*

アカデミアへの転身と、アカデミアからの転身

公開日: : 最終更新日:2022/01/25 オススメ書籍, ニュース

日本テレビの桝太一アナウンサーが、16年間在籍した同局を今年3月で退社し、4月からは同志社大学ハリス理化学研究所で助教として勤務するというニュース。毎日のようにテレビに登場する人気アナウンサーであるだけに、フリーになるお誘いはいくらでもあっただろうに、そうではなく、東大の大学院でも生物研究に取り組んできたその情熱を胸に、ふたたび研究の世界に戻るという決断をしたようだ。

 

科学のおもしろさをもっと視聴者にうまく伝えていきたい、そんな桝アナの問題意識が、同志社大学のサイエンスコミュニケーター養成プログラムとも合致し、研究員公募を勝ち抜いての採用となったようだ(記事「桝太一アナ、大学の採用面接では『新分野を切り拓きたい』と熱弁…東大院時代には『アサリの殻』研究を」)。

 

確かに今回の桝アナの転身は、過去のアナウンサーの退職事情と比べると極めて異例である。ただ、今までそういう思いを持ったアナウンサーがいなかった、というだけのことなのかも知れない。その意味では、大学院でアサリの研究をしていた人をテレビアナウンサーとして採用した日本テレビも当時思い切った意思決定をしたわけだし、まったくの異分野でこれまで活躍してきた桝氏自身とその彼の今回の判断も、今後次第に普通のこととして受け止められる日がくるかも知れない。

 

個人的には、こうしたキャリアチェンジというものが、もっともっと増えていくとよいのでは、と思っている。例えば先日ちょうど「若き研究者フィギュアスケート町田樹のスポーツ文化論」で書いたように、フィギュアスケートで活躍した町田樹氏は、引退後に早稲田大学の大学院に進み、博士号を取得していまは大学勤務の研究者だ。そんな風にして、民間企業での勤務経験を経たり、はたまたスポーツ選手としての実績を踏まえたりして、そこから現場で得た問題意識を研究テーマにしていくというのは、大変おもしろいし、ユニークなアプローチになると思う。

 

それと同時に、今回の桝アナや町田元選手のような「アカデミアへの転身」だけでなく、「アカデミアからの転身」も、この先もっと数が増え、それが普通のこととなるとよいと考えている。例えば、以下の書籍『アカデミアを離れてみたら』は、まさにそんなキャリアチェンジを経験した21人のその後を追った内容で大変興味深く読める。自分がもっといきいきと活躍できる場所を求めて、ときにはアカデミアへ、そしてときにはアカデミアから、他の世界にジャンプするということが当たり前となるくらい、もっと自由に活発に往来や交流が進むことを願っている。

 

大学などの学術界から「外」に出た博士たちは,何を感じ,どう生きているのか.研究の経験は,その後にどう活かされるのか.企業の研究職から官僚そして指揮者まで,主に理系の博士号取得者たちが,酸いも甘いもひっくるめて語りつくす.21人の目は「外」の世界をいきいきと映し出し,そしてアカデミアのいまを見つめる.

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

人はなぜ走るのか?を問う『Born to Run~走るために生まれた』は、米国ランナーのバイブル

米国で異例のベストセラーとなり、何度目かのランニング・ブームを引き起こした一冊『Born to Ru

記事を読む

Kindle電子書籍で安く読める、経済学および統計学の教科書

電子書籍の普及がますます加速しているが、大学や大学院で使う教科書はまだまだ電子化が遅れている。しかし

記事を読む

サッカー日本代表W杯開幕戦:日本のサッカーを強くする25の視点

あと数時間で、日本対コートジボワール戦のキックオフ。おそらく今回も相当大勢の日本人が、このときばかり

記事を読む

言葉にできない、そんな夜。|その気持ち、言葉のプロならどう表現する?

気持ちが揺れ動いたあの瞬間。表現したいのにボキャブラリーが追いつかない!言葉のプロの脳内を通したら、

記事を読む

japanese dictionaries 1

赤瀬川原平『新解さんの謎』と『辞書になった男』:いま日本で最も売れている「新明解国語辞典」の誕生秘話

これまで何度か、各種おすすめ国語辞典のそれぞれの個性について書いてきたが、その中でも最も「個性的」な

記事を読む

若き昆虫学者のアフリカ|いまこそ昆虫が面白い

もうご存知と思うが、いま昆虫が熱い。ちょっと前から大ブームだ、とまでは言えなくとも、プチブームなのは

記事を読む

敗れざる者たち|藤井聡太に失冠したトップ棋士たちの言葉

もちろん、もう読みましたよね?藤井聡太二冠を表紙にすえ、初めて将棋を特集したスポーツ雑誌Number

記事を読む

flag of bhutan

西水美恵子著『国をつくるという仕事』が称賛する、ブータン国王のリーダーシップ

ブータン訪問記の続き。 ちょっとブータンまで行ってきた。 ブータンではみんな王室と国王と

記事を読む

東京五輪と同時開催していた「数学オリンピック」でも日本代表がゴールドメダル|この漫画がスゴい

東京オリンピックが閉会した。日本代表選手が獲得したメダルの数や色に一喜一憂するのは当然かも知れないが

記事を読む

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が3年ぶりのフル開催となった。じ

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑