中学生プロ棋士・藤井聡太四段の新たな歴史的偉業
快進撃を続けていた若干14歳のプロ棋士・藤井聡太四段が、ついに、なんと、歴代連勝記録の単独トップという大記録を達成した。
(日本将棋連盟)6月26日(月)に行われた第30期竜王戦決勝トーナメント、増田康宏四段-藤井聡太四段戦は91手で藤井聡太四段が勝ちました。藤井聡太四段はこれでデビュー後負けなしの29連勝を達成し、歴代連勝記録の単独トップとなりました。関係者のコメントは下記の通りです。
以前に「奨励会三段リーグ|天才少年棋士からプロへの最後の関門」でも書いたように、プロ将棋士になるためには、まずは奨励会という養成機関に入門し、そこで幼き天才たちと勝負を繰り返し、そして一定年齢までに四段に昇格して初めてプロの棋士となれるのだ。その道のりは長く、中学生でプロ棋士となったのは、これまでに加藤一二三、谷川浩司、羽生善治、渡辺明の4人であり、この顔ぶれを見ればどれだけのトップ棋士しか達成していない偉業かはすぐに分かるというものだろう。
しかも、である。藤井聡太はこの四段昇格を14歳2か月で実現し、それまで加藤一二三が持っていた最年少記録を62年ぶりに塗り替えての偉業だったのだ。そして、藤井聡太にとってのプロデビュー戦が何の運命か、その加藤一二三であり、この初戦に勝利して以来まだ負けがないという、すさまじい快進撃なのである。
加えて、これまでの試合と対戦相手がまたドラマチックなのである。例えば先日対戦した東大生トップアマ・藤岡隼太。彼もまた幼いころから天才とうたわれた棋士だったが、奨励会入門後にはそれ以上の天才たちに囲まれ自身は伸び悩み、最終的にはプロ棋士への道を諦めているのである。東大入学後に今度はアマチュアとして再度将棋を始めた結果、これまでとは違う楽しさを見つけたという人物なのである。
またもう一人は、その前に対戦した瀬川晶司だ。彼もまた天才少年と評された若き棋士だったが、26歳までに余談に昇格するという奨励会の鉄の掟を満たすことができる、志半ばで奨励会を後にした経験があるのだ。しかし、その後アマチュアで活躍をつづけた結果、35歳にして特例にしてプロの世界への編入が認められた遅咲きの棋士なのである。
今回の藤井聡太四段の快進撃は、その他大勢にとってはいかにも眩しい業績と言えるだろう。それに加えて、プロ誕生の眼前に立ちはだかる最後の難関「奨励会三段リーグ」をこれだけの速さで駆け抜けて突破したことは、その関門を前に挫折した多くの天才少年たちにとってみれば、あまりにも圧倒的だ。それだけの結果を残し、そして今後も残し続けていくであろう藤井四段の本当のすごさを知るためにも、その奨励会がどれだけ厳しい世界なのかを知っておいて欲しい。
本書『将棋の子』は、「史上最年少プロ棋士・藤井聡太の初勝利と『将棋の子』たち」の中でも紹介した一冊であり、幼き天才たち、若き異才たちが、日々鍛錬を重ね、勝負に明け暮れ、そしてプロになれるかどうかの最後の一戦まで戦い続け、そして敗れていった者たちの記録である。藤井聡太という類まれなるスターが誕生したいまだからこそ、その背景で夢破れ散っていった彼らの挑戦にも、ぜひ目を向けて欲しい。素晴らしい一冊として強くおすすめしたい。
奨励会……。そこは将棋の天才少年たちがプロ棋士を目指して、しのぎを削る”トラの穴”だ。しかし大多数はわずか一手の差で、青春のすべてをかけた夢が叶わず退会していく。途方もない挫折の先に待ちかまえている厳しく非情な生活を、優しく温かく見守る感動の1冊。第23回講談社ノンフィクション賞受賞作(講談社文庫)
Amazon Campaign
関連記事
-
食べログ評価とレストランオーナーの憂鬱
東洋経済ONLINE「食べログに勝訴でも飲食店が抱く『後味の悪さ』」等でも報じられているように、グル
-
卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り
今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春はいつだって新しい旅立ちのときで
-
愉しく美味しく走ろう!南魚沼グルメマラソンを応援してきた
本日のKindleセール商品は、『ウルトラマラソンマン 46時間ノンストップで320kmを走り抜いた
-
野村克也の頭脳とデータ|戦後初の三冠王そして名監督としての実績と名声
日本のプロ野球界に燦然と輝く実績と名声。戦後初の三冠王の栄誉を手にした名キャッチャーにして、監督とし
-
震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える
新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年10月に起こった中越地震に関して
-
Kindle電子書籍で安く読める、経済学および統計学の教科書
電子書籍の普及がますます加速しているが、大学や大学院で使う教科書はまだまだ電子化が遅れている。しかし
-
町山智浩最新作『言霊USA2016』は、シリーズ最高の現代アメリカ社会批評だ
以前に、「町山智浩『知ってても偉くないUSA語録』は秀逸な現代アメリカ社会批評」と絶賛したように、町
-
ニューヨーク・タイムズが選ぶ、今年絶対に行きたい世界52ヶ所:2015年版
昨年「ニューヨーク・タイムズが選ぶ、今年絶対に行きたい世界52ヶ所」で書いたように、同紙では毎年1月
-
選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語
もうすぐ14年ぶりの宇宙飛行士が決まるって知ってましたか? いや、知っているどころか応募しましたよね
-
一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部の挑戦と初受験
さて今年の国公立大学受験でもう一つ大きな話題となっているのが、一橋大学がじつに72年ぶりに新設する