中央アジアを舞台とした傑作漫画『乙嫁語り』|最新刊の精緻な描写が素晴らしい
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待望の『乙嫁語り』の最新第10巻が発売された。さっそく読んだのだが、これまた素晴らしい生活描写と風景描写の連続だった。19世紀中央アジアの遊牧民たちの暮らしを描くこの漫画はじつにユニーク。なにか大きな出来事があるわけではなく、日々の淡々とした生活をつづるのみなのだが、これがものすごく惹きつけるのである。それは作者の視点の面白さと、そして圧倒的な画力だ。とくに、遊牧民たちの服装や、家の中の装飾品や家具・絨毯の刺繍の細かさは、ため息が出るほどに美しい。
さて、そんな主人公たちが暮らす中央アジアとは一体どこだ?という方にはぜひ、作者がマンガ大賞受賞メッセージ に寄せた以下のイラストを参考にして頂きたい。具体的には、カザフスタン、キリギス、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタンの5ヶ国を指すが、日本からはなかなか馴染みのない国ばかりと言えるだろう。

だからこそ僕自身が、このうちのウズベキスタン・キルギス・カザフスタンの三カ国を訪れる機会を得たときには、とても興奮したのである。なにしろ、漫画に登場するアミルやパリヤがこの悠久の大地を駆け巡っていたのかと、その時代に思いを馳せることができ、そんな素敵な時間を過ごすことができたのだ。
たしかに、中央アジアの国々は日本からものすごく遠い存在だ。しかしシルクロードという響きが多くの日本人の胸に響くことが示すように、歴史的にもみても中央アジアと日本を含めた東アジアの関係は深い。そしてそんな歴史からはいらなくとも、森薫が描くこの漫画『乙嫁語り』の世界観は、きっとより多くの人たちに中央アジアに対する関心をもってもらうきっかけとなるはずだ。こんなにも素敵な作品を、ぜひ読んでみて欲しい。間違いなく中央アジアに行ってみたくなるはずだ。

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