戦略アナリストが支える全日本女子バレー|世界と互角に戦うデータ分析術
女子バレーボールのワールドカップもいよいよ終盤戦。リオデジャネイロ五輪への出場権をかけて瀬戸際のニッポンだが、その全日本チーム監督の名前を知っているだろうか?そう、もちろんご存知のとおり、眞鍋政義監督ですね。それでは、同じくチームスタッフにいる渡辺啓太という名前をご存知だろうか?なかなか知られていないが、実は彼こそが現在の全日本女子バレーのデータ戦略を担うアナリストなのである。
というのを、僕自身この『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか―勝利をつかむデータ分析術 バレーボール「観戦力」が高まる!!』を読むまで全く知らなかったのである。柳本前監督のイメージが強かったせいか、女子バレーというのはどちらかと言うと根性とガッツと練習量の世界、そう思っていませんでしたか?僕は長いことまさにそう感じていたのだが、眞鍋監督となり、本書著者の渡辺氏がアナリストとして全権を担うようになってから、全日本女子は驚くほど進化したのである。
それが結果として現れたのが、2010年の世界選手権での32年ぶりのメダル(銅)であり、そして続く2012年の北京五輪での28年ぶりの銅メダルだったのである。その快挙を裏方として支えたアナリスト渡辺氏が著した本書は、女子バレーの現場でいまどんな改革が進められているのかを知るのに格好の一冊と言えるだろう。
具体的な仕事ぶりを紹介しているため、「アナリスト」という肩書きだけでは分からない、実際にやっていることが非常によく分かる。例えば、バレーの世界では Data Volley というソフトがあり、これが北京五輪24チーム中22チームが使用するほどの業界スタンダードとなっている、ということらしい。そしてアナリストの仕事は、このソフトを使って、まずは各試合のデータを各選手の動きをなるべく細かく正確に(まるで速記のように)入力すること。続いてそこから相手チームの弱みを見出し、一方では日本側の弱点を補強するべく、監督に分析結果と提言をするのである。
しかも、これら全てが試合と同時進行で行われているのだ。つまり、両チームのアナリストは試合コート脇の特別席に陣取って、試合映像(カメラは自ら設置するため場所取り合戦ともなるそうだ)を見ながらPCを叩き、監督席にいるチーム監督と通話しながら次の戦術の一手を考えていく、という一連のプロセスとなっているのである。
もちろん、データを蓄積して試合後の反省に活かす、次の対戦相手を知るために過去のデータを分析する、もちろんそういう使い方もされている。しかしバレーボールにおいては、試合とリアルタイムでデータが入力され分析されそして戦略に活かされており、そのスピード感はデータ・スポーツの代表である野球とは比べ物にならないくらいに早い。

(Photo by Pierre-Yves Beaudouin / Wikimedia Commons / CC-BY-SA-3.0)
まさかバレーボールがこんなにも変化していたなんて、そして一段と進化したチーム同士が世界で戦っていたなんて、今までまったく思いもよらなかった。根性とガッツと練習量、が消えてなくなったわけではないだろう。しかしそれに加えて、データを最大限に活用した戦いへと様変わりしていたのだ。そういうスポーツの最先端を知るという意味でも、大変に興味深く読んだ一冊なのである。全日本女子バレーが次の五輪に出場できるかは極めて厳しい情勢だ。しかしそれでも、さらなる進化を応援するためにも、いま読んでおきたい書籍だとおすすめしたい。
データ・スポーツといえば伝統的に野球でありメジャーリーグであった。そして最近はご存知の通り、サッカーの世界でも一気にデータ活用が進んできている。しかしどうやらバレーボールの世界でも、それに負けず劣らずの変化が訪れていたということなのだ。スポーツがますます面白い。
(参考)
Amazon Campaign
関連記事
-
-
行動経済学者ダン・アリエリーの最新TEDトーク|How equal do we want the world to be? You’d be surprised
行動経済学者ダン・アリエリーが、TEDトークに登場。これで合計5回目となる彼のトークは、経済学者とし
-
-
NHK短編ドラマ・星新一の不思議な不思議な世界
7/4月曜から始まるNHKの短編ドラマは大注目だ。なにしろ、あのショートショートの傑作をこれまで千編
-
-
効果抜群おすすめ英単語超学習法|語源から理解して飛躍的に語彙を広げる
今年5月に出版された『英単語の語源図鑑』が、すでに20万部も売れているようだ。英語関連書としてベスト
-
-
英文法再入門|高校の先生がこの本を読んでいれば
中公新書の『英文法再入門』は、直接的なタイトルに見られるように、英語学習者向けに文法を学ぶポイントを
-
-
Kindle電子書籍で手に汗握って読む、箱根駅伝をより面白くするこの3冊
いまや国民的イベントにまで人気が拡大した、正月の風物詩・箱根駅伝。僕も含めて毎年楽しみにしている人は
-
-
日本語の誤用をとことんを考える『明鏡国語辞典』が10年ぶりに大刷新|新しい「問題な日本語」
今年も国語辞典の話題が多かったが、最新のトピックとして最も注目すべきなのは、やはりこちら、『明鏡国語
-
-
捏造と背信の科学者:繰り返される不正と、研究者の責任ある行動
STAP細胞の件で改めて考えさせられたのは、なぜこの一件だけではなく、研究不正・論文捏造がこれほどま
-
-
データとマネジメントとストラテジー|ドイツ・サッカー復活の道のり
昨年のサッカー・ワールドカップ。開催国ブラジルを7-1という大差で沈め、決勝でも強豪アルゼンチンを倒
-
-
ヨーロッパ各国サッカーリーグ開幕:データ革命の時代
さて、いよいよ開幕したヨーロッパ各国のサッカーリーグ。ハメス・ロドリゲスがレアルに移籍し、香川真司は
-
-
デロイト・フットボール・マネーリーグ最新版:欧州サッカーチームの経営学
デロイトが最新のレポート "Football Money League 2015" を発表した。これ

