ハートマウンテン日系人強制収容所の、貴重なプライベート写真集
7月に出版されたエッセイ写真集『コダクロームフィルムで見る ハートマウンテン日系人強制収容所』を読んで眺めた。今になってこのような書籍が出版されるとは、非常に珍しいと思わざるを得ないほどに、貴重な写真の数々だった。
70年の時を経て発見された、有刺鉄線の向こう側の日常。1941年12月の真珠湾攻撃の半年後、日系二世の写真愛好家ビル・マンボは、カリフォルニア州の自宅からワイオミング州の強制収容所に連行された。1942年、日系二世のビル・マンボは、カリフォルニア州の自宅からワイオミング州の強制収容所に移された。その彼が、有刺鉄線の中で暮らす家族の日常、盆踊り・相撲のような日系人収容所ならではの風物詩を撮影。当時では珍しい鮮やかな63点のカラー写真から、収容所生活の実際が浮かび上がる。研究者による考察や元収容者のエッセイを付し、写真の理解を助ける。
先日書いたように、僕がアメリカに暮らして興味を持ったことの一つに、アメリカ日系人の歴史がある。それもとくに、太平洋戦争時、全米10ヶ所に設立された強制収容所に連行された彼らの歴史と暮らしについてである。それを知るために、砂漠の中にあるマンザナー収容所と、荒れた大地のツールレイク収容所を訪れる旅に出たのは、以前書いたとおりである。

戦争当時のアメリカ日系人に焦点を当てた山崎豊子の『二つの祖国』や、真保裕一の『栄光なき凱旋』は、アメリカと日本の間に挟まれて引き裂かれた心情と人生を描いた名作だ。しかし、それらの小説とこの写真集『ハートマウンテン日系人強制収容所』が決定的に異なるのは、フィクション/ノンフィクションという差以上に、そこに映る人びとの表情である。
その写真には、アメリカを憎む気持ち、日本を恨む気持ち、そして両国が戦争を始めたこととその狭間に立たされる自分の人生を呪う気持ち、そういうものが一切ない。照りつける太陽の下、水しぶきを上げてプールに飛び込む少年たちの姿、浴衣を綺麗に着こなして盆踊りに興じる少女たちの姿、そういうものが当時としては極めて珍しいカラー写真として残されているのである。子供も大人も笑顔で毎日を過ごしている。
しかしそれはもちろん、収容所の生活が快適だったということでは全くなく、こうした明るくポジティブに見える写真が、ともすれば収容所生活で人間らしい暮らしができなかった多くの日系人からの反発を招く危険性については、本書の中でも解説として述べられる。
本書に掲載された写真の数々は、有刺鉄線に囲まれた収容所という異常の中にあっても、春は春らしく、夏には夏の思い出を、という正常の日常を子供たちには過ごさせたいというビル・マンボの親としての愛情で出来ている。「当時の記憶はほとんどない」と振り返るまだ幼い子供だったビリー・マンボは、写真の中で元気に明るく微笑む。それはまさにビルが望んだことではあったが、今われわれが振り返ってその写真を眺める際には、その無邪気な笑顔の遠く向こうにある鉄条網と銃を構えた兵士が見えるはずだ。マンボ父子が静かに写し出すプライベートは、しかしながら小説の主人公以上に歴史の不条理を語りかけてくる。
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