おすすめKindleコミック『乙嫁語り』は2014年のマンガ大賞受賞作
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2008年に始まったマンガ大賞。ご存知でしょうか?過去には錚々たる作品がノミネートされ受賞しているこのマンガ大賞を、今年受賞したのが森薫の『乙嫁語り』だったというのは、2014年のハッピーニュースの一つと言ってもいいだろう。
既に読み終えたという方も多いだろうが、中央アジアの遊牧民を主役に据えたこの作品は(現在Kindle版がセール中)、その着眼点のユニークさと、特色あるキャラクター像、そして精緻で精巧な描写が魅力の、超一級のエンタテインメント作品である。僕も一旦読み始めたら途中で止めることができず、思いがけず一気に全巻読破してしまったことを告白せねばなるまい。
美貌の娘・アミル(20歳)が嫁いだ相手は、若干12歳の少年・カルルク。遊牧民と定住民、8歳の年の差を越えて、ふたりは結ばれるのか……? 『エマ』で19世紀末の英国を活写した森薫の最新作はシルクロードの生活文化。馬の背に乗り弓を構え、悠久の大地に生きるキャラクターたちの物語!
そんな本作の舞台となる中央アジアとは一体どこなのか?それは、作者がマンガ大賞受賞メッセージ(以下イラスト)に寄せているように、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、トルクメニスタン、タジキスタンという、旧ソビエト連邦に属する国家を指す。
それにしても、上記の国々の名称に馴染みがない人がほとんどであろう。僕もそうだった、一年前までは。というのは他でもない、「あらためて国際大学(IUJ)の紹介:留学生の出身国」でも紹介したように、本学ではこうした中央アジアからの政府派遣留学生が数多く学んでいるのである。僕の授業を受けた学生数はすでに相当数に上るし、実際にいま僕が修士論文を指導している学生の一人もキルギス出身なのである。
だから僕にとってこの漫画『乙嫁語り』を読むという行為は、純粋にマンガを楽しむということだけでなく、彼ら留学生の出身国の歴史や特徴を知る手がかりにもなるのである、という言い訳を用意しているところだ(笑)。いずれにしろ、こういう漫画がいま日本で人気があるんだよ、ということは彼らにも伝えたかったし、一方で彼らから見てこうした描写(とくに絵的なもの)はどの程度実感に合っているのか、それがとても気になったので早速聞いてみたのである。
結果としては、中央アジアの暮らしをとてもよく捉えている、ということだった。生活の描き方、衣装や絨毯といった細かい小道具の描写に対しても大きな違和感はないというのは、それだけ作者・森薫が「高校生の頃から憧れていた」というこの地域を研究し尽くした上で作品をつくっていることの証だろう。そしてそれはまた、漫画の随所に挿入される作者の創作裏話などにも伺えるものである。
僕は今こうした国々からの留学生を教えるという立場にいることがきっかけで本作品に興味をもったのだが、この漫画を楽しみ、そして留学生とその作品について話し、さらには作者・森薫のじつに入念な準備や下書きに始まる創作のインタビューを読み、僕はますますこの作品と作者のファンになってしまったのである。2014年のマンガ大賞受賞という肩書なんてなかったとしても、自信をもっておすすめしたい、そんなとことん素敵な漫画なのである。現在年末大セール中となっている他のKindleコミックの数々と合わせて、ぜひその世界観を味わって欲しい。
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