*

奨励会三段リーグ|天才少年棋士からプロへの最後の関門

公開日: : 最終更新日:2016/09/08 オススメ書籍

中学生でプロの将棋棋士となったのは、加藤一二三、谷川浩司、羽生善治、渡辺明の4人であり、その後も第一線で活躍するビッグ・ネームばかりである。そんな中学生プロ棋士の5人目となったのが、藤井聡太氏である。しかも、ニュースにある通り、62年ぶりの新記録という大快挙なのである。

毎日新聞)藤井新四段は昇段時、14歳2カ月の中学2年で、加藤一二三九段(76)の最年少記録14歳7カ月を62年ぶりに更新した。

 

kuzushi shougi

 

 

これがどれだけ凄いことなのかを語るには、奨励会三段リーグがどれほど厳しい戦いなのかを理解せねばならない。そもそも奨励会とは、プロ棋士の養成機関であり、全国の子供将棋大会等で活躍した天才キッズたちが、将来のプロを目指してその門を叩く場所である。

 

奨励会会員同士の対局で勝ちを重ねて昇段を続け、三段にまで上がってくるといよいよ「三段リーグ」(18戦勝負)に挑戦することになる。ここでの成績が上位2名となった者だけが、四段昇格すなわち正式なプロ棋士として認められるのだ。もちろんそれまでの道のりは険しく、途中で脱落していくものも多々いる。

 

さらには、奨励会会員に課せられた年齢制限が、天才子供棋士たちの行く手を阻むのである。具体的には21歳までに初段、26歳までに四段昇格することが求められており、それが満たされなければ退会処分となり、すなわちプロ棋士になるという夢はその時点で潰えることとなる。だから、年齢制限が近づくに連れて若き棋士たちは、一年一年寿命を縮める思いで盤上に向かわざるを得ないのである。そんな厳しい三段リーグを一期で勝ち抜けたのが、今回史上最年少でプロ棋士となった藤井聡太氏であり、それゆえに彼の将来性に大きな注目が集まるのだ。

 

ちなみに、この奨励会の実態をリアルに描いた傑作ノンフィクションがこの『将棋の子』である。少年たちの熱戦を間近で見続けた著者が、途中で奨励会を去っていった元天才棋士たちのその後を追いかける。プロ棋士になることだけを目標に、その夢に向かってのみ努力していた彼らは、その道が閉ざされた分かった後で、一体どんな別の人生を歩むことができるのだろうか?本書は、余りにも若くして表舞台から退場せざるを得なかった少年たちのその後の物語であり、華やかなプロ将棋の歴史には残らなかった彼らの戦いと生き様を、それでも記憶の片隅にとどめておきたいという著者の使命感がひしひしと伝わってくる、素晴らしい一冊となっている。将棋ファン以外にも知って欲しい世界がここに描かれており、ぜひ一読をおすすめしたい。

 

奨励会……。そこは将棋の天才少年たちがプロ棋士を目指して、しのぎを削る“トラの穴”だ。しかし大多数はわずか一手の差で、青春のすべてをかけた夢が叶わず退会していく。途方もない挫折の先に待ちかまえている厳しく非情な生活を、優しく温かく見守る感動の1冊。

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

いまこそ本当の宇宙兄弟を目指す|13年ぶりの宇宙飛行士選抜試験いよいよ始まる

大ヒット漫画『宇宙兄弟』を挙げるまでもなく、僕らはみな子供の頃から宇宙が大好きだった。そして、あの頃

記事を読む

paper editing

英語アカデミック・ライティング最高の一冊に日本語版が登場

英語のアカデミック・ライティングの書籍は数多くあれど、いやだからこそ、どの一冊を選べばよいか、悩んで

記事を読む

most popular sport in the U.S. is NFL

世界で最も成功したスポーツビジネス:アメフトNFLとスーパーボウル

米国で最も盛り上がるスポーツイベントと言えば、アメフトのスーパーボウル。個人的にはいまだにアメフトの

記事を読む

『ヤバい統計学』他で学ぶ数字のセンス|統計リテラシー入門におすすめの4冊

以前にも「『ヤバい統計学』とテーマパーク優先パスの価格付け」で紹介したように、カイザー・ファング著『

記事を読む

【おすすめ英語テキスト】あの「語源図鑑」に待望の続編が登場|英単語を語源から根こそぎ理解する

ついに出ましたね、あのベストセラー『英単語の語源図鑑』に第二弾の続編が! これ、ものすごくおススメな

記事を読む

【おすすめ英語テキスト】英語を英語で理解する、上級英単語集が半額以下のセール

現在実施中の、Amazon Kindle【40%OFF以上】高額書籍フェア には、ちょっとお値段が高

記事を読む

『科研費獲得の方法とコツ』は、科研費申請予定の研究者必携の一冊

研究者にとっての秋は、科学研究費助成事業(科研費)の締切が迫る時期でもある。今年は11月10日が最終

記事を読む

これは経費で落ちません|経理部が見つめる人間模様

NHKで現在放送中のドラマ「これは経費で落ちません!」が面白い。多部未華子が演じるアラサー独身女子・

記事を読む

2014年、本ブログでのベストセラー:Kindle版および書籍版

今年もいよいよ終わり。ということで、この一年間の本ブログ上でのベストセラーを発表しよう。Kindle

記事を読む

歌舞伎町ホストの帝王・ローランドの言葉にみる至極真面目なプロ意識

現代ホスト界における圧倒的カリスマ、歌舞伎町の夜の帝王、そしてこの世には二種類の男(自分かそれ以外)

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑