三浦しをんのマニアックな職業視点がいちいち面白い:今度の舞台は社史編纂室
公開日:
:
最終更新日:2016/10/27
オススメ書籍
次々と面白い小説を発表し続ける三浦しをん。そんな彼女のモチベーションは、世の中にこんな仕事があったなんて!という驚きと、そこでイキイキと働いている人たちが素敵、という感動なんだろう。そんな気持ちが色濃く現れているのが『ふむふむーおしえて、お仕事!』だ。
ちょっぴり変わった職に就いている人たち16人へのインタビューなのだが、染織家のような職人から、漫画アシスタント、そして大学研究者まで、すべて女性ワーカーだ。仕事全般への並々ならぬ関心が、三浦しをんの創作活動の原点にあると言っても過言ではないだろう。
彼女の大ヒット作『舟を編む』もまた、辞書編纂という一風変わった職業に着目した快作だった。無味乾燥な辞書作りという先入観はことごとく覆され、この作業に携わる人たちの思いと哲学が反映された、なんと人間臭く可笑しいプロセスなのかと、眼から鱗が落ちる思いで読んだのは、「学校で教えて欲しい国語辞典の選び方・使い方・遊び方:複数の辞書を使い分けろ」で書いたとおりだ。
そして現在映画「Wood Job!」が公開中の原作『神去なあなあ日常』。林業男子・林業女子という名称を生み出したように、日本の森深くに分け入り、木を育て材として伐り出す若者たちを描いた青春田舎群像。目の付け所の秀逸さが光るこの傑作は、6月30日まで実施中の Kindle本 夏のバーゲンセールにつき、現在Kindle版が63%オフ。もしまだ読んでいないならこの機会にぜひ。
そんな彼女のもう一つの、そして僕が読んだ中では最新にして最高にオモシロかった一冊がこちら『星間商事株式会社社史編纂室』だ。社史だよ、その編纂室だよ、そこを舞台とするなんて、やっぱり三浦しをんはちょっとというか相当ヘンなのであり、それがまた大変な味わいとなっているのである。また本書ではいわゆる腐女子が主人公となるのだが、それもまた著者自身のテイストが色濃く現れたものとなっている。こういうエンタメ小説を長々と紹介するのは野暮というもの。読んで笑って大いに楽しむべし。
川田幸代。29歳。独身。腐女子(自称したことはない)。社史編纂室勤務。彼氏あり(たぶん)。仕事をきっちり定時内にこなし、趣味のサークル活動に邁進する日々を送っていた彼女は、ある日、気づいてしまった。この会社の過去には、なにか大きな秘密がある!……気づいてしまったんだからしょうがない。走り出してしまったオタク魂は止まらない。この秘密、暴かずにはおくものか。社史編纂室の不思議な面々、高校時代からのサークル仲間、そして彼氏との関係など、すべてが絡まり合って、怒濤の物語が進行する。涙と笑いの、著者渾身のエンターテインメント小説。
Amazon Campaign

関連記事
-
-
効果抜群おすすめ英単語超学習法|語源から理解して飛躍的に語彙を広げる
今年5月に出版された『英単語の語源図鑑』が、すでに20万部も売れているようだ。英語関連書としてベスト
-
-
聖の青春|天才・羽生善治を追いつめた伝説の怪童・村山聖
日本の将棋史上最高のプロ棋士・羽生善治の名前を知らぬ人は少ないだろう。だが、「東の羽生、西の村山」と
-
-
史上最年少プロ棋士・藤井聡太の初勝利と『将棋の子』たち
史上最年少のプロ棋士が誕生したと話題となったのが2016年9月のこと。それから3か月が経ち、今度は若
-
-
行動経済学者ダン・アリエリーの最新TEDトーク|How equal do we want the world to be? You’d be surprised
行動経済学者ダン・アリエリーが、TEDトークに登場。これで合計5回目となる彼のトークは、経済学者とし
-
-
チェス界のモーツァルト、天才ボビー・フィッシャーの生涯が待望の文庫化
伝説的なチェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの生涯を記録した傑作ノンフィクション『完全なるチェス』
-
-
ソーシャルディスタンスのいま最も濃密な人間関係|プロ将棋棋士の師弟愛と絆
この年末年始なにが盛り上がっているかと言えば、もちろん紅白歌合戦に箱根駅伝、ではないですよね。今年は
-
-
5月25日は「広辞苑の日」って知ってましたか?
「ことばは、自由だ。」というキャッチフレーズでも知られる、岩波書店の「広辞苑」は、国語辞典の代表格と
-
-
ヒマラヤ山脈でイエティの足跡を発見|雪男は向こうからやって来た
ヒマラヤ山中で伝説の雪男「イエティ」の足跡を発見したと、インド軍が公式ツイッターに写真つきで投稿した
-
-
なぜ日本の新幹線は世界最高なのか?定刻発車と参勤交代
"Why Japan's high-speed trains are so good" というEco
-
-
人間はアンドロイドになれるか|ロボット工学者・石黒浩の最後の講義
大学教授が定年退官の前に行う授業、それがこれまでの「最後の講義」だった。しかしそれを文字通り、自分が