ヒマラヤ山脈でイエティの足跡を発見|雪男は向こうからやって来た
ヒマラヤ山中で伝説の雪男「イエティ」の足跡を発見したと、インド軍が公式ツイッターに写真つきで投稿したものだから、このニュースがいま世界中で話題となっている(CNNニュース)。ひさびさに名前を聞いたイエティ、その幻の存在がついに明らかにされるのか、これはもう固唾をのんで見守るしかない、というわけには流石にいかないのだ。
この雪男イエティのような未確認生物が本当に存在するのかどうかは、もはや実のところあまり重要ではないだろう。ここでより注目すべきなのは、そうした生きものが地球上にいると信じている人たちがいまなお結構な数いるという現実なのだ。ネッシーは偽造写真でしたと本人が告白したにも関わらず、それを信じずに更に力を入れて探索を続ける人たち、と言えば分かりやすいだろうか。
だから、探検家にしてノンフィクション作家の角幡唯介がヒマラヤに雪男の捜索に向かったと知ったとき、僕はあまりにも驚いてしまったのだ。あのリアリストにして、人類がまだなし得たことがない挑戦を続ける角幡がまさか未確認生物を確認しに行くだなんて、とね。しかし本書『雪男は向こうからやって来た』を読めばひしひしと伝わってくるのが、角幡自身が興味を惹かれていったのが、雪男そのものではなく、その探索に生涯をかけてきた鈴木氏の人生観であり生き様であった、ということなのだ。
しかもこの鈴木氏は、フィリピンで旧日本兵のあの小野田氏を発見した人物でもあったのだ。いまなお太平洋戦争が続いていると信じ独り密林に隠れサバイバルしていた小野田を発見し、1974年にともに帰国した鈴木は、なぜその後ヒマラヤへ向かったのか、そしてどうして雪男の捜索に後半生のすべてを賭ける決断をしたのか。角幡が描くこのノンフィクションは、他の作品とは大きく異なる筆致と感情の起伏が魅力の、実に面白く読める一冊なのだ。今回インド軍が発信した突然のツイートを機に、イエティが存在するかどうかだけではなく、それを死ぬまで信じていた一人の日本人がいたということにも思いを馳せてみてはどうだろうか。
ヒマラヤ山中に棲むという謎の雪男、その捜索に情熱を燃やす人たちがいる。新聞記者の著者は、退社を機に雪男捜索隊への参加を誘われ、二〇〇八年夏に現地へと向かった。謎の二足歩行動物を遠望したという隊員の話や、かつて撮影された雪男の足跡は何を意味するのか。初めは半信半疑だった著者も次第にその存在に魅了されていく。果たして本当に雪男はいるのか。第31回新田次郎文学賞受賞作。
そんな角幡の、早稲田大学探検部の先輩が、あの高野秀行である(ただし同時代ではない)。そんな辺境探検家の高野もまた、以前に雪男を捜しにブータンに行っていたという事実はじつに興味深い。角幡と高野は、同じ早大探検部出身でありながら、探検に対する考え方は大きく異なり、だからこそ、行く場所からアプローチのしかた、そして現地での行動まで、それぞれ大きく異なった特徴を有している。それなのに、こと雪男に関しては、ふたりともが現地に赴いているのだから、これは大変に運命的と言わざるを得ないのだ。本書『未来国家ブータン』も、高野にしか描けない探検ノンフィクションとして、ぜひとも一読をおすすめしたい。
「雪男がいるんですよ」。現地研究者の言葉で迷わず著者はブータンへ飛んだ。政府公認のもと、生物資源探査と称して未確認生命体の取材をするうちに見えてきたのは、伝統的な知恵や信仰と最先端の環境・人権優先主義がミックスされた未来国家だった。世界でいちばん幸福と言われる国の秘密とは何か。そして目撃情報が多数寄せられる雪男の正体とはいったい―!?驚きと発見に満ちた辺境記。
ちなみに以下は、南魚沼市塩沢にある創業300年を超える老舗造り酒屋の青木酒造による日本酒銘柄「雪男」である。以前に「新潟県南魚沼市の銘酒『鶴齢』がJALビジネスクラスの機内食日本酒リストに登場」でも紹介した、あの青木酒造である。鶴齢ブランドがよく知られているが、こちらの雪男ブランドも旨いんです。昨年の利き酒チャンピオンの僕が言うんだから、間違いないよ!
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