*

機械 vs 人間:チェス、予測、ヒューリスティック

公開日: : オススメ書籍

今回もサッカー・ワールドカップ予想をしている、毎度注目の統計家ネイト・シルバー。その彼の著書『シグナル&ノイズ』は、「今年続けて読みたい統計学オススメ関連書と教科書15冊」の中でも紹介したように、圧倒的にオススメの一冊だ。

 

その中で彼が一章を注いで書いているのがチェス。とくに機械と人間の予測方法の違いについてだ。本書の中でシルバー自身が書いているとおり、チェスの世界において「世紀の一手」といえば、今も語り継がれるボビー・フィッシャーのあの「クィーンを捨て駒」である。

 

「米ソ冷戦に翻弄された天才チェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの生涯」でも書いたように、弱冠13歳の天才チェスプレイヤーが放ったこの一手は、対戦相手であった当時のグランドマスター、ドナルド・バーンだけでなく、世界中をあっと驚かせた。その実に鮮やかな勝利は、これまでの常識を覆し、チェスに新たな時代をもたらすものでもあったのである。

 

chess boardphoto credit: Leshaines123 via photopin cc

 

それまでのチェスの鉄則は、「もう一つのクイーンのため、もしくはチェックメイトが迫っている」時でない限り、最強の駒クイーンを捨ててはならない、というものだった。この当たり前に思えることが実は、人間のヒューリスティックな推論(決定的な方法がないときに採用する大まなか方法)の限界を示すものでもあったことに、そしてそれを突き付けたのが13歳の童顔の少年であったことに、世界が驚愕したのである。

 

今では簡単なチェス・プログラムであっても、この場面においてはボビーが放ったこの「世紀の一手」こそが正解手であると即答するという。しかしながら、その一手を最初に見出したのが人間であり少年であったという点に、機械 vs 人間の戦いのロマンを見るようでもある。ボビー・フィッシャーの生涯を綴ったノンフィクションとともに、お薦めしたい一冊だ。

 

 

そしてまた思いを馳せるのが、日本の将棋だ。「『われ敗れたり』:完敗だったが名勝負もあった第3回将棋・電王戦」で書いたように、ここ連続して苦戦続きの人間棋士たち。チェスよりも遥かに複雑な将棋においても、機械の進化は目覚ましい。今後さらに上位の棋士がプログラムの挑戦を受けるのかどうか、そしてその結果がどうなるのか、注目している。

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

あの伝説の一戦「3連勝4連敗」から9年|羽生善治・永世七冠誕生

2017年12月5日、長い将棋の歴史に新たな偉業が刻まれた。羽生善治が竜王位を奪還し永世竜王となり、

記事を読む

おすすめ新刊『できる研究者の論文作成メソッド』|書き上げるための実践ポイント

以前に「できる研究者の論文生産術:How to Write a Lot」でもおススメしたように、ポー

記事を読む

欧州サッカー「データ革命」|スポーツを科学する最前線ドイツからの現地レポート

先日書いた「錦織圭の全豪オープンテニスをデータ観戦しながら応援しよう|IBMのSLAMTRACKER

記事を読む

【おすすめ英語テキスト】重要単語を因数分解|語源から根こそぎ完璧に理解する

現在開催中のKindle本ストア 9周年キャンペーン。本日はこの中から最大級におすすめしたい、この英

記事を読む

2020年、本ブログで人気だった英語論文ライティングの参考書ベスト5冊

先日のエントリ「いま国語辞典がおもしろい|10年ぶりの大幅改訂による最新版あいつぐ」で紹介したように

記事を読む

「もっとヘンな論文」がついに登場|アカデミック・エンターテインメントの最高峰

NHK Eテレの番組「ろんぶ~ん」をご存知だろうか?ロンブー淳が司会を務める、アカデミック・エンター

記事を読む

『科研費獲得の方法とコツ』は、科研費申請予定の研究者必携の一冊

研究者にとっての秋は、科学研究費助成事業(科研費)の締切が迫る時期でもある。今年は11月10日が最終

記事を読む

博士号だけでは不十分!研究者として生き残るために

先日懐かしく読み返した Economist 誌の記事 "Doctoral degrees: The

記事を読む

英国一家、最後に日本を食べる&お正月スペシャル

コアな人気を博していたNHK深夜アニメ「英国一家、日本を食べる」。ベストセラーとなった原作も素晴らし

記事を読む

数学ミステリー白熱教室|数学と物理学の驚異のつながり

「NHK『数学ミステリー白熱教室』本日最終回をお見逃しなく」でも書いたように、先週末でNHKの「白熱

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑