画プロデューサー、作家として躍進を続ける川村元気が、仕事で世界を面白くしてきた12人の巨匠に聞いた「壁を乗り越え、一歩抜け出す」唯一無二の仕事術!
具体的なインタビュー相手は次の12人である。この顔ぶれを見ただけでもう読みたくなるようなものでしょう。そしてこれらの相手から、これまた素晴らしい話を引き出しているのである、この人にこの話題について聞いてみたい、という絶妙のアプローチで。例えば、沢木耕太郎とは「旅はひとりで行くことに意味があるのか」と語り合う。倉本聰には、NHK大河ドラマの脚本を降板し北海道へと移住した挫折について忌憚なく問いかける。秋元康とは、ローカルなアイドルがグローバルに受け入れられた背景について、といった具合だ。
そして、川村元気本人が、本気でこうした巨匠に学びたいという気持ちを持っているから、本書の中でまとめられている、インタビュー前の「予習」と、対話後に何を学んだのかを振り返る「復習」が実に生き生きとしているのである。
●山田洋次――批判する頭のよさよりいいなぁと惚れ込む感性が大事です。
●沢木耕太郎――僕はあらゆることに素人だったし素人であり続けた。
●杉本博司――やるべきことは自分の原体験の中にしかないんです。
●倉本聰――世間から抜きんでるにはどこかで無理をしないといけない。
●秋元康――時に判断を間違えるのは仕方ない。大切なのは、間違いを元に戻す力だ。
●宮崎駿――何でも自分の肉眼で見る時間を取っておく。作品を観ることと、物を見ることは違うんです。
●糸井重里――人間は仕事の一部分でしかない。だから、どうやって生きるかを面白くやれ。
●篠山紀信――世界をどうにかしようなんて、おこがましい。大事なのは受容の精神です。
●谷川俊太郎――人類全体の無意識にアクセスできる仕事であればいいんじゃないかな。
●鈴木敏夫――最近はみんな丁寧に物をつくるから、完成したときには中身が時代とズレちゃう。
●横尾忠則――自分が崩落していく感覚の先に新たな道を見つけることも多いと思います。
●坂本龍一――勉強とは過去の真似をしないためにやるんです。
こうした12人の若い頃の仕事ぶりはもちろん多種多様だ。しかしそこから大きな共通点とメッセージを探すならば、若い時期の一定期間なにかに集中して取り組むことの大切さ、それが作業ではなく全身全霊を傾けられるものであること、そしてその仕事がうまくいくか失敗するかは問題ではなく、それを糧に次につなげることの重要性、ではないだろうか。
本書は、いまや各界の重鎮・巨匠となったお偉い方々の自慢話を集めたもの、では決してない。そうではなく、そうしたエライ人たちが、いまいち元気のない若者に対して叱咤激励する一冊、でももちろんない。本書は、彼らにもかつては無名の時代があり、そのときの数々の失敗や挫折や後悔にめげずに、自分の目指す作品をつくるべき仕事を続けてきた軌跡であり、そしてさらに今後もより良い作品を作りたいという思いに満ちた極めてピュアな対談集なのである。
川村元気が本書で触れる漫画『スラムダンク』のエピソードがまたいいのだ。安西先生の名セリフ「あきらめたらそこで試合終了ですよ」は、仕事でも同じだと指摘する。そして不良としてブランクのあった三井寿が安西先生の前で涙を流しながら「バスケがしたいです」と告白するシーンを踏まえ、「仕事がしたいです」と言い続けたいと述べる。そう、本書は、売れっ子プロデューサーとなった今も、いや今だからこそ、もっと真摯に、より真剣に、次の仕事に取り掛かりたいという、川村元気にとってもピュアな思いから構想された珠玉のインタビュー集なのである。想定読者は若手ビジネスパーソンとなるのだろうが、これから就職活動が始まるという大学生にとっても、非常に示唆に富む内容となろう。仕事に対する心構えを、これだけの顔ぶれから学ぶよい機会となるはずだ。Kindle版は今なら30%のポイント還元とお得です。
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