*

戦略アナリストが支える全日本女子バレー|世界と互角に戦うデータ分析術

公開日: : 最終更新日:2015/09/05 オススメ書籍, スポーツ, データ

女子バレーボールのワールドカップもいよいよ終盤戦。リオデジャネイロ五輪への出場権をかけて瀬戸際のニッポンだが、その全日本チーム監督の名前を知っているだろうか?そう、もちろんご存知のとおり、眞鍋政義監督ですね。それでは、同じくチームスタッフにいる渡辺啓太という名前をご存知だろうか?なかなか知られていないが、実は彼こそが現在の全日本女子バレーのデータ戦略を担うアナリストなのである。

 

というのを、僕自身この『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか―勝利をつかむデータ分析術 バレーボール「観戦力」が高まる!!』を読むまで全く知らなかったのである。柳本前監督のイメージが強かったせいか、女子バレーというのはどちらかと言うと根性とガッツと練習量の世界、そう思っていませんでしたか?僕は長いことまさにそう感じていたのだが、眞鍋監督となり、本書著者の渡辺氏がアナリストとして全権を担うようになってから、全日本女子は驚くほど進化したのである。

 

 

それが結果として現れたのが、2010年の世界選手権での32年ぶりのメダル(銅)であり、そして続く2012年の北京五輪での28年ぶりの銅メダルだったのである。その快挙を裏方として支えたアナリスト渡辺氏が著した本書は、女子バレーの現場でいまどんな改革が進められているのかを知るのに格好の一冊と言えるだろう。

 

具体的な仕事ぶりを紹介しているため、「アナリスト」という肩書きだけでは分からない、実際にやっていることが非常によく分かる。例えば、バレーの世界では Data Volley というソフトがあり、これが北京五輪24チーム中22チームが使用するほどの業界スタンダードとなっている、ということらしい。そしてアナリストの仕事は、このソフトを使って、まずは各試合のデータを各選手の動きをなるべく細かく正確に(まるで速記のように)入力すること。続いてそこから相手チームの弱みを見出し、一方では日本側の弱点を補強するべく、監督に分析結果と提言をするのである。

 

しかも、これら全てが試合と同時進行で行われているのだ。つまり、両チームのアナリストは試合コート脇の特別席に陣取って、試合映像(カメラは自ら設置するため場所取り合戦ともなるそうだ)を見ながらPCを叩き、監督席にいるチーム監督と通話しながら次の戦術の一手を考えていく、という一連のプロセスとなっているのである。

 

もちろん、データを蓄積して試合後の反省に活かす、次の対戦相手を知るために過去のデータを分析する、もちろんそういう使い方もされている。しかしバレーボールにおいては、試合とリアルタイムでデータが入力され分析されそして戦略に活かされており、そのスピード感はデータ・スポーツの代表である野球とは比べ物にならないくらいに早い。

 

volley-ball

(Photo by Pierre-Yves Beaudouin / Wikimedia Commons / CC-BY-SA-3.0)

 

まさかバレーボールがこんなにも変化していたなんて、そして一段と進化したチーム同士が世界で戦っていたなんて、今までまったく思いもよらなかった。根性とガッツと練習量、が消えてなくなったわけではないだろう。しかしそれに加えて、データを最大限に活用した戦いへと様変わりしていたのだ。そういうスポーツの最先端を知るという意味でも、大変に興味深く読んだ一冊なのである。全日本女子バレーが次の五輪に出場できるかは極めて厳しい情勢だ。しかしそれでも、さらなる進化を応援するためにも、いま読んでおきたい書籍だとおすすめしたい。

 

データ・スポーツといえば伝統的に野球でありメジャーリーグであった。そして最近はご存知の通り、サッカーの世界でも一気にデータ活用が進んできている。しかしどうやらバレーボールの世界でも、それに負けず劣らずの変化が訪れていたということなのだ。スポーツがますます面白い。

(参考)

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

事実は小説より奇なり|大人が味わうノンフィクション

先日おすすめした『10代のための読書地図』と同じブックガイドでありながら、そのテイストが大幅に異なる

記事を読む

イェール大学出版局 リトル・ヒストリー|若い読者のための「文学史」のすすめ

以前にも「イェール大学出版局『リトル・ヒストリー』は初学者に優しい各学問分野の歴史解説」で紹介したよ

記事を読む

container boxes

プロフェッショナルのコンテナ物語

昨晩ひさしぶりにNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀 』を見た。「港のエース、ガンマンの絆」と題

記事を読む

ヨーロッパ各国サッカーリーグ開幕:データ革命の時代

さて、いよいよ開幕したヨーロッパ各国のサッカーリーグ。ハメス・ロドリゲスがレアルに移籍し、香川真司は

記事を読む

2020年、本ブログで最も売れたこの1冊

さて、2020年、本ブログ経由でもっとも購入数が多かったのは、なんと、なんと、新明解国語辞典でした!

記事を読む

錦織圭のウィンブルドンテニス2019|好調を維持したままベスト8進出

錦織圭が今年もウィンブルドンでベストエイト進出を決めた。しかも、これまでの試合で失ったセットは一つの

記事を読む

錦織圭の全豪オープンテニスをデータ観戦しながら応援しよう|IBMのSLAMTRACKERが面白い

現代において、スポーツ選手がデータ活用するのはもはや当たり前と言えよう。そしてそれはもちろん監督やコ

記事を読む

言葉にできない、そんな夜。|その気持ち、言葉のプロならどう表現する?

気持ちが揺れ動いたあの瞬間。表現したいのにボキャブラリーが追いつかない!言葉のプロの脳内を通したら、

記事を読む

日本人の氏名はなぜこんなにも多種多様にして複雑怪奇なのか?

日本人はなぜにこんなにも自分の名前や家族のルーツに興味津々なのだろうか? NHKの番組だけ取り上げて

記事を読む

puma

スポーツの統計学|データ・サイエンティストたちのゲーム分析

スポーツ界に広がるデータ革命 これまで何度か書いてきたように、スポーツとデータというのはとても相性

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑