海外で研究者になる|知られざる就職活動その舞台裏
日本人が数多く海外留学していることに比べると、海外で就職する例はまだまだ少ないと言えるだろう。とくに、留学先でそのまま就職というケースではなく、日本の大学や大学院を卒業・修了してから海外就職となるとさらに数少ないだろう。
本書『海外で研究者になる』は、東大の工学系研究科で博士号を取得し、情報工学系の准教授として勤めていた著者が、海外の大学に転職したそのプロセスをすべて明らかにした一冊である。まずそもそも、なぜ東大のポジションがありながら海外の他大学への移籍を目指したのか、というところから話ははじまる。そして、著者が当初から詳しく知っていたわけではない応募の仕方等々について、試行錯誤しながら場数を踏み、そして最終的にはイギリスのブリストル大学に職を得るのだ。
今後、著者と同様に、海外に活躍の場を求めようと考えている人にとっては、情報量が豊富で参考になる経験談となるはずだ。加えて本書では、同じように海外の大学の研究職に就いている日本人17名にもインタビューし、ケース・スタディに厚みを加えている。理科系が多いものの、その他の分野の人にとっても大いに参考になるはずだ。
元気がない日本の大学。だが世界に目を向ければ様々な国の大学があなたを待っている。本書は海外で研究リーダーになるための指南書である。日本にいてはなかなか分からない志望書類の書き方や面接の受け方など就活のAtoZを実体験を踏まえて解説。また、大学運営の仕組みや学生との接し方など仕事と生活の紹介、さらにアメリカ、ヨーロッパ、アジアなど、17人の研究者へのインタビューまで、異文化で頑張る日本人研究リーダーの素顔に迫る。
日本人の研究リーダーたちが世界の大学で活躍している。どうすれば海外で研究者になれるのか。応募書類の書き方から、面接の実際、待遇交渉まで、イギリスの大学に就職した著者が詳説。昇進は自己申告制、会議は家庭の用事で欠席可能、公費でティータイム、意外と親身な学生指導など、異文化での研究生活をリアルに描写。各国で活躍する研究者17人へのインタビューも収録。研究職だけでなく、海外で働こうとする日本人必読。
ちなみに経済学の分野では、アカデミックな就職活動における応募から採用までのプロセスが明確にあり、以前に以下のエントリでも書いたように、毎年お正月シーズンにアメリカで開催されるAEA年次総会が、経済学Ph.D.生にとっての就職面接の場となっている。
また他の分野においても、就職プロセスが定型化されているため、例えばカバーレターには何をどう書けばよいのかとか、履歴書等で強調すべきポイント等々、豊富なアドバイスが以下のような書籍にまとめられている。上記『海外で研究者になる』は、日本語で書かれた海外研究職就職活動に関する書籍として極めて参考になる一冊であり、それに刺激を受け、今後海外のポジションに応募してみようと考えるならば、以下のような書籍も役立つことだろう。
Amazon Campaign

関連記事
-
-
ミャンマーの歴史と地政学|アジアの超大国・中国とインドをつなぐ十字路
ミャンマーがいま政治的に揺れている。日本との歴史的関係も長いこの国は、僕自身も何度か訪れたことがある
-
-
東大医学部合格者の6割が通う進学塾|受験エリートと塾歴社会
先日、雑誌AERAの特集を読んだ。「東大理III合格者の6割が所属 受験エリートの“秘密結社”」とい
-
-
イェール大学出版局 リトル・ヒストリー|若い読者のための「アメリカ史」のすすめ
以前にも紹介したことのある、「イェール大学出版局 リトル・ヒストリー」のシリーズ。いまのところ5冊が
-
-
稲垣栄洋の植物論と生き物の死にざま
稲垣栄洋の植物論は大変におもしろい。例えば、『雑草はなぜそこに生えているのか』であれば、そもそも書名
-
-
行動経済学者ダン・アリエリー|お金と感情と意思決定の白熱教室
NHK『お金と感情と意思決定の白熱教室』再放送決定 先日放送されたNHK『数学ミステリー白熱教室』
-
-
東京五輪と同時開催していた「数学オリンピック」でも日本代表がゴールドメダル|この漫画がスゴい
東京オリンピックが閉会した。日本代表選手が獲得したメダルの数や色に一喜一憂するのは当然かも知れないが
-
-
2020年、本ブログで最も売れたこの1冊
さて、2020年、本ブログ経由でもっとも購入数が多かったのは、なんと、なんと、新明解国語辞典でした!
-
-
数学ミステリー白熱教室|数学と物理学の驚異のつながり
「NHK『数学ミステリー白熱教室』本日最終回をお見逃しなく」でも書いたように、先週末でNHKの「白熱
-
-
イェール大学出版局 リトル・ヒストリー|若い読者のための「文学史」のすすめ
以前にも「イェール大学出版局『リトル・ヒストリー』は初学者に優しい各学問分野の歴史解説」で紹介したよ
-
-
捏造と背信の科学者:繰り返される不正と、研究者の責任ある行動
STAP細胞の件で改めて考えさせられたのは、なぜこの一件だけではなく、研究不正・論文捏造がこれほどま