「伊藤若冲と京の美術」展を観に行ってきた:奇想の画家が発見された背景
相変わらずの伊藤若冲の人気ぶりと言えよう。先日は新潟県立万代島美術館まで「伊藤若冲と京の美術」展を観に行ってきた。ここは伝統美術から現代アートや写真まで、守備範囲の広い展示会を企画しており、僕もちょくちょく訪れる美術館の一つとなっている。
若冲といえば思い起こすのが、僕がアメリカにいた2012年、ワシントンDCのナショナル・ギャラリーで開催された伊藤若冲の企画展である。ご存じのように、世界的な若冲コレクターと知られる米国プライス夫妻の活動もあり、若冲に対する注目はことのほか大きい。そしてまたそんなプライス夫妻が、震災後の福島を元気づけようと企画したのが、「若冲が来てくれました in 福島」展であり、「プライス夫妻が語る若冲の美」や、「村上隆が語る若冲の魅力」等は、ぜひとももっと多くの人に読んでもらいたいところだ。
さて、今回の若冲展を前に僕が読んでいったのが『奇想の発見』だ。著者・辻惟雄は日本の美術史家にして、これまでキワモノ扱いされていた伊藤若冲等を埋もれた歴史の中から発掘し、「奇想の画家」として再評価した人物である。若冲の作品を求めて京都の美術商を訪ねた際には、目当ての作品がその辺に投げ置かれていたという事実からも、いかに若冲が価値の無い作家だと当時考えられていたのかが分かる。
そんな若冲の作品を買い集めているプライスなる米国人の噂を聞いた著者が、目の前にあるこの若冲作品をもう二度と見ることができなくなるかも知れないと、一度東京に持ち帰らせてもらったエピソードや、しかしながら事前に心配が拍子抜けするほどにプライス氏の人の良さ、美術を愛する気持ち、そしてそれを独り占めするのではなく多くの人に見てもらいたいという姿勢に感銘する場面など、若冲の周りに集う現代の人びとの人となりが垣間見えるのが本書の魅力となっている。
まだ若冲展に行ったことがない人も、おそらくはまた近い将来企画されるであろうその日を心待ちにしながら、本書を読んでみるのも一興だろう。「アートは小説よりも奇なり:盗作と贋作の歴史、美術ノンフィクションが面白い」で紹介したように、事件性のあるアート・ミステリーも興味深いが、しかしながら本書『奇想の発見』のようにストレートに美術とその歴史を語った書もまた面白い。
Amazon Campaign

関連記事
-
-
東京藝大で教わる西洋美術の見かた|基礎から身につく「大人の教養」
2022年1月3日から、BSイレブンで新番組「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」が始まる。これはぜひ
-
-
若き水中考古学者の海底探検記|ガラクタから宝物そして遺跡新発見
「水中考古学」なる学問分野をご存知だろうか? もちろん考古学なら知っている。それの水中版? もちろん
-
-
効果抜群おすすめ英単語超学習法|語源から理解して飛躍的に語彙を広げる
今年5月に出版された『英単語の語源図鑑』が、すでに20万部も売れているようだ。英語関連書としてベスト
-
-
マラソンランナー大迫傑という生き方|東京五輪で引退する「愚か者」
オリンピック最終日に開催され、最も注目されるともいってよい種目が、男子マラソンである。そして今年の東
-
-
若き探検作家・角幡唯介の「極夜行」は最悪の旅だからこそ最高のノンフィクション
探検家・角幡唯介のノンフィクション作品を読んだことがある人も多いことだろう。NHKでも特集番組となり
-
-
【おすすめ英語テキスト】あの「語源図鑑」に待望の続編が登場|英単語を語源から根こそぎ理解する
ついに出ましたね、あのベストセラー『英単語の語源図鑑』に第二弾の続編が! これ、ものすごくおススメな
-
-
うんち終了2日前:おすすめ企画展「トイレ?行っトイレ!~ボクらのうんちと地球のみらい」
「この夏休みどこか1か所出かけるとしたら、ここでしょ!」と、僕が激推しした「トイレとうんち展」が、い
-
-
イェール大学出版局 リトル・ヒストリー|若い読者のための「考古学史」のすすめ
以前にも紹介したことのある、「イェール大学出版局 リトル・ヒストリー」のシリーズ。いまのところ5冊が
-
-
『ヤバい統計学』他で学ぶ数字のセンス|統計リテラシー入門におすすめの4冊
以前にも「『ヤバい統計学』とテーマパーク優先パスの価格付け」で紹介したように、カイザー・ファング著『
-
-
綻びゆくアメリカと繁栄から取り残された白人たち
2014年に翻訳出版された『綻びゆくアメリカ―歴史の転換点に生きる人々の物語』に今また注目が集まって