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他大学で非常勤講師をすると確定申告が必要|提出締切は3月15日

公開日: : 最終更新日:2021/01/31 オススメ

毎年1月から3月にかけては確定申告の季節。一般的には2/16から受付開始で締切が3/15と認識されているところだが、e-Tax システムを利用すれば、1月初旬から申請することが可能だ。領収書を始めとする様々な書類を揃える必要があり、締切間際になって慌てなくてすむように、できれば毎年早め早めに準備を心がけたいところだ。

 

そんな確定申告は、大学教員を含めサラリーマンには一般的に関係ないと思われがちだが、決してそんなことはないので、ここで簡単に要点をまとめておきたい。とくに、本務校以外の大学で非常勤講師を勤めている人は、僕自身も含めてそれなりの数いると思われるが、その多くは確定申告する必要があるので、3/15までに税務署で提出するのをどうぞお忘れなく。

 

そして近年はとくに仮想通貨ブームがあったり、そこで大きな利益を得た人も多いことだろう。その場合には税制的には「雑所得」として計上され、これが20万円を超える場合にはサラリーマンでも確定申告が必須となる。そんな雑所得とは何か、そして具体的な確定申告の申請方法について、以下にまとめているのでご参照ください。

 

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(Photo by 401(K) 2012)

 

 

確定申告する必要がある人

それではまずはどんな人が確定申告せねばならないのか、から抑えておこう。ネット上には様々な情報と個人的経験談が寄せられているが、それらはちとアヤシイものもあるので、ここはやはり国税庁の公式文書で確認しておくべきだろう。そこでは「給与所得者で確定申告が必要な人」として7種類のケースが列記されており、この中で大学教員に関係が深いのは3番目であろう。

2か所以上から給与の支払を受けている人で、主たる給与以外の給与の収入金額と給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超える人

 

給与が2か所以上&その他所得合計が年間20万円を超える

他大学で非常勤講師を勤めた場合に該当するのがこれである。つまり本務校からの給与に加えて、非常勤講師給与をもらうもう一つの大学が「2か所目」に当たるということだ。しかしここで言及されている「給与が2か所以上で、主たる給与以外の給与の収入金額と給与所得及び退職所得以外の所得の金額の合計額が20万円を超える」場合というのは、具体的にどのようなケースを指すのだろうか?それをより分かりやすく解説するために次のような複数の例を考え、個別事例における結論とその理由を説明したい。

 

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photo credit: SalFalko via photopin cc

 

A大学での非常勤講師給与が25万円の場合

結論:確定申告が必要。2か所目からもらう非常勤講師給与が「20万円を超える」ため、上記の国税庁公式ページで説明されているように、確定申告しなくてはならない。

 

A大学での非常勤講師給与が15万円の場合

結論:確定申告は不要。上の事例とは対照的に、20万円を超えない非常勤講師給与については確定申告する必要がない。

 

A大学での非常勤講師給与が25万円、ただし経費が6万円の場合

さて、上記2つの事例は実にシンプルであり、全く問題ない。しかしここからが注意が必要になるところだ。今回のケースのように、非常勤講師として年間25万円の給与をもらったとしても、それには当然経費がかかってくる。大学へ通勤するための交通費、書籍購入費、資料印刷費等々。それら経費の総額が年間6万円になったとしよう。であるならば、給与25万円ー経費6万円=19万円となり「20万円を超えない」のだから確定申告は必要ないと考えてよいのだろうか?実はそれがよくある誤解の一つなのである。

 

その理由は、給与所得には「給与所得控除(国税庁)」というものがあり、ざっくり言うと年間65万円までは経費として認めましょう、という制度なのである。だから、本務校からの給与と非常勤講師としての給与をまとめた上で、それに必要な総経費はこの65万円の中に既に計上されている、という考え方をするわけだ。というわけで結論:非常勤講師給与が「20万円を超えて」いるならば、かかった経費の総額に関係なく確定申告が必要

 

A大学での非常勤講師給与が15万円、B大学での非常勤講師給与が10万円の場合

上記までを抑えておけば、このような事例でどうなるかは自明であろう。非常勤講師給与の合計が「20万円を超える」ため、結論:確定申告が必要。2つ以上の大学で非常勤講師を勤めると、それだけ時間も交通費もかかる一方で、かかった経費は追加で計上することができないということは、講師を引き受ける前にもう一度しっかり検討すべき点であろう。

 

A大学での非常勤講師給与が10万円、原稿料・講演料等で12万円の場合

さて、ここからがもう一段と複雑になるのである。つまりより慎重に確定申告が必要かどうかを判断せねばならなくなる。今回の場合は、本務校からの給与以外の収入が10+12=22万円となり、「主たる給与以外の給与の収入金額(今回の10万円)と給与所得及び退職所得以外の所得の金額(今回の12万円)の合計額が20万円を超える人」に該当し、結論:確定申告が必要となるのである。ここまではクリアだろうが、次のケースと比べて頂きたい。

 

A大学での非常勤講師給与が10万円、原稿料・講演料等で12万円、ただし経費が3万円の場合

ただし、原稿を執筆するためにかかった取材費や交通費、講演に必要だった書籍購入等で、合計3万円の経費がかかったとしよう。この場合はなんと、10+12-3=19万円となり、「合計金額が20万円を超えない」ため、結論:確定申告は不要となるのである。しかし、なぜこの場合に限っては経費が認められるのだろうか?それは、非常勤講師収入が「給与所得」であるのに対し、原稿料や講演料等は「雑所得」と定義され、異なる方法で所得税が課せられているためである。というわけで、ここをキチンと理解するために、続けて「所得」および「雑所得」について解説しよう。

 

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所得とは

まず「所得」についてだが、これは基本的に「収入ー経費」のことを指す。ただし、上記「給与所得」の場合でみたように、給与にはあらかじめ所得控除が認められているため、かかった経費を収入から(二重に)差し引くことはできないのである。これは国税庁の公式ページ「給与所得の計算方法」でも次のように説明されているので確認しておこう。

給与所得の金額は、次のように計算します。
収入金額(源泉徴収される前の金額)-給与所得控除額=給与所得の金額

 

所得の種類

さてその「所得」だが、給与所得を含めて以下の10種類に分類される(国税庁「所得の区分」)。上記事例ではよくありそうなケースしか例示してこなかったが、もし利子や配当で20万円を超える所得があったり、所有する賃貸住宅や山林から20万円を超える所得がある場合には、言うまでもなく確定申告が必要になるので、そんな資産をお持ちの方は手続きをお忘れなく。

  1. 利子所得
  2. 配当所得
  3. 不動産所得
  4. 事業所得
  5. 給与所得
  6. 退職所得
  7. 山林所得
  8. 譲渡所得
  9. 一時所得
  10. 雑所得

 

雑所得

こうした不動産や配当や山林といった資産に縁がないわれわれのような者でも、「雑所得」だけは無視できない。なぜならこれは「上記1から9までの所得のいずれにも該当しない所得」として定義されるものであり、具体的には原稿料や印税や講演料等、大学教員にとって大いに関係のある所得であるからだ。そんな「雑所得の計算方法」は、「総収入金額ー必要経費」と決められているように、給与所得とは異なって所得控除はない一方で、必要経費を収入から差し引くことが認められているのである。だから今回の事例に話をもどすと、非常勤10万円、原稿・講演料12万円、その経費3万円という場合には、その経費を計上して計算した所得19万円(=10+12-3)が「20万円を超えない」ため、結論:確定申告は不要、となったわけなのである。

 

それではどれくらいの経費が認められるのか?これはケース・バイ・ケースで判断されるものであり、一概に何割までの経費はOKとは判断できないようだ。ただ、社会的常識に照らしあわせて判断されるものらしく、例えば原稿料や講演料の収入のうちほとんどを経費として使用したので、実際の所得はほぼゼロです、という(過剰な)節税のための言い分は通じないということだ。

 

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非常勤講師報酬を「給与所得」ではなく「雑所得」として申告できるか?

それじゃあ、非常勤講師としてもらう収入を「雑所得」として計上すればいいんじゃないだろうか?と考えたあなたは実にスルドい。全くもってその通りで、そうするだけで、交通費やら書籍代やら資料印刷費等々、かかった経費すべてを差し引くことができるのだから、それによって申告する所得は減り、その結果納税する金額も減るわけである。しかも本当に経費として使っているのだから、申告して当然と言えるはずだ。まさにこれこそ正しい節税!

 

というわけには残念ながらいかないのである。なぜか?それは同じように考えた人が過去に相当数おり、実際に裁判で争った結果いくつもの判決が既に出ているからだ(国税不服審判所)。結論としては、非常勤講師収入は「給与所得」なのである。

大学教授が他大学での非常勤講師としての地位は、これら他大学の定めたカリキュラムに従い、特定の学科を担当し、一定期間継続して労務を提供するものであるから、その対価として得た報酬は雑所得ではなく、給与所得と認めるのが相当である。(昭和48年10月8日裁決)

 

給与所得と源泉徴収票

給与所得と雑所得の違いをみたついでに、手続き面での相違も確認しておこう。給与所得の場合には「給与所得の源泉徴収票」という書類が勤務先から送られてくる。毎年1月頃に本務校で貰うあの紙1枚の書類である。他大学で非常勤講師を勤めた場合には、同様の書類が勤務先から送られてくることになる。確定申告では、それらすべての「源泉徴収票」を提出することになるので、忘れずに税務署に持参しよう。

 

雑所得と支払調書

雑所得の場合には、給与所得の源泉徴収票ではなく「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」という、源泉徴収票と似たような紙1枚の書類が送られてくる。そのため、もしも副業収入が給与所得なのか雑所得なのかで迷ったら、どちらの書類が送られてきたのかで確認することができる。そしてこの「支払調書」は、源泉徴収票とは異なり確定申告で提出する必要のない書類となっている。ただし言うまでもないが、あなたにいくら支払ったのかはその支払元が税務署に申告しているので、誤魔化すことはできない。忘れずに申告しましょう。

 

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photo credit: bookgrl via photopin cc

 

他の理由で確定申告することを選択した場合

最後にもう一つよく見受けられる誤解について。これまで上記で議論してきたのは、確定申告する必要がある人と、必要がない人をどこで区別するか、ということである。だから、繰り返し事例で解説してきたように、いわゆる副業全般からの所得合計が「20万円を超えない」場合には、確定申告する必要がないのである。

 

ただ、確定申告しなくてよいにも関わらず、確定申告する人もいるのである。もちろんそれは確定申告したほうが総合的に納税面でメリットがあるからであり、その主な要因は「所得控除」である。給与所得の控除を上でみてきたが、それ以外にも数多くの所得控除があるのである(国税庁「所得控除一覧」)。例えば、多額の医療費を払ったときに該当する「医療費控除」、最近流行りの「ふるさと納税」等の寄付をしたときに該当する「寄付金控除」、それ以外にも「配偶者控除」や「障害者控除」といったように、様々な控除を適用することで税金がかかる課税所得を圧縮し、結果として納税金額を抑えることができるのだ。

 

このような所得控除を申請するには確定申告が不可欠となるのだが、その際には非常勤講師等の副業から得られる所得合計が「20万円を超えない」場合にも、きちんと申告書に記載する必要があるのである。つまり、所得控除を受けるためにあえて確定申告する際には、少額の副業所得であってもきちんと報告する義務があるのである。くれぐれもお忘れのないように。

ふるさと納税について

いまや大変な人気となっている「ふるさと納税」も、確定申告とは縁が深い。たくさんの地方自治体に寄付して多くのお礼品をもらうような人は、この確定申告手続きが欠かせないのである。一方で、確定申告しなくてはならないから、新たにふるさと納税を始めるという人も多いだろう。僕自身はこのタイプであり、どうせ確定申告するならと始めて見たのがこの「ふるさと納税」だったのである。この制度の詳細については、総務省のウェブサイトで解説されているほか、多くのガイドブックでも実践的な使い方やおすすめの特産品を紹介しているのでぜひご参考に。とくに、来年もまた確定申告することがほぼ確実な場合には、いまのうちから計画的に、ふるさと納税をしておくととてもお得ですよ。

 

 

具体的な確定申告の手続について

というわけで、もしも昨年1-12月までの期間に他大学で非常勤講師を勤めた人で、上記「確定申告する必要あり」に該当した方は、締切の3/15までに書類一式を提出する必要がある。といっても、その書類は驚くほど簡単に作成することができるのである。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」からPC上での手続き画面を開いて、後は必要な情報を必要な箇所に入力していくだけで自動的に書類を作成してくれるのだ。

 

あとはそれをプリントアウトし、指定された最寄りの税務署に提出するだけだ。もちろんその際には、源泉徴収票や医療費・寄付金の領収書等を合わせて提出する必要がある。というように、確定申告というと何やら面倒くさそうだというイメージはあるのだが、実際には非常勤講師としての収入くらいであれば、それほど時間をかけずに手続きを完了することができる。税金の仕組みについて勉強する大変よい機会であり、一度やってみるのも悪く無いと思う。

 

そういう僕自身も、他大学での非常勤講師を引き受けたことがきっかけで確定申告せざるを得なくなり、確かに面倒くさいという気持ちで渋々やったのだけれども(苦笑)、どうせならと最近流行りの「ふるさと納税」も合わせて行ってみたりと、大いに学ぶことがあったのである。確定申告の必要がないならばもちろんそれで構わないのだが、もし手続きする必要があるならば控除の利用なども含めぜひ色々と活用してみてはどうだろうか。

 

最後に、僕が確定申告するにあたって参考にしたのがこの一冊だ。納税や控除の仕組みから節税のポイントまで、具体的なケーススタディをもとに解説している実践的なガイドブックである。電子書籍Kindle版もあるし、初めて確定申告するなら手元に置いておいて損はないだろう。ことし確定申告するための最新版もすでに発売となっているので、ぜひご参考にどうぞ。

 

 

また、原稿料や講演料など、収入から経費を差し引くことができる「雑所得」の場合には、領収書をきちんと整理し、かかった経費を漏れ無く計上することが重要になるのだが、その際にはクラウド会計ソフトがものすごく便利だ。以前に紹介したように、僕が利用している 【会計ソフトfreee(フリー)】というサービスは、クレジットカードの利用歴から銀行口座への出入金まで、すべてをクラウドで一括管理できるという実に優れものなのだ。しかもその費目が交通費なのか書籍購入費なのか等々をどんどんと学習していってくれるから一層便利さが増す。「家計簿をクラウド会計で|研究費管理から確定申告まで」でも紹介したように、研究費の管理から、非常勤講師の収入、そして確定申告手続きまで、今この freee がものすごく役立っているのである。個人や小規模事業者であれば無料で使い始めることができるの、ぜひ、一度使ってみるとそのスゴさが実感できることだろう。おすすめです。

 

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