*

綻びゆくアメリカと繁栄から取り残された白人たち

公開日: : 最終更新日:2017/03/22 アメリカ, オススメ書籍

2014年に翻訳出版された『綻びゆくアメリカ―歴史の転換点に生きる人々の物語』に今また注目が集まっているのをご存知だろうか?それはひとえに、アメリカという超大国にトランプという新大統領が誕生したからに他ならない。昨年11月、トランプが大統領選挙で当選した直後には、その想定外のショックをいかに理解すればよいのかという視点から、ニューヨーク・タイムズ紙が “6 Books to Help Understand Trump’s Win” という記事を掲載したが、そのまさに最初の一冊として推薦されたのが本書だったのである。

 

民主主義の国、アメリカはいま危機に瀕している。勝者と敗者に二極化し、政治や経済の制度がもはや機能していないなかで、社会の紐帯を失った市政の人々は新しい道を模索してさまよっている。衰退した南部のタバコ農家をあきらめてバイオ燃料に賭ける企業家、ラストベルトの工場労働者からコミュニティー・オーガナイザーへと転身したシングルマザー、政治的理想と利権の間で揺れるワシントンのインサイダー、インターネットの未来に疑問を抱くシリコンバレーの億万長者……。救済と成功を求め、自力で道を探すほかない人々の人生を丹念に追いながら、物語は編み上げられていく。綻びゆくかつての超大国の姿を透徹した視点で描き切り、本国で高い評価を得た話題のノンフィクション。全米図書賞受賞(ノンフィクション部門)・ニューヨークタイムズベストセラーの話題作。

 

 

邦訳で700ページを越す大著ではあるが、僕自身が読後に「『ゼロ・トゥ・ワン』のティールと米国社会の変容『綻びゆくアメリカ』」として感想をまとめたように、アメリカという国に余裕がなくなり、社会の綻びが修復しようがないほどに広がり、そして次第に人々の暮らしが蝕まれていく様を余りにもリアルに活写した本書は、トランプ大統領が誕生した今こそ、やはりもう一度そしてさらに広く読まれるべき一冊と言えるだろう。

 

 

photo credit: Steve Snodgrass via photopin cc

photo credit: Steve Snodgrass via photopin cc

 

 

さて、ニューヨーク・タイムズ紙がリストアップした「トランプを理解するための6冊」だが、その中のもう一つがようやく翻訳出版された。それがこの『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』である。タイトルに含まれている「ヒルビリー」とは田舎者の意味であり、まさにサブタイトルにある通り「アメリカの繁栄から取り残された白人たち」を指す。

 

アメリカという超大国でトランプという新大統領が誕生した背景をよりよく理解し、そして今後のアメリカの行く末を考える上でも、欠くことのできない一冊であるのは間違いない。洋書で読んでいなかった僕自身も、今回の邦訳出版に感謝しつつ、この機会にじっくりと読んでみたいと思う。上記の『綻びゆくアメリカ』と合わせ、春休みに時間をかけて読書するには最適の本なのではないだろうか。

 

無名の31歳の弁護士が書いた回想録が、2016年6月以降、アメリカで売れ続けている。著者は、「ラストベルト」(錆ついた工業地帯)と呼ばれる、オハイオ州の出身。貧しい白人労働者の家に生まれ育った。回想録は、かつて鉄鋼業などで栄えた地域の荒廃、自分の家族も含めた貧しい白人労働者階級の独特の文化、悲惨な日常を描いている。ただ、著者自身は、様々な幸運が重なり、また、本人の努力の甲斐もあり、海兵隊→オハイオ州立大学→イェール大学ロースクールへと進み、アメリカのエリートとなった。今やほんのわずかな可能性しかない、アメリカンドリームの体現者だ。そんな彼の目から見た、白人労働者階級の現状と問題点とは? 勉学に励むこと、大学に進むこと自体を忌避する、独特の文化とは? アメリカの行く末、いや世界の行く末を握ることになってしまった、貧しい白人労働者階級を深く知るための一冊。

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

ゴリラ研究者にして京都大学新総長・山極寿一『「サル化」する人間社会』が、もんのすごく面白かった

現在シーズン2が放送中のNHKスペシャル「ホットスポット」。先月放送された第一回の「謎の類人猿の王国

記事を読む

チェス界のモーツァルト、天才ボビー・フィッシャーの生涯が待望の文庫化

伝説的なチェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの生涯を記録した傑作ノンフィクション『完全なるチェス』

記事を読む

イェール大学出版局「リトル・ヒストリー」は初学者に優しい各学問分野の歴史解説

以前にもおすすめしたのだが、米国イェール大学出版局の “A Little History” シリーズ

記事を読む

『科研費獲得の方法とコツ』は、科研費申請予定の研究者必携の一冊

研究者にとっての秋は、科学研究費助成事業(科研費)の締切が迫る時期でもある。今年は11月10日が最終

記事を読む

Kindle電子書籍で安く読める、経済学および統計学の教科書

電子書籍の普及がますます加速しているが、大学や大学院で使う教科書はまだまだ電子化が遅れている。しかし

記事を読む

町山智浩『知ってても偉くないUSA語録』は秀逸な現代アメリカ社会批評

映画評論家の町山智浩をご存知だろうか?そして、彼の秀逸な現代アメリカ観察記をご存知だろうか?そんな週

記事を読む

sadness

留学前に。

4月15日というのは、今も以前と変わりなければ、アメリカの大学院に入学希望を伝える期限である。つまり

記事を読む

japanese igo

囲碁マネーリーグ|井山裕太五冠が11年連続の賞金王そして1億円越え

囲碁棋士の2021年賞金ランキングが発表され、棋聖、名人、本因坊を防衛し王座、碁聖を奪取した井山裕太

記事を読む

打倒青山学院|来年の箱根駅伝をもっと面白くするこの5冊

青山学院の5連覇がかかる来年の箱根駅伝、僕もまた正月の2日間テレビの前に釘づけとなってしまうことだろ

記事を読む

japanese igo

日本囲碁マネーリーグ|賞金ランク首位・国民栄誉賞の井山裕太

さてさて、1-2月にかけては毎年、それまでの一年間の各種ランキングが発表されることが多い。僕自身が毎

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑