*

世界で最も成功したスポーツビジネス:アメフトNFLとスーパーボウル

公開日: : 最終更新日:2014/07/24 アメリカ, オススメ書籍

米国で最も盛り上がるスポーツイベントと言えば、アメフトのスーパーボウル。個人的にはいまだにアメフトの面白さがよく分からないのだが、アメリカ人友人たちの間での盛り上がりようは確かに凄まじかった。そして先日行われた今年のスーパーボウル、試合自体は一方的な展開だったようだが、ビジネスとしては過去最高の成功を収める結果となった。

 

視聴者数1億1,200万人という数字はスーパーボウルとしてはもちろんのこと、米国テレビ史上でも過去最多となった。毎年話題になるテレビCMの価格も30秒枠が4億円とこちらも史上最高値を記録した。どのCMが優れていてどれが駄作だったのかという評価も既に多数アップされているが、全体としてはスーパーボウルの集客ぶりと、いまだテレビCMが莫大なビジネスであることを印象づけたように思う。

 

そんなテレビCM収入をクライアントの業種別に見たのが次のグラフ。青色でマークされたのが自動車業界で、2011年からCM投入額が急増し業種別のシェアNo.1を取り続けている。それまではバドワイザー、コカ・コーラ、ペプシの3社を中心とした飲料業界が長いことトップシェアを占めていただけに、近年の自動車業界のCM投入額の増加は著しい。しかもその自動車業界をさらに企業別に見てみると、2009年に経営破綻したクライスラーがCMトップの座についており、特に2013年にはCM投入額を前年の2倍以上に伸ばしている。

 

super-bowl-spending-by-industry-group

 

spending by auto companies

(Wall Street Journal)

 

そんなスーパーボウルのCM価格高騰は、アメフトつまりはそのリーグNFL人気に裏付けられている。米国のスポーツと言えばメジャーリーグMLB、もしくはバスケNBAだってあるじゃないか、というのは全くの誤解。以下のグラフに示されているように、実際にはNFLが絶大な人気を集めているのである。しかも2位のMLBとの差を開きつつあるというのだから、その人気の突出ぶりがうかがえるというものだ。

 

most popular sport in the U.S. is NFL

(USA Today)

 

それでは一体なぜアメフトNFLがこれだけ成功したスポーツビジネスとなったのか、というのは大変に興味深い。種子田『NFLの経営学』はアメフトの成功をリーグ全体のマネジメントとして解説したユニークな一冊。ファンは自分のひいきのチームを応援したい、しかし自分のチームが毎年ぶっちぎりで優勝しては面白みがない。他のライバルチームと拮抗した試合を繰り返し、最終的には相手に競り勝つ。そういう展開にファンはしびれるのである。

 

つまり、リーグ全体の運営で重要になるのがチーム間の戦力バランス。突出して強いチームや弱いチームが生まれないようにすることが、結果的にはリーグ全体としての繁栄につながる、というのがNFLの考え方の根本にある。日本プロ野球のかつての巨人V9時代のような、巨人ファンですら飽き飽き感を生み、アンチ巨人は野球そのものから離れていってしまいかねない状況をつくってはならないというポリシーだ。そのために、次のような各種政策を導入して、チーム間の戦力をバランスさせているのである。

 

NFL運営システム) NFLのリーグ運営は設立当初から、スポーツの魅力とは最高のレベルで戦力の均衡したチームが繰り広げる競争状態である、という理念のもとに行われています。リーグ全体が継続的に繁栄しアメリカ全土を熱狂させるためには、戦力や資金力が特定のチームにだけ片寄ってしまうことのないシステムを構築することが必要である、という信念がそれを支えています。

NFLでは現在、「レベニューシェアリング」、「サラリーキャップ」、「ウェーバー制ドラフト」という3つのシステムによって戦力や資金力を均衡させ、ニューヨークのような大都市にあるチームも、メジャープロスポーツリーグのフランチャイズとしては最も小さなマーケットにあるグリーンベイ(全米69番目)も、同じ条件でフィールド上では競い合える仕組みを築き上げてきました。特に、レベニューシェアリングはリーグの根幹をなすもので、すでに40年以上も前にその仕組みは整えられています。

この結果、NFLはアメリカの4大スポーツリーグで最も健全な運営を行うリーグとなりました。アメリカの経済誌フォーブスが2004年に発表したアメリカメジャースポーツの各フランチャイズの格付けランキングでは、16位のニューヨーク・ヤンキース(MLB)以外は上位33位までをNFL 32チームが占めています。1位のワシントン・レッドスキンズは11億400万ドル、33位のアリゾナ・カーディナルスでも5億5,200万ドルの価値と算定されています。このデータによると、NFLではカーディナルス以外の全チームが黒字で運営されています。

 

そんな、NFLのリーグ運営を経済学的な視点で解説したのが以下の訳書『スポーツの経済学』だ。以前に「ファンシーでファニーな Sports Economics」で書いたように、僕は一度、学部生向け Economics of Sports の授業のTAを担当したことがあるのだが、そのとき利用した教科書がこれだったのである。米国のスポーツビジネスを題材に、需要と供給、フランチャイズ運営と利益最大化、独占と価格設定、地元への波及効果、選手移籍と労働市場といったことを解説するユニークなテキストだ。

 

 

そのうちの一章が、戦力の均衡に充てられていて、とくにNFLのリーグ運営に焦点を当て、なぜチーム間の戦力バランスが必要で、それをどう促進し、いかに計測するかといった議論が展開されていく。本書自体で取り上げるのはNFL以外の話題も多く、経済学の入門書としてだけではなく、スポーツファンとしても、もちろんとても興味深く読める内容だ。「スポーツ経済学」という授業は日本ではなかなかないだろうけれど、学部ゼミで輪読などするには格好のテキストとなるかも知れない。

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

論文捏造はなぜ繰り返されるのか?科学者の楽園と、背信の科学者たち

先週は、小保方晴子氏の論文「学位取り消しに当たらず」(NHK)との報道が新たな議論を引き起こしている

記事を読む

ジョジョの奇妙な英語にまさかの続編ガァァァ|あのクールな台詞はこれで学べ

以前に「ジョジョの奇妙な冒険で英語を勉強するなんて、無駄無駄無駄無駄無駄ですか?」でご紹介した英語テ

記事を読む

これは経費で落ちません|経理部が見つめる人間模様

NHKで現在放送中のドラマ「これは経費で落ちません!」が面白い。多部未華子が演じるアラサー独身女子・

記事を読む

華麗な舞台の裏にあるプロテニス選手の過酷な生活|ランキングシステムが生んだ世界的超格差社会

2018年の全豪オープンテニスがフェデラーの優勝で幕を閉じた。自身が持つ四大大会最多優勝記録を20勝

記事を読む

岸田奈美のエッセイが好きだ

普段は見ていなくとも、12月6日の「サンデーステーション(テレビ朝日)」だけは見た方がよいかも、そう

記事を読む

sadness

留学前に。

4月15日というのは、今も以前と変わりなければ、アメリカの大学院に入学希望を伝える期限である。つまり

記事を読む

敗れざる者たち|藤井聡太に失冠したトップ棋士たちの言葉

もちろん、もう読みましたよね?藤井聡太二冠を表紙にすえ、初めて将棋を特集したスポーツ雑誌Number

記事を読む

打倒青山学院|来年の箱根駅伝をもっと面白くするこの5冊

青山学院の5連覇がかかる来年の箱根駅伝、僕もまた正月の2日間テレビの前に釘づけとなってしまうことだろ

記事を読む

イェール大学出版局 リトル・ヒストリー|若い読者のための「文学史」のすすめ

以前にも「イェール大学出版局『リトル・ヒストリー』は初学者に優しい各学問分野の歴史解説」で紹介したよ

記事を読む

リンクトインのデータに見る、アメリカの新卒採用と転職行動

雑誌WIREDの記事「アップルやグーグル、フェイスブックはどの大学の卒業生を採用しているのか」で紹介

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑